第一章 9 『連合国家、ロウーユ』


☆お知らせ☆

次話→9/20公開予定です。

更新間開きますがよろしくお願いします。

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「わー、これかわいい!」


 ソレイユで移動中、ソウがデス婆から預かってきたと、飛鳥に服をくれた。

 向こうの世界の服のままだと目立つだろうからと、この世界のものをくれたのだ。


 黒と白で構成された、動きやすくなおかつかわいいワンピースのような服だった。1つ問題があるとすればーーーー



「このスカート丈だけはどうにかならなかったのかなぁ……」


 もうすぐ30になる飛鳥にはちょっと厳しいスカート丈だった。


「ん?なんでだ?よく似合ってんぞ。」


 似合っていると言われ、赤面する飛鳥。ソウがそういうなら、このスカートも悪くないかなと思ってしまうあたり、自分もノヴァのことは言えないくらいチョロいなと思う。



 ちなみに、着替えるときにソウが、飛鳥に手伝ってやると言ったら叩かれた。


 しかし、ソウは別に下心があって申し出たわけではなかった。瞬間装備のスキルをもっているから、脱がなくても大丈夫だと知らせたかったのだが、飛鳥が早とちりしたのだった。


 ソウのおかげで自分で着替えることなく、一瞬で服が変わったことに飛鳥は驚いた。そして、左頬を抑えているソウを見て少し申し訳なく思うのだった。





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 カルディアーから飛ぶこと約3時間。飛鳥の見覚えのある景色になってきた。


「ねぇ、このあたりってカルディアーと比べると、なんていうか…」


「なんもない、だろ?」


「いや!そんな!そんなことは!……ちょっとは、思った、けど…」


 バカ正直に認めた飛鳥に、ソウは思わず笑ってしまう。



「いや、飛鳥がそう思うのも無理はないけどな。カルディアーはこの大陸の中心地だから人も物資も集まるんだよ。そりゃあ発展もするわな。」


「対して、ロウーユは連合国家なんだ。元々色んな民族がいた場所を、ザル爺がまとめあげたってわけ。だから、すでに独自の文化が根付いてて、保守派が多いからあまり発展もしない。」


「すごい、ますますシックザールさんが何者か気になってきた…」


「まぁ、色んな意味ですごい人だよ、ザル爺は。」


 そう語るソウには、尊敬の念と、どこか呆れたような感情が混ざっているような気がした。




 話していると、今度は少しばかり高い建物が密集している街が見えてきた。どうやらあそこがロウーユの中心の街らしい。


 飛鳥はさっそく上空から神殿を探してみるが、それらしき建物は見当たらない。

 代わりに、真上から見るとまるでメガネかのような、2つの大きな丸型の建物を1つの橋で繋いだ建物があった。


「ねぇねぇ、ソウ。あの面白い形した建物って何屋さん?もしかして眼鏡屋さん?って、そんなわけないかー。」


「ん?そうだぞ、眼鏡屋。」


「え、うそ!?」


「うそ。」


「もう!からかわないでよっ!じゃあ、あそこはなんなの!?」


「神殿だよ。」


「え?今なんて?」


「だから、あそこが俺達の目的地。ロウーユの神殿なんだよ。」


「えぇぇぇぇぇ!!!!!」


 飛鳥は、カルディアーの神殿が、飛鳥の知っているいかにも神殿!!という建物であったから、きっとどこの神殿も同じようなものなのだろうと思っていた。


 しかし、ロウーユの神殿ときたら、まるで神殿らしさがない。これはまたソウに騙されているのではないか、と疑ってみるも今度は本当にそうらしかった。


「神殿って、みんな形が同じってわけじゃないのね…」


「ん?あぁ、そうだな。俺は慣れてるから気になったことなかったが、慣れてない人が見りゃそうなるのか。」


「あそこが…最初の宝玉がある場所…」


 飛鳥はさっそく始まる宝玉集めの試練を前に、緊張で胸が痛くなる。


(でも、ソウがいる。)


