第一章 4 『予言者、デス婆』


☆お知らせ☆

次話→8/9公開予定です。

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 何もない草原から飛び立って早3時間。

 何故3時間とわかるかというと、ソウの持っていたチリーンが時計機能付きだった。通信機能だけではなかったのだ。


 そして、それがまさか飛鳥の携帯電話の時計ときちんと対応しているなんて誰が思うだろうか。少なくとも飛鳥は思わなかった。


 どうやら現実世界とゲームの世界の時間の進み具合は同じらしい。



 下を見渡せば、たくさんの建物。ここに来るまでも、村のような集落がいくつかあったが、これはその比ではないくらい規模が大きい。


 その中でも一際大きく目立つ建物の前にソレイユは着陸した。


「よし、着いたぞ。ここがデス婆のいるカルディアーの神殿だ。」


「あのー、さっきからずーっと気になってたんだけど、そのデス婆、さん?ってどなたなの?」


「デス婆はな、この世界最高の予言者だよ。この世界のことなら何でも知ってる。そんで、今回アスカがこの世界にくるのを予言した人でもあるな。」


「ってことは、私が何をすればいいのかをその人が教えてくれるってこと?」


「そういうこと。あ、でも、気をつけろよ。デス婆は少しだけ気難しいからな。機嫌を損ねたらめんどくせーぞ。」


「それは、なんというか…不安しかないんですが…」


「ま!大丈夫だろ!行くぞー。」


 ソウはそのままