第一章 18 『みんなの憧れ、ルナ』


☆お知らせ☆




次話→2/28公開予定です。



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「周様!!!!!」


「あぁ、おはよう、心。」


「えぇ、おはようございます……じゃなくて!どなたですの!その女性は!」


 校舎に飛鳥達が入ったところでやってきた、心と呼ばれた女生徒は涙目になりそうなのを必死に堪えながら周に問う。


「あっ!思い出した!あなた確か、生徒会室の前で会った…」


「貴方!昨日の新入生ですわね!?」


 飛鳥が声をあげたことによって顔を認識したのか、その女生徒も飛鳥のことを思い出す。


「周様には、貴方みたいな人に割く時間はないとお伝えしませんでした!?それなのに、どうして朝から一緒に登校してらっしゃるの!?それどころか手を繋いで!銀色のネクタイまで!何を考えていらっしゃるの!?」


「いや、あの、えっと…」


「心、彼女に詰め寄るのは違うだろ。僕に質問があって来たんじゃなかったのかい?」


 詰め寄られてあたふたしている飛鳥をかばうように、周が2人の間に入る。


「あ、周様…、すみません。少々取り乱し過ぎましたわ…」


 周が間に入ることによって、女生徒は一度深呼吸をして落ち着きを取り戻した。


「では、改めてお聞きしますわ。周様、そのお方はなんですの?」


「紹介するよ。彼女は、鬼武飛鳥。僕の『彼女』だ。」


 周が飛鳥のことを彼女と宣言した瞬間、周りで聞き耳を立てていた女生徒達が一斉に崩れ落ちた。

 質問をした女生徒も崩れ落ちかけたが、かろうじてまだ踏み留まっている。


「それで、周様はその方を様にいたしますの…?」


「あぁ、そのつもりだ。」


 その言葉が決定打となったのか、女生徒の目には大粒の涙が浮かんでいた。

 一方飛鳥はルナ様がなんのことだかわからず、ピンとこないでいた。



「飛鳥さん!」


「は、はいっ!」


 泣いていたと思った女生徒から突然声をかけられ、飛鳥はつい大声で返事をしてしまう。


「ルナ様になるからには、それに相応しい行いをしてくださいませ!もし、相応しくないと思った際には、私は容赦なく貴方を周様から引き離しますわ!今日のところはこれで引き下がりますわー!!!」


 叫ぶだけ叫び、女生徒はその場から立ち去っていった。ちなみに、立ち去る直前、周にはきちんと頭を下げている。


 飛鳥は勢いに押され、ぼーっと立ち尽くすことしかできなかった。

 すると、周が飛鳥に耳打ちしてくる。


「少し騒ぎがでかくなりすぎた。一旦生徒会室に行くよ。」


 飛鳥がうなずく間もなく、周は飛鳥の手を引いて生徒会室を目指すのだった。




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「いやー、すごかった。俺の予想してた以上の反響だった。」