 さっき、ソウに自分がいると頼もしい言葉をもらったばかりだっからか、自然と恐怖はなかった。




 さっそく中に入ろうとソウが扉に手をかけたその瞬間ーーーー


「セイヴィア様!いらっしゃいませ!ですが……申し訳ございません!!!!!!!」


 バンッっと突然扉が開き、中から若い男の人が勢いよく現れ、そして、勢いよく土下座した。

 ちなみに、勢いよく扉が開かれたせいで、扉の真ん前にいたソウは頭を打たれて、痛みに悶えている。


「えっと……」


「あぁっ、すみませんすみません!自己紹介が遅れました!私、このロウーユ神殿の神殿長補佐を務めておりますと申します。」


 飛鳥がどう反応したらよいのかわからず立ち尽くしていると、エイドと名乗る青年は顔を上げ謝罪に至った経緯を話し始める。


「あのですね、非常に申し上げにくいのですが、今は宝玉の間に入ることができず、試練もできないんですよ…。というのも、シックザール様が今不在でして……」


「ん?ザル爺どっかでかけてんのか?」


 痛みから立ち直ったソウがエイドに問いかける。すると、エイドはさらに小さくなってしまう。


「ひっ、ソウ様もいらっしゃってたんですね!お顔が赤いようですが、どうかされましたか?」


「どうかされましたか?じゃねぇ!お前に!扉を!ぶつけられたんだ!気付け!」


「わぁあっ!!すみませんすみません!!」


「そ、ソウ、そんなにいじめないであげてよ。こんなに謝ってるんだし…」


「いや、そんなに怒ってねぇけどよ…。昔っからエイドの態度みてるとイライラしてくるんだよなぁ。」


「2人は知り合いなの?」


「エイドがザル爺の1番弟子なんだよ。だから、俺の兄弟子でもあんの。んで、俺はこいつになかなか勝てなかったんだよ。」


「へー、エイドさんって強いんだ。」


「そのくせ、いっつもすみませんすみませんってすぐに謝りやがって。強いんだから堂々としてりゃいいのによ。エイドの強さは、俺が1番身をもって知ってる。」


 そう言われたエイドは恥ずかしそうにしながら、またしてもすみませんと謝っている。


「それで?ザル爺が不在っていうのは?」


「そうなんです。シックザール様は、昨日カルディアーからセイヴィア様が現れたとの連絡が入る直前に、この国の西端に位置する『カーネ』と『モーノ』がまた喧嘩していて、それのおさまりがつかないからと言って仲裁しに飛んで行ってしまわれたのです。」


「まーたあそこは喧嘩してんのか。こりねぇなぁ。」


「なにやら今度は、2つの村の間にある山奥に巨大な魔物が出たとかなんとか。そして、その魔物を討伐した際に出る特典をもらうための争いらしく…」


「うわぁ…」


「その決着がつくまでは、魔物討伐も放置らしいのです。なにか大きな被害がでる前に魔物も討伐しなくてはならないのに、なかなか決着もつかず……。そこで、シックザール様に仲裁と討伐の依頼が来たのです。まさかこのタイミングでセイヴィア様が来るだなんて思ってもみなかったので、すみません…」


「それ帰ってくるまでにどのくらいかかるんだ?」


「一応カルディアーからの連絡が来た後に、すぐシックザール様に帰るように伝えるための伝令は飛ばしましたが……。何分、移動距離も長いですし……。きっとあの人は、魔物討伐まで帰らないでしょうから、早くて2週間、遅いと1ヶ月くらいかかってしまうかもしれません。お急ぎのところ、本当に申し訳ございません!」


 そこまで言い切って、再びエイドは土下座をする。飛鳥はどうしたものかとソウの方を向く。すると、ソウは深くため息をついた後に、エイドに顔を上げろと言ったのだった。


「要するに、その魔物さえ倒せばザル爺は帰ってくんだろ。そんで、その魔物討伐特典は俺がもらってしまえば、村同士争う必要もないわけだ。」


「へ?ま、まぁ、そういうことですね?」


「じゃあ、俺がちょっくら行ってくる。ソレイユに乗ればあそこまではあっという間だしな。」


「「え!?」」


 突然のソウの申し出に、エイドと飛鳥の驚きの声が重なる。


「5日だ。5日でケリをつけて、ザル爺をつれて戻ってくる。飛鳥は危険だからここにいろ。それでいいな?エイド。」


「は、はいっ!セイヴィア様のことはおまかせください!こちらで精一杯おもてなしさせていただきます!」


 飛鳥のことを置いてけぼりのまま、どんどんと展開が進んでいってしまう。


「じゃ、行ってくる。5日後にまた会おうな!」


 そういうと、ソウはソレイユに乗ってあっという間に飛び去って行ってしまった。飛鳥は呆然と見送ることしかできなかった。


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