第一章 11 『閉鎖、そして切替』
☆お知らせ☆
次話→11/8公開予定です。
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「よーし!今度はなにをしようかな!ロウーユの街探検がいいかな!」
色々と準備を終え、再び飛鳥はログインすることにした。
ログインしてもソウに会えないのは寂しかったが、見知らぬ土地の探索はそれだけでも心が踊った。
ベッドに横になり、目を閉じログインするとーーーーーーーー
前と同じように「げ〜むで〜た」の選択画面へとやってきた。
否、前と完全に同じというわけではなかった。なんとグリュックへの扉が鎖で閉鎖されているのだ。
また、扉にはなにやら数字がカウントダウンされている。
数字を見るに、どうやらこれは5日分の時間を示しているらしい。
つまり、ソウが戻ってきてストーリーが進むまで、グリュックにはログインできないということだろう。
(えー、ロウーユの街を探検したかったのに…)
街探検ができずに肩を落とす飛鳥だったが、すぐに気持ちを切り替える。
(ロウーユは残念だけどまた今度。せっかく時間ができたんだもん。今度はこの学校編に行ってみなくちゃね!)
グリュックが閉鎖されても、飛鳥にはまだ残された道があった。学校編である。
最初に選ばず、その後もグリュックのストーリーがどんどん進められていったから、なかなかやれずにいたのだ。
せっかく生まれた空いた時間を使わない手はないだろう。
(こっちには、どんな理想の相手がいるのかなー!楽しみ!)
わくわくしながら、飛鳥は学校編の扉をくぐったのだった。
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ピピピピッ ピピピピッ
「えっ?」
飛鳥が目を開けると、そこは自分の部屋だった。ベッドの横の机の上で、目覚し時計が鳴り響いている。
飛鳥はまたログアウトしてしまったのかと辺りを見回す。
すると突然部屋の扉が開く。
「飛鳥、ずっと目覚まし鳴りっぱなしだけど起きてる?学校遅れちゃうわよー。」
扉から現れたのは、飛鳥の母親である弥生だった。
先ほど一緒にサンドイッチを食べたばかりだというのに、学校に遅れるなどと、何を言っているのだろうかと飛鳥は疑問に思う。
「え?起きてる、けど……学校って、なにいってんの?私もう社会人なんだけど?」
「そっちこそなに寝ぼけたこと言ってるの?今日は高校の入学式でしょ!早く支度しちゃいなさい。朝ごはんも食べていかなきゃなんだから。」
そういって弥生は下に降りていく。その弥生から入学式という言葉が出てきた後に、飛鳥はハンガーにかけられている制服を見つけた。
そこでやっとこの世界は現実世界ではなく、ゲームの学校編の世界なんだと認識する。
(ゲームの中にお母さん出てくるとか、リアルすぎるでしょ…。いや、お母さんが年齢不詳なのも悪い。区別つかない。)
制服は、飛鳥が高校生のときに着ていたものに似ていたが、同じものではなかった。
それは、飛鳥の大好きな乙女ゲー『ときめきスクールデイズ』略して『ときスク』の制服と足して2で割ったような制服であった。
茶色のブレザーに、赤色のネクタイ。ブレザーよりも濃い茶色でチェック柄が入っているスカート。
ちなみに、ブレザーの胸ポケットには校章が入っている。桔梗をモチーフにしてあるその校章には、「高」の漢字とSSHの英語が描かれていた。
(SSH?なんの略だろう?少なくとも、私の知ってる大学にはないと思うけど…)
飛鳥が学校の名称を考えていると、机の上のパンフレットが目に入った。
「しん、まこと大学?いや、違う。
どうやら飛鳥がこれから通う学校は、真誠大学附属高等学校らしい。そして、「SinSei University High school」で、SSHということらしかった。
飛鳥は、ひとまずゲーム攻略のヒントになることがないかとパンフレットを一通り読んでみたが、学校の情報以外のことは一切載っていなかった。
「とりあえず、入学式があるって言ってたし、着替えて学校に行ってみればいいのかな?でも、どう考えても30手前で制服はきつくない?」
そういって鏡を見てみると、なんと飛鳥の容姿は高校時代当時のものになっているではないか。これで30手前の悲しい制服姿は拝まなくても済みそうである。
(すごいなぁ。ほんとに私高校生じゃん。まさかまた高校の制服を実際に着ることになるとは思わなかったなぁ…)
早速制服に着てみた飛鳥は、鏡の前でおかしいところがないかチェックする。それにしても、スカート丈が短い。グリュックでのワンピースも大概だったが、こちらはさらに短い。さすがは華の女子高校生といったところだろうか。
いくら外見が高校生になっていようとも、中身はアラサーのままなのだ。飛鳥はどこか落ち着かないそのスカートを必死におさえてみたりしたが、どうにもならなかった。
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「えーと、学校までは一応電車通学になるわけね。大体片道40分くらいか。なんでこんな遠いとこにしたのやら…」
飛鳥の現実の高校は、歩いて20分くらいのところにあったので電車通学はしたことが無かった。
朝の満員電車にぎゅうぎゅうと押されながらもなんとか学校に着くことができた。
「おー!!若い子たちばっか!!」
飛鳥は自分も女子高生だということを忘れて、学校の敷地に入るなり若いエネルギーに圧倒されていた。
この真誠大学附属高等学校は、その名の通り真誠大学という大学の付属高校にあたるらしく、その敷地はかなり広い。というのも、真誠大学のキャンパス内に高校の校舎も入っているのだ。
一応、高校の校舎と大学の校舎は別々になるように区切られているものの、一部のグラウンドや食堂などは共有できるところもあった。
そして、パンフレットの情報によると、この学校には進学コース、特別進学コース、そしてアスリートコースの3つのコースがあるらしい。
そのアスリートコースはなかなか優秀な選手を輩出しているようで、アスリートのファンの子たちが学校の塀の外で待っている、ということもざらにある(…と通学途中の電車の中で聞こえてきた。)
ちなみに、飛鳥は進学コースである。クラス発表はまだされていないが、全部で8クラス(学年人数220人)というのは確定事項だ。各クラスはアルファベットでわけられていて、A~Eクラスまでが進学コース(各クラス30人)、F・Gクラスが特別進学コース(各クラス25人)、Hクラス(20人)がアスリートコースとなっている。
「え、えっと、これはどこに向かえばいいんだ?」
入学式のしおりなど一切見ていない飛鳥は、どこに集合すればよいのかなどわかるはずもなかった。
新入生らしい人たちもちらほらいる気がするものの、飛鳥からしてみれば高校1年生も高校3年生も同じように若く見える。区別がつかない。
(これは困った……)
呆然と立ち尽くす飛鳥。そもそもどうして入学式だというのに、親がついてきていないのだろうかと考えたが、自分の現実の入学式のときにも親は付いてきていなかった。ちょうど前日にお祝いで食べた鯛の骨が刺さって、入院してしまったのだった。
(あの時は、代わりに頼のお母さんたちがついててくれてたんだっけ…)
そんな少し悲しい入学式を思い出しながら、飛鳥はとりあえずどこかに行こうと歩み始める。
すると、どうやって迷い込んだか、いつの間にか校舎裏に出てきてしまった。飛鳥は基本的に方向オンチだった。現実では、大体頼かカナが目的地まで連れて行ってくれるので迷うことはないのだが…。
人気のない校舎裏には、銀髪の小さな男子生徒がいた。その男子生徒の髪の毛は、まるで月の光が降りたような神秘さを兼ね備えていた。
飛鳥は直感で、この人だと思った。
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