第一章 14 『携帯電話、返却』
☆お知らせ☆
次話→12/20公開予定です。
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(なにがどうしてこうなった…)
生徒会室に通された飛鳥は、何故か周と向かい合って座り、お茶会のようなことをしていた。
周は特に何かを喋るということもなく、ニコニコとお茶を飲みながら飛鳥を眺めている。なんでこうしてお茶を飲んでいるのか、どうして私の名前を知っているのかなど色々と聞きたかったが、聞ける雰囲気でもない。
「えっと、あの……そう!携帯!拾ってくださったんですよね!」
「うん?なんのこと?」
飛鳥が勇気を出して話題を出してみるも、周はあくまでしらばっくれている。何故なら、机の上にはきちんと飛鳥の携帯電話が置かれているのだ。
そして、目で「他になにか言うことあるだろ」と訴えてきているのもわかる。
「………新入生と間違えて申し訳ございませんでした…」
「ふふっ、そんなに俺は幼く見えたかな?」
「いやっ!そういうわけでは、ないこともないというかなんというか…」
「まぁ、きちんと謝ってくれたしいいよ。水に流そう。」
「ありがとうございますっ!じゃあ、携帯を返していただけるんですね!」
「それはまだダメ。」
そういって、周は飛鳥の携帯を自分の胸ポケットにストンといれてしまう。
「お茶もまだたくさん残っているだろう?もう少しお話しようよ。」
にこやかに周は話しかけてくるが、飛鳥はこれ以上ここにいるとなにかよくないことが起きる気がしていた。
そのため、飛鳥はその場で残っていたお茶を一気に飲み干す。
「すみません!せっかく拾ってもらったのに、こんなこと言うのもあれなんですが!急いでいるので、返していただいてもよろしいでしょうか!お礼はまた後日いたしますので!」
「お礼だなんてとんでもない。でも、そうだなぁ。せっかくそう言ってくれるのなら、1つお願いしようかなぁ。」
「お願い?」
「俺の彼女になって。」
「……………はい?」
飛鳥は一瞬何を言われたのかが理解できなかった。乙女ゲーの序盤も序盤で逆告白されたのだ。なんなら、これで飛鳥がYESと答えたらおしまいにでもなるのではなかろうか。
そんなことを考えながら飛鳥が固まっていると、突然周が吹き出して笑い始めた。
「…え?え?」
「ごめんごめんっ。反応が面白くてついっ。」
「からかったんですね!?」
「半分はそうかな?でも、半分は本気。彼女って言っても、彼女(仮)って感じだけど。」
周からの説明はこうだ。
この学校の生徒会長は、毎年誰か1人パートナーを見つけて行動を共にする慣習があるらしい。
周も例に倣ってパートナーを探していたのだが、ピンとくる人がいなかった。パートナーがいない状態だと、毎日毎日言い寄ってくる人が後を立たなくてうんざりし始めていたと。
そこへちょうどよく面白そうな飛鳥がやってきて、
つまり、恋愛感情とかはないけど、人避けになんちゃって恋人になってよというわけだ。
「で、どうかな?」
「いや、どうと言われましても。生徒会長のパートナーの座に興味はないといいますか、愛月さんのファンの方たちを差し置いて、その座につくのはいかがなものかと。」
「君は馬鹿なの?」
「ばっ!?」
「俺に興味がないから俺の気が楽なんでしょ。ファンの子たちをパートナーにしてしまったら、それこそ戦争が起きる。これは断言できるね。」
「……愛月さんって、二重人格なんですか?」
「ん?どうして?」
「だって、入学式のときとか、さっきのファンの子への対応とか、そのときに見せてた顔と、今の顔大分違います。一人称も僕から俺になってますし。」
「二重人格だなんてとんでもない。TPOをわきまえてるだけだよ。それで?どうする?……といっても、君に選択権はないと思うけど。」
そう言いながら、周は自分の胸ポケットをトントンと指で叩く。暗に承諾しないとこれを返さないと言っているのだ。
「あ、悪魔っ!」
「ふふっ、この学校生活でそんなこと言われたの初めてだよ。やっぱり君は他の人と違うね。」
(なんでだろう…。乙女ゲーで王道のセリフ言われてるはずなのに、何故か魔王感が…)
「じゃあ、こうしよう。僕の胸ポケットから君が自分で携帯を取れば、今すぐ返してあげる。どう?簡単でしょう?」
要求は確かに簡単。しかし、飛鳥は得体の知れない不安を体中で感じていた。
「ほ、ほんとに返してくれるんですか?」
「もちろん。僕は嘘はつかないよ。」
「じゃ、じゃあ、失礼しま…すっ!?」
飛鳥が周の胸ポケットから携帯を取ろうと近づいた瞬間、周にグイッと腕を引っ張られそのまま彼の胸の中に収められてしまう。
「なっ、にを!?」
「んー?捕獲?」
飛鳥は必死に抵抗を試みるも、その容姿にそぐわないほどの力強さで離してもらえない。
制服のネクタイを外され、(もうダメだ…!)と思い、飛鳥が目を閉じた次の瞬間には、あっさりと解放されたのだった。
「へ?」
「なーに?そんなマヌケな顔して。物足りなかったの?そのまま襲ってほしかった?」
「いやっ!そんなことはっ!」
「ほーら、ちゃんと取らなきゃだめでしょ。はい、どーぞ。」
飛鳥の手を握るように携帯を返してくれた周。本当に約束は守られたらしかった。
しかし、先程ネクタイを外されたと思ったのは真実だったらしく、現に周の首には飛鳥のネクタイがかかっている。
「あのっ、ネクタイ!返してもらえませんか!?それがないと明日から困りますし。」
「いやいや、よく見て?ネクタイついてるでしょ?」
そう言われて自分の体を見ると、確かについていたのだ。銀色のネクタイが。
「は!?なんですかこれ!!」
「簡単に言えば、俺のモノって証かな。」
周はびっくりするくらいいい笑顔で、とんでもないことを言い出した。
「さっき言ったでしょ?俺の彼女になってって。生徒会長のパートナーだけに許された銀色のネクタイ。みんなの憧れの的になれるよ。」
「そんなのなりたくありません!そもそも承諾した覚えもないんですけど!?困ります!ネクタイ返してください!」
「はぁ…、仕方ないなぁ…」
周はため息をついたあと、ゆっくりと飛鳥に近づき
「俺の女になれ。もう、拒否権はない。」
飛鳥の耳元で、突然命令口調でこう告げたのだった。
その突然のギャップと低い声に、飛鳥は腰が砕けて座り込んでしまう。
そしてなによりそのセリフだ。これは飛鳥の推しの1人、『ときめきスクールデイズ』略して『ときスク』の
それをここで使ってくるとは、さすが『True Darling』と認めざるを得ない。飛鳥には効果抜群だった。
座り込んでしまった飛鳥に、周は手を差し伸べる。
「先に言っておくけど、たとえ仮の彼女だったとしても、俺はめちゃくちゃ大切にするよ?だから、これからよろしく。」
飛鳥は絶対危険だと感じながらも、この胸の中のドキドキに逆らえるはずもなく、その手をとってしまうのだった。
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