 生徒会室に入ると、何人かが作業をしていた。しかし、それをスルーし、生徒会長だけが入れる部屋に飛鳥と周は進んだ。

 その部屋に入った瞬間に、周の『僕』モードが崩れ、『俺』モードに切り替わる。


「あの、色々と説明してほしいことがあるんだけど。」


「なに?」


「まず、あの心さんって一体何者なの?」


「心は俺の隣の家に住んでるいわゆる幼なじみってとこかな。名前は早乙女心さおとめこころで、学年は飛鳥と一緒だね。確かB組って言ってたから、隣の組か。」


「幼なじみ…」


「そう。あとは、俺のファンクラブ会長でもある。」


「会長!?なんで新入生が会長してるの!?」


「いや、そもそもファンクラブの発足人が心だからね。俺が高校に入ると同時に「作りますわ!」って言い出して、いつの間にか生徒会室の横に部屋があったんだよ。」


「な、なんでそんなことできるの…」


「飛鳥、入学式のとき、理事長挨拶聞いてた?」


「へ?理事長って、早乙女…え!?そういうこと!?」


「そう。心は、この学校の理事長の孫なんだよ。理事長をしてるのは、心のお祖父さん。そのお祖父さん、孫溺愛でね。心の言うことなら大抵のことは叶えてあげちゃうわけ。」


「だ、だからといって、そんな部屋を作ることが許されるなんて…」


「そうだね。心1人だけだったら無理だろうね。でも、ファンクラブのメンバーが集まりすぎてしまった。俺も罪な男だよ。」


「そういうこと普通自分で言う?」


「事実だから仕方ない。ファンクラブ発足の署名が集まりすぎてしまったから、心のお祖父さんも許可を出したんだろう。でもまぁ、見てわかる通り、俺には少し気が休まらないんだよね。」


「そりゃあ、あれじゃあねぇ…」


「だから、本当に飛鳥がいてくれてよかった。」


 そういって周は飛鳥に微笑みかける。


 2人きりでの、このセリフ。飛鳥の脳内では別の男性でも再現されていた。例によって、『ときスク』の功刀先輩である。


(功刀先輩に言われたときもドキッとしたけど、周のは破壊力が違いすぎる…っ)


 飛鳥はドキドキしてるのがバレないように、平静を装いながら話題を変える。



「そ、そうだっ!もう一つ聞きたかったの!さっき早乙女さんが言ってた『ルナ様』ってなに?」


「それは、生徒会長の彼女に与えられた役職ってところかな?一応生徒会役員の一員になるんだよ、飛鳥は。」


「え、聞いてないんだけど。」


「言ってなかったからねぇ。まぁ、特別なことはないよ。ルナの役目は、生徒会長補佐。つまり、俺のお世話係みたいなものかな?」


「なんで私がそんなことしなきゃならないの!」


「いやいや、あくまでそういうものっていう説明だから。別にお世話なんてしてくれなくても大丈夫。いや、どうしてもしたいっていうなら話は別だけど。」


「しませんっ!」


 ニヤニヤしながら見てくる周に、必死で抵抗する飛鳥。とりあえず、特別なやることはないとわかり一安心する。


「飛鳥は、基本的に俺の隣でニコニコしてくれるだけでいいよ。集会のときの挨拶とか、会議のときとか、ね。」


「え、そんなとこまで出なきゃならないの?」


「それがルナの役目だからね。一応みんなから憧れの役職なんだよ?ルナは、実質生徒会長の彼女じゃなきゃなれない役職だからさ。」


「それもそうか…」


「ちなみに、ルナになると色々な権限が与えられる。生徒会専用書庫の利用許可、学校のマスターキー利用許可、一部大学施設の利用許可とかね。そして、その最たるものが、この部屋に入る許可かな。この部屋、生徒会長とルナしか入れない完全防音室なんだよ。なんと奥にはバス・トイレ付き。」


 そういって周が指差す方向には、ガラス張りのお風呂があった。



 一気に色々な情報を与えられ、飛鳥の頭は軽くパニックになっていた。

 すると、突然周が飛鳥を後ろから抱きしめ囁く。


「そんなにお風呂をじーっと見つめちゃって…。後で一緒に入る?」


「は、入らないっ!」


「ふふっ、冗談だよ。耳まで赤くしちゃってかわいいねぇ。」


(さっきからからかわれてる…っ)


「とにかく、なにかあったらこの部屋に逃げ込めば大丈夫。その銀色のネクタイが鍵代わりになってるからね。なくしちゃダメだよ?」


 この銀色のネクタイにそんな機能があったのかと驚く飛鳥。返事をする代わりに、こくんこくんと首を縦に振る。


「じゃあ、ここまででひとまず解散にしようか。授業もあることだし、また後でね。」


 そういって、周は飛鳥を部屋に残し先に出ていった。

 飛鳥も出ていこうとしたが、教室でどんな反応が待っているかと思うと、足取りが重くなるのだった。



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