第一章 13 『生徒会室、尚隣の部屋は』
☆お知らせ☆
次話→11/29公開予定です。
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「俺がお前たちの担任になった
飛鳥たちが教室に入ってからしばらくすると、担任である鬼神がやってきた。ちなみに、飛鳥と夏菜の席は出生番号順のため一番窓際の列の前後である。
鬼神は、そのまま自己紹介を始めた。それがまた長い長い。俺の苗字は神がついているから偉いだの、名前に桃が入っているのは、父親が桃太郎とつけようとしていたところを母親がなんとか踏みとどまらせたからだの、ひたすら自分のアピールである。
そして、しまいには、
「俺は、彼女が欲しい。いいやつ知ってたら紹介してくれ。」
と、教師の風上にもおけないようなセリフを吐いたのだった。
飛鳥が全力で引いていると、後ろからトントンと叩かれる。
「ねぇ、飛鳥。あれ親戚とかじゃないよね?」
「はぁ!?またなんで!」
「いや、ほら。2人とも名前に鬼が入ってるし。」
「冗談じゃない!あんな人知らないよっ!」
夏菜はケラケラと笑っているが、飛鳥はこんな人が1年間も担任だと思うと気が重くなった。
その後、全員の自己紹介が終わり、今日は学級委員を決めて終わりにしようということになった。
「誰かやりてー奴はいるかー?」
鬼神が立候補を募った瞬間、ピシッとまっすぐ伸びる手が。いかにもガリ勉といったような見た目をしている男子生徒だった。
「えーと、確か…」
「
そして、護と名乗った男子生徒は最後にヒーローっぽい決めポーズをした。
実はこのポーズ、今期の幼児向けアニメ『必殺!級長マン!』のポーズなのだが、それがわかる人はこのクラスでは少数派だ。
ちなみに、『必殺!級長マン!』というアニメは、その名の通り学級委員長がヒーローとなり、学校の秩序を乱そうとする悪者と戦うアニメだ。
護は今コレにハマっており、自分も学級委員長になろうと決めていたのである。
「お、おう、人吉な。他にやりてーやつはいねーか?人吉が学級委員長になるのに異議あるやーつ。」
鬼神は異議があるものは手を挙げろと促す。そこで手を挙げるような人はいなかった。
「よし、いねーみてぇだし、人吉が学級委員長な。人吉、前に出て挨拶。」
「はいっ!えー、この度学級委員長になりました、人吉護です!ヒーローが護です!学級委員長になったからには、このクラスのみなさんを必ずや護り通してみせます!どうぞよろしくお願いします!」
(なんか、濃いキャラだなぁ…)
護の挨拶について、笑う人、囃し立てる人、興味のない人と様々いたが、決して彼に対して負の感情を抱く人はいなかった。
彼をすんなりと受け入れるくらいには、このクラスは比較的平和なクラスだった。
「それじゃあ、学級委員長も決まったことだし、今日は解散。また明日なー。」
連絡書類だけ配って、早々と鬼神は教室を去っていってしまった。
これで晴れて自由の身だ。護が「クラスの親睦を深めるために、このあと時間がある人は集まりましょう〜」などとぼやいていたが、飛鳥にはやるべきことがある。
そう、携帯を探すのだ。
夏菜に別れを告げ、足早に校舎裏へと向かう。靴を履き替えるために、下駄箱へと急いだ。
すると、自分の下駄箱の扉を開けると1枚の紙が入っていた。
『こんにちは。携帯電話を返してほしかったら、生徒会室まできてね A.A』
紙には、犯人からのメッセージもとい、どうやら携帯電話を拾ってくれた人からのメッセージが書かれていた。
A.Aとはイニシャルだろう。というか、十中八九愛月周その人しかいないだろう。なにせあの場には彼しかいなかったのだから。
(探す手間が省けたけど、生徒会室ってどこ…)
改めて言うが、飛鳥は方向オンチだ。初めての校舎で生徒会室を見つけられるほどの能力は、残念ながらないのだ。
