第一章 17 『スパダリ、周』


☆お知らせ☆




次話→2/14公開予定です。



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「あーーー、なんっにも仕事進まなかった…」


 いつもならこのくらいの時間があれば、一仕事を終えることができるのに、今日の飛鳥は手が止まりまくりだった。


「まぁ、いいや。ログインできる時間になったし、続きしよ、続き。」


 仕事は今日は本来やる予定はなかったのだ。そのため、別に進まなくてもなんの問題もない。そんなことより、ゲームの続きのほうが今の飛鳥にとっては重要だった。


「今度は初めて指示がでるはず!最初の指示はなんだろなー。」


 ご飯とトイレを済ませた飛鳥は、そのままゲームの世界にダイブするのだった。





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ピピピピッ ピピピピッ



「ハッ!」


 やっぱりログインすると、げ〜むで〜たを選ぶ画面が出てきたのだが、グリュック編同様表記変更があった。学校編からSSH編になっていたのだ。

指示書の中でガブリエルがそう言っていたので、飛鳥はなんとなく変わるのだろうなと思っていた。


 そして、迷いなくSSH編に入ると、突然強烈な睡魔に襲われた。


 再び意識が戻ったときには、目覚ましが鳴っていて、ゲームの中の飛鳥の部屋にいた、というわけだ。


(多分、SSH編は毎回起きるところから始まる、ってことかな?にしても、わざわざ強制的に眠らせなくてもいいんじゃ…)


 飛鳥はまだなんとなく眠たい目を擦りながら、早速机の上に置いてあった指示書『月刊T.D 4月号』を開いた。

 すると、この前は何も書かれていなかった白紙のページに文章が書かれていた。




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4月6日



朝から行動を共にする2人。

そこに忍び寄る人物。

1年に渡る三角関係が始まる。


あなたはライバルに『宣言』をする。



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「んんんんんんんん?」


 指示を読んだ飛鳥は戸惑った。もっと具体的な指示が来ると思っていたのに、指示自体の明確な内容が書かれていない。


(『宣言』ってなに?何を宣言すればいいの?さっぱりわかんないじゃん。)


 少しの間考えた飛鳥だったが、学校に遅れてもいけないと思い、支度を始める。部屋から出て下に降りると、いつものように弥生が朝ごはんを準備してくれていた。


「飛鳥、おはよう。」


「おはよう、お母さん!」


「おはよ、飛鳥。」


「周もおはよ……って、周!?」


「どうも。」


 飛鳥はまだ自分が寝ぼけているのかと目をこするが、何度やってもが消えることはなかった。なんと、飛鳥の家の食卓に、さもいるのが当たり前と言わんばかりに馴染みきった周が座っていたのだ。


「なんで家の中にいるの!?」


「あー…それは…」


「お母さんがいれたのーっ!もう、飛鳥ったら!彼氏ができたならできたって教えてよねー!こーんなにかっこいい子ゲットするなんて!」


 話を聞くと、周が飛鳥の家に少し早く着き過ぎたらしく、外で待っているところを弥生に見つかったらしい。弥生があまりにもイケメンだったので、話しかけてみると、なんと娘の彼氏だと言う。そこで、さっそく家の中に招待したというわけだ。


「いきなりすみません、お母さん。本当はもっと早くご挨拶に伺おうと思っていたのですが、飛鳥さんが恥ずかしがって…」


「キャー!お母さんだって!いいのいいの!そんなの気にしないで!あ、お父さんにはまだ内緒にしておくわね!どうせお父さんこの時間にはもういないんだからっ!ばれないばれない!だから、毎朝でもあがっていってね!」


「お母さんっ!!!!浮かれすぎっ!!!恥ずかしいからやめて!!!」


 あくまでゲームの中の母だというのに、現実でも彼氏ができたらきっとこうだったのだろうなと、簡単に想像できてしまうので恐ろしい再限度である。

 そして、しれっと『僕』モードになっているあたり、さすがの周であった。


「もー、飛鳥ってば恥ずかしがり屋さんなんだから。でも、そこがまたかわいいのよ。ねー、周くんっ。」


「ふふっ、そうですね。」


「んもー!聞いた!?飛鳥!否定しないだなんて、ほんとイケメンなんだからー!」


 弥生に同意して微笑む周に思わずドキッとしてしまった飛鳥だったが、あくまで社交辞令だと冷静さを取り戻す。



「あぁ、ちゃんとつけてくれたんだね。よかった。つけてくれないんじゃないかって心配だったんだ。」


 周は、飛鳥の胸元の銀色のネクタイを指差しながら微笑む。


「こっ!これは…!他にネクタイないし、仕方なく…」


「仕方なく…?」


「いや!ごめんね!?周の彼女の印だもんね!嬉しいに決まってる!」


 飛鳥は、『僕』モードだから本気ではないとわかっていながらも、その顔でしょぼんとされると動揺を隠せなくなる。

 イケメンの悲しそうな顔はズルい。すべてを許してしまいそうになってしまう。


「だよね。僕も、飛鳥が僕のものだって知らせることができて嬉しいよ。」


「……ソウダネー。」


 今日学校に行ったら、間違いなく飛鳥が周と付き合っていることはバレる。銀色のネクタイをつけているということはそういうことなのだから。


 昨日の様子からして、飛鳥はこの上なく不安だった。最低でもファンクラブには絡まれることになるだろう。

 合わせて指示書の内容。確実に強力なライバルが現れることになっている。


(私、学校生活穏便に過ごせるの…?)




 食べたような気がしない朝食を終え、周と共に学校に向かう。


 最初は周の後ろについていく形だったが、いつの間にか周が飛鳥の隣を歩いていた。それもだ。


(すごい…。完璧な位置取り…。こんなの彼氏じゃん…。いや、彼氏なんだけど…)


 しかし、周はイケメンなので、街ゆく人の視線を集めている。

 それと同時に、その隣を歩く飛鳥にも当然目が向けられる。その中には、敵意にも似た視線もあり、飛鳥は生きた心地がしなかった。


「飛鳥?大丈夫?なんか顔色悪いけど…」


「う、うん、大丈夫。イケメンってすごいんだなとひしひしと実感しているところ…」


「あー、なるほど?」


 周は少し考え込むと、いきなり飛鳥の右手を掴んで、恋人つなぎで歩き始めた。


「なっ!?いきなりなんで!?」


 飛鳥が突然の手繋ぎに驚いていると、周が耳元で囁く。


「だってほら、周りの視線が気になってたんでしょ?お前何様だーみたいな。だったら、こうやって手を繫いどけば、ちゃんと恋人だよーってわかってもらえるでしょ?」


 顔を離して、「ね?」と言わんばかりにウインクをしてくる周。

 そのあまりのイケメンぶりに一瞬思考が停止しかけたが、飛鳥は首を振って正気を取り戻す。


(違う、そうじゃない、そうじゃないんだ、愛月周…!でも、もうこれはこれでいいやー。)


 飛鳥に向けられる視線はより一層厳しくなった気もしたが、周の手から伝わる熱が飛鳥の判断力を鈍らせた。



 学校までの道のり、周の彼氏力はかなり高かった。

 道路を歩けば車道側を歩き、満員電車でも飛鳥をかばう形で立ち、飛鳥が段差に躓き転びそうになれば咄嗟に抱えてくれる。


(まさに全女子の理想の彼氏…!)



 学校に近づくにつれ、飛鳥の銀色のネクタイを見て倒れるような女生徒も出てきた。

 それほどまでに周の人気は凄まじかったし、銀色のネクタイの意味を知っている生徒は多かった。





 そして、校舎に入ったところで1人の女生徒が現れる。




この女生徒こそが、飛鳥のだった。



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