第一章 15 『怪しい本、到着』
☆お知らせ☆
次話→1/10公開予定です。
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飛鳥が周の手を取ったあと、周から様々な提案をされた。
「いい?俺と付き合うからには敬語禁止。付き合ってるのに敬語とか怪しまれる。」
「は、はい。」
「はい?」
「うんっ!!」
周から「話を聞いてなかったの?」と言わんばかりの視線を向けられ、焦って訂正。
飛鳥は、すっかりと周のペースに巻き込まれている。
「あと、他の人の前では学校の秩序を守るために俺はあくまで『僕』でいなくちゃいけない。だから、君は……」
「あ、飛鳥っ!」
「ん?」
「さっきから聞いていれば、君、君って……私にもちゃんと名前があるの!仮にも付き合うのなら、ちゃんと名前で呼んでほしい、です…」
飛鳥が意見してきたことに驚きの表情を隠せない周。しかし、その表情もすぐになくなり笑い始める。
「ふふっ、やっぱり面白い。そうだね、ちゃんと名前で呼ばないと失礼だ。」
そして、周は、改めて飛鳥の目をまっすぐ見つめると
「飛鳥」
と、とても柔らかい声色で呼んだ。
本当に恋愛感情がないのかと疑いたくなるくらい甘い呼びかけ。飛鳥がときめかないわけがない。
(こ、この人、相手に自分をどう見せればいいのかを、ちゃんと理解してらっしゃる…!)
さっきから怒ったりドキドキしたりと、飛鳥の感情はジェットコースターのようだ。こんなにもリアルな乙女ゲーがあっただろうか。
もし、あのとき校舎裏に行かなかったら。
もし、あのとき携帯を落とさなかったら。
もし、あのとき手を取らなかったら。
いくつもの偶然が重なって今がある。
こんなものゲーム側が予測なんてできるわけがない。本当にどうやってルート分岐しているのだろうか。
そんなことを考えていないと、平静を保っていられないくらい飛鳥はドキドキしていた。
「ーーーで、飛鳥?聞いてる?」
「う、うんっ!聞いてる聞いてる!周の裏の顔と、この関係の真実はバラさない、でいいんだよね?」
「そう、俺たちだけの秘密、ね。」
周が、人差し指を口に当て、内緒のポーズをとる。それが悔しいくらい絵になっていて、思わず飛鳥は見惚れてしまう。
「刺激的な毎日にしてあげる。心配しないで。なにがあっても、飛鳥のことは離さないから。」
飛鳥はその言葉になにかひっかかりを覚えたが、次の言葉にそれは流されてしまう。
「そうそう。最後に1つ。」
「絶対に俺には惚れるなよ。」
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「どういうことなの!?乙女ゲーで惚れるの禁止にされるってあり得る!?そんなの無理でしょ!?周のバカー!!」
学校から帰ってきて自分の部屋に着いた飛鳥は、ベッドにダイブして枕に顔を埋めながら叫んだ。
「ていうか、すごい展開だった…。なんだこれ。実感湧かない…」
胸につけられた銀色のネクタイを眺めながら、一連の流れを思い返す。
周はどう考えても飛鳥の理想の相手、つまり攻略対象だろう。しかし、偽の恋人に任命され、終いには惚れるなと釘を刺された。
周が惚れるなと言ったのは、なにか理由があるのだろう。それこそ、乙女ゲーの定番で言えば、過去に好きだった女にこっぴどく振られたトラウマだとか、家柄的に付き合うと苦労させてしまうだとかが挙げられるかもしれない。
恋愛に本気になれない理由を見つけない限り、周が本当の意味で飛鳥に心を開いてくれることはないのだろう。
(にしても、今日1日学校に行ってみたけど、この世界での目標はさっぱりわかんなかったなぁ…)
飛鳥は、この世界の達成しなくてはならない目標も、今日の学校生活で探していた。
グリュック編では、最初にデス婆が目標説明をしてくれた。しかし、こちらの世界ではそのようなことがなかったのだ。
(先生とかから説明あるかと思ったけど、あてが外れたなぁ…。目標わからないとどう頑張っていいかわかんないよねぇ。)
コンコン
「飛鳥?起きてる?」
飛鳥がどうするか悩んでいたところに、部屋に入ってきたのは母の弥生だった。
「どしたの?」
「ほら、飛鳥宛の小包が届いてたわよ。」
「え、なんだろ?」
「ちゃんと渡したからね。中身確認したら降りてきなさい。ご飯食べましょ。」
「わかったー。」
小包を飛鳥に渡すと、弥生は再び下へと降りていった。
小包の差出人の欄には、「教会」とだけ書かれていた。そこで飛鳥はピンとくる。
「もしかして…!」
小包の包装を開けると、中からスケジュール帳くらいの大きさの1冊の本が出てきた。表紙には『月刊T.D 4月号』と書かれている。
表紙をめくった最初のページには、「はじめに」があった。
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はじめに
この度は、学校編、改めSSH編のプレイ開始おめでとうございます。
飛鳥様の新たな船出に幸多かれと祈っています。
本日はいかがでしたでしょうか?
初めてのことばかりでとまどいもあったのではないでしょうか。
しかし、飛鳥様なら乗り越えていけるはずです。
頑張ってください。
さて、早速ですが本題に入らせていただきます。
まず、この本についてです。
この本は、わかりやすく言うと「指示書」でございます。
この本が飛鳥様に、「○月×日にどのような行動をしろ」と指示を出すのです。
飛鳥様には、その指示に必ず従ってもらいます。
それがこの世界のルール。
指示は1日の始まりに必ず出ますので、チェックするように心がけてください。
また、時々1日の途中で指示が出ることもございます。
そのため、こちらの指示書は常に持ち歩くようよろしくお願い致します。
なお、現実世界では、携帯アプリにて指示のチェックが可能となっております。
次に、ゲーム内の時間についてです。
こちらの世界では、現実の時間と対応しておりません。
基本的には現実時間の3倍速で進んでいるとお考えください。
3倍速で進んでいると言っても、実際にゲーム内で体感する時間は、現実世界のソレと変わりありませんのでご安心して頂ければと思います。
また、学校生活を毎日エンジョイできるというわけではありません。
指示書が指定した日だけをプレイして頂くという形になります。
最後に、この世界での目標です。
この世界での目標は、『1年間の学校生活を通して、各キャラの悩みを解決し、卒業式に告白。みんなから祝福されること』です。
この各キャラが誰かというところも、指示書が教えてくれるはずです。
それでは、長くなってしまいましたが、ステキな学園生活をエンジョイしてくださいね。
私はいつでも飛鳥様のことを見守っています。
ガブリエル
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「やっぱりガブリエルさんだ!」
チュートリアルのときに、ガブリエルが教会に行けば自分に会えると言っていたのを、飛鳥は思い出したのだ。
きちんと目標が提示されたのに安堵しながら、一方でその目標の難しさに不安になる。
「みんなから祝福されることってかなり難しくない?あー、珠集めて魔王封印する方がまだ簡単に思えるよ…」
「はじめに」が書かれているページをめくってみると、後ろのページは全部白紙だった。きっとここに指示が書かれていくということなのだろう。
「ってことは、今日はもうできることないのか。んー、じゃあ、ログアウトしようかな。」
こうして、飛鳥の学校編、もといSSH編の初日が終了したのだった。
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