第一章 10 『飛鳥、置いていかれる』
☆お知らせ☆
次話→10/18公開予定です。
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ソウが行ってしまい、取り残された飛鳥。ぼーっとしていたら、エイドが申し訳なさそうに声をかけてくる。
「あのー、セイヴィア様?」
「はっ!すみません、どうかされましたか?」
「ソウ様も行ってしまわれたことですし、早速神殿の中に案内したいと思うのですが…」
「あっ、そうですね!じゃあ、お願いします。」
「では、こちらにどうぞ。」
そういって、神殿の中に続く扉を開けてくれるエイド。建物の外観とは打って変わって、中身はカルディアーの神殿と同じような作りになっている。
強いて違いをいうのならば、こちらの方が小規模であるくらいだろうか。
大広間のようなところを抜けて、さらに関係者しか入れないような奥の通路へと進む。
「あのー、少し質問してもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「ここって、神殿ってことは基本的には神様を祀っているんですよね?この世界での神様ってどうなってるんですか?無知で申し訳ないんですけど。」
「セイヴィア様は別世界から来られたんですよね。それなら知らなくても無理はありません。この世界は一神教となっています。神様の名前は、ガブリエル様です。」
「えっ!?」
「どうかされましたか?」
「いえ、なんでも…ないです。教えてくださってありがとうございます。」
飛鳥はエイドの話を聞いて、このゲームを始めたときにでてきた案内役の名前を思い出す。
(そう、あの人も確かガブリエルさんだったはず。いや、そんなまさか。)
偶然かどうかはわからないが、案内役とこの世界の神様の名前が同じだった。もしかしたら、結婚相談所の天使はこの世界の神様として崇められているのかもしれない。
今度ガブリエルさんに会うことができたのなら、そこも確かめてみようと飛鳥は決心したのだった。
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「こちらがセイヴィア様に使っていただくお部屋でございます。」
長い廊下を歩いた末に、1回外へ出たと思ったら、そこはもう1つの建物へと続く中庭だった。
そして、もう1つの建物の周りは完全に湖になっており、そこへ渡るためにはこの中庭から続く橋を渡っていくしかなかった。この橋が上から見た際に、メガネのブリッジとなっていたところである。
建物に入ると、やたらと大きな扉があった。エイド曰く、そこが宝玉の間らしい。
しかし、先ほども言われた通り、今は神殿長であるシックザールがいないから開けることはできない。
そして、その扉の右側に小さな扉があった。そこがエイドに案内された飛鳥が使える部屋だ。
部屋の中には、生活に必要そうなものが一通り揃っている。
「デスタン様から、セイヴィア様には1人になる時間が必要なときもあると伺っております。基本的にはこの部屋で過ごしていただき、何か必要なものがあったり、街に出かけたかったりしたら声をかけていただければと思います。」
(なるほど。ログアウトの時間対応はそんな感じになってるわけだ。)
この世界は、基本的に飛鳥の現実世界と同じように時間が進んでいく。
しかし、飛鳥にもリアルでの生活があるため、ずっとゲームにログインしているわけにもいかない。
そこでこのゲームが取った方法は、完全に1人の時間を取らせないといけないという決まりなのだろう。
(うまくできてるもんだなぁ…)
「えっと、何かご不明な点がございましたでしょうか?」
飛鳥がゲームに感心して呆けていると、返事がないことにエイドが不安そうな顔をしていた。
「いえっ!そんなことはっ!なにかあったら頼らせてもらいますね!」
「ならよかったです。セイヴィア様のお役に立てるかどうかわかりませんが、精一杯頑張らせていただきます!よろしくお願いします!」
そう言って、エイドは心底安心したような顔をしながら頭を下げる。
「頭をあげてくださいっ!私こそなにができるか全然わからないですし…。そもそも、さっきからずっと言おうと思ってたんですけど、そのセイヴィア様っていうのやめません?すごくむず痒いっていうかなんていうか…」
「では、なんとお呼びすれば…アスカ様でよろしいでしょうか?」
「その『様』もいらないですし、タメ口でいいんですが。」
「すみません、こればかりは癖のようなものでして…。アスカ様と呼ばせていただけたらと思います。それと、アスカ様こそ私に対してタメ口で構いませんよ。」
「そっか。わかった。」
「そういえば、私としたことが!申し訳ありません!すっかりと伝え忘れておりました。私に何か用がある際は、アスカ様のお持ちのすまほからメッセージを送っていただければと思います。」
「へ?メッセージって、エイドの送り先なんて知らな……あ。」
飛鳥がスマホを開き、True Darlingのアプリを開くと、すでにソウの下にエイドのチャットルームが存在していた。
(ほんとにこれどういう原理なんだ…)
ピロンッ
『よろしくお願いします』
エイドのチャットルームに、エイドから文字付きのスタンプが送られてきた。
(エイドってスタンプとか使うんだ…。しかもかわいいやつ…。っていうか、このアプリスタンプまであるのか…)
飛鳥は当然スタンプなど持っていないので、『こちらこそよろしく』と返事を打つ。
「それでは、これからどうなされますか?」
「んー、そうだなぁ…。じゃあ、早速で悪いんだけど1人にしてもらってもいいかな?」
「かしこまりました。それではごゆっくりとお過ごしください。」
そう言うと、エイドは部屋を後にする。
飛鳥は1人になれたことを確認した後、ベッドに横になりログアウトをした。
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「ふぅー。やっぱりこのゲームすごいなぁ。濃密な時間を過ごしている気がする…」
ログアウトし、現実世界に戻ってきた飛鳥は体の凝りをほぐすために伸びをする。
時間は13時近くになっていた。通りでお腹がすいているはずである。
部屋から出て下に降りると、母親がテレビを見ながら大量のサンドイッチを食べていた。
「お母さん、なにその大量のサンドイッチ…」
「あ、飛鳥降りてきたの?これねー、頼くんが持ってきてくれたのー。みんなで食べてって。あんた愛されてるわねー。」
ウフフと笑いながら、またひとつサンドイッチが母親の胃袋の中へと消えていく。
「頼が?なんでわざわざサンドイッチ……って!これ!駅前のやつじゃん!私が食べたいって言ってたやつ!」
「これほんとおいしいわねー。お母さん、食べるのとまらなーい。」
「いやいや、それ私に持ってきてくれたやつでしょ!お母さん食べすぎだからね!?」
「いいじゃない、けちー。頼くんはみんなで食べてって言ってたもーん。」
「お母さんいい歳なんだから、もんなんて使わないでよ…」
「あー!歳のこと言ったなー!」
飛鳥の母親である
若作りを頑張っているらしく、未だに飛鳥とは姉妹かと見間違われることがあるくらいだ。
そんな母親と言い合いながら、頼の持ってきてくれたサンドイッチを食べて過ごす昼過ぎ。
飛鳥は、昼ごはんを食べ終わったら、またTrue Darlingをやろうと心に決めていた。
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