第一章 16 『True Daling、恐ろしい子ッ!』


☆お知らせ☆




次話→1/24公開予定です。



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 ログアウトした飛鳥は、ゲームの世界から抜け出し、自分の部屋で起き上がった。一瞬、またゲームの中の世界ではないかと疑ったが、壁に制服がかかっているということはなかった。


 時計を見ると、だいたい午後3時。ゲームの中では登校から下校までを行ったというのにこの時間とは、本当に進む時間が違うらしい。



「にしても、昨日今日と少しやっただけだけど、すごい濃いな、『True Daling』。時間があっという間に過ぎていっちゃう。これはずっとあっちの世界にいたくなる気持ちもわかるわ。」


 現実に戻ってこられなくなるという口コミに納得しつつも、これだけハマっている飛鳥がまだゲームだと割り切れていたのは、2つの世界を攻略しなくてはならないからだろう。

 これがどちらか1つの世界だけだったら危なかったかもしれない。異世界編はともかく、学校編だけだった場合、現実と本当に大差ないのだ。選択肢の出てこない会話、本当に生きているような登場人物たち、全てがリアルすぎるのだ。




「SSH編は、指示書が指定した日ができるって話だったはずだけど、次はいつできるんだろ…?確か、アプリでチェックできるんだっけ。」


 飛鳥は携帯を開き、アプリを見てみる。すると、アプリのホーム画面にはグリュック編とSSH編と書かれていて、それぞれの下のスペースで、次回のログイン可能までの時間がカウントダウンされていた。


「グリュックはさっき見た通り、まだまだ先か。SSHは、5時間半くらいってとこね。あー、早くやりたーい!続きが気になりすぎるー!」


 飛鳥は、乙女ゲーをやるときは、いつも部屋に缶詰めになって何日も徹夜して一気にやるタイプだ。ゲームにどっぷりとハマりこみ、続きが気になって仕方が無くなってしまう。

 ここが頼の心配するポイントでもあるのだが、飛鳥は改めようとは思っていない。


 しかし、この『True Daling』は強制的にログインできない仕様になっている。ゲームをやれば濃すぎる時間を提供され、かと思えば、ログインできない時間が強制的に発生する。

 これで夢中にならない人がいたら見てみたいものだと飛鳥は思う。


「うーん、どうしようかなぁ。なにしようかなぁ。またカナのとこ行くのもなぁ…。もう子供帰って来ちゃってるだろうしなぁ。」



ピロンッ


 飛鳥が悩んでいると、アプリからの通知が入る。見てみると、周とソウ、2人からのメッセージが入っていた。


 ソウからの方は、件の場所に到着したこと、そして離れてしまったことへの謝罪が書いてあった。意外とまめな一面に飛鳥は思わず笑みが零れる。


 そして、周の方からはこうだった。


『ねぇ』


 たった一言。一言のみが送られてきていた。今までソウからのメッセージがそれなりにきちんとした文章で送られてきていたから、飛鳥は一瞬呆けてしまった。


(こ、こういうメッセージもあるのか。考えてみれば当たり前か。これって何通かやりとりできるってことだよね?)


 とりあえず、ソウに了解のメッセージを送り、周にも『どうしたの?』と送る。

すると、すぐに周から返信が来た。


『飛鳥の家ってどの辺なの?』


『学校から電車で40分くらいのとこだよ』


『最寄り駅は?』


燈籠町とうろうちょう駅。わかる?』


『わかる。というか、俺も同じ駅だし』


『えっ!そうなの?もしかして家近い?』


『俺の家は、燈籠町駅から歩いて5分くらいの丸池まるいけ公園の近く』


『すごっ!私の家も丸池公園の近くだよ!?』


『じゃあ、やっぱりあそこの鬼武って、飛鳥の家だったわけね』


『知ってたの?』


『たまたま家に帰ってるときに見つけた。じゃあ、明日の朝から飛鳥の家に迎えに行くから』


『え!?』


『なんで驚くの。付き合ってんだから当たり前でしょ』


『いや、だって、偽恋人だし、そこまでやるんだって思って…』


『言ったでしょ?付き合うからにはめちゃくちゃ大切にするって』


 周はてっきり自分のことを都合よく利用するだけだと思っていた飛鳥は、意外な一面に驚いた。確かにそうは言っていたが、学校の間だけの関係だと思っていたのだ。


『でも、家まで来ちゃったら、うちの家族とかに見つかってめんどくさいかも…』


『別にいいでしょ。実際付き合ってるわけだし。問題ある?』


『えっと、周は嫌じゃないの?私の恋人と思われても』


『嫌だったらそもそもお願いしてないよ』


 恋愛感情はないとわかっているのに、こんなことをさらっと言われては、愛されているのではないかと錯覚してしまいそうになる。



『それともなに?もう俺に惚れちゃった?』


『違います!』


『なら問題ないね。7時45分くらいに行くから。寝坊するなよ』


『頑張ります…』


『じゃあ、また明日』


『また明日ー』


『あ、1つ言い忘れてた』


『??』


『飛鳥、好きだよ』


『なんちゃって。じゃあね』


 飛鳥は、見事に悶死した。不意打ち過ぎた。携帯を握りしめたまま、ゴロゴロと転がる。決して『True Daling』を舐めていたわけではない。しかし、この破壊力。


(『True Daling』、恐ろしい子ッ!)


 顔が火照ってしょうがない飛鳥は、一旦冷静になるために次のログインまでの時間は仕事をすることにした。




 飛鳥は、大学卒業後、一般の会社に入社するも、人間関係に疲れて、在宅ワークに切り替えた。そのため、自分の都合のいい時に仕事ができるのだ。


(こんな強敵、一体どうやって落としたらいいんだ…)


 話し始めたときから、周にはずっと振り回されっぱなしだ。でも、嫌な感じはしない。それが飛鳥には不思議でたまらなかった。


(好きになってるのがばれたらどうなるのかな…。やっぱり別れることになる?)


 仕事をしていても、考えるのは周のことばかり。何度も手が止まってしまう。


「あっ!そうだった!頼にお礼言っとかなきゃ!」


 飛鳥は、周のことを振り切るために別のことを考えた結果、頼にサンドイッチをもらったことを思い出した。そのまま携帯を開き、頼にお礼のメッセージを送っておく。


 頼からの返信はいつも早い。今日も例に漏れずすぐに返信が来た。


『どういたしまして。飛鳥のうまそうに食べてる顔を見たかったけど、少し用事があってさ。おいしく食べてくれたならよかったよ。今度は一緒に食べに行こうな』


(あーーーー、頼っ!ほんとにこいつはっ!!!)


 頼のことを吹っ切れていない飛鳥は、頼からのメッセージに悶える。それまで周のことで頭の中がいっぱいだったのに、一瞬で頼に持っていかれた。やはり長年の想い人の破壊力はすさまじいということだろう。



 結局、周と頼によって飛鳥の集中力は乱されまくり、仕事どころではないのだった。



 そして、時間はあっという間に過ぎ、再びSSH編にログインできる時間になる。



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