「おや?鬼武さんじゃありませんか。そんなところで立ち尽くしてどうかされましたか?」
困っていた飛鳥に話しかけてきたのは、先程の濃い自己紹介をしていた人吉護だった。
「人吉くんか。いやー、ちょっと生徒会室に行かなきゃいけない用事があるんだけど、生徒会室がどこかわからなくってさ。」
「生徒会室ですか。それならここをまっすぐ行って、突き当りの階段を最上階まで上り、1つめの部屋ですよ。」
「えっ!なんでわかるの!?」
「それはもう、こんなこともあろうかと、校舎の配置は全て記憶しているからですね。どうですか?行けそうですか?」
「うん、ありがとう!助かった!さすが級長!ところで、クラスの人たちとどこか行くとか言ってなかったっけ?」
「それが今日は都合が悪いという人が多くて、後日また親睦会をもうけるということになったのです。なので、鬼武さんもよかったら参加してくださいね。」
「あ、そうなんだ!わかった!考えとく!」
「ありがとうございます。では、私は早く帰って昨日録画しておいた級長マンを見なくてはならないので!また明日!」
「うん、また明日〜」
そういって颯爽と帰っていく護を見送った飛鳥は、早速教えてもらった道順通りに生徒会室へと向かうことにした。
階段を上がりきって廊下に出ると、すぐに生徒会室はわかった。『生徒会室』とでかでかと書かれた看板があったのだ。
その隣の部屋には、『愛月周ファンクラブ』と書かれた看板があったが、飛鳥はとりあえず見なかったことにした。
(ファンクラブとか絶対怖いじゃん…周くんやっぱ人気あるよねぇ…)
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
ファンクラブをスルーして生徒会室に入ろうと扉に手をかけた瞬間、ブザーのようなものが鳴り始める。
(え!?なになになになに!?)
バァンッ!!!
「生徒会室への入室は!この愛月周ファンクラブを通してからにしてくださいませ!」
(ひぃ〜〜、やっぱりでた〜〜!)
ブザーがなった直後、隣のファンクラブの扉が開き、中からいかにもお嬢様っぽい女生徒が出てきた。
「いくら周様がかっこよくて、美しくて、完璧だからといって、入学式初日から近付こうだなんて、一体何をお考えになられてますの!?あなた!名前は!」
「はいっ!鬼武飛鳥ですっ!」
飛鳥は相手の勢いにまくしたてられて、つい反射的に名前を答えてしまう。
「飛鳥さんね。いいこと?周様はお忙しいの。貴方みたいな人を相手にしているお暇はないのよ。お帰りなさい。」
「いや、でも…」
「でもも、なにもないですわ!早くおかえ…」
「心、ストップ。」
「あ、周様…!」
心と呼ばれた女生徒にぐいぐい押されて、飛鳥は生徒会室から離されようとしていた。しかし、それを制するように生徒会室の中から周が出てきたのだ。
「彼女は僕が招待したんだ。勝手に追い返してもらっては困るな。」
「そ、そうだったのですか。それは大変失礼いたしました。で、ですが!私は周様のためを思って…!」
周の機嫌を損ねてしまったと思ったその女生徒は涙目になりながら訴える。
しかし、周は女生徒の口を自分の指で塞ぎ、言葉を遮った。
「うん、大丈夫。ちゃんとわかってるから。いつもありがとうね。」
キューンという表現が見事に当てはまるくらい、女生徒は周からの笑顔に射殺されていた。
「そんなっ!畏れ多いです!し、失礼いたしました!」
そして、顔を真っ赤にした女生徒は、再びファンクラブの部屋へと戻っていった。
「さて、と。」
振り返った周の顔は、
「ようこそ、鬼武飛鳥さん?」
満面の笑みだった。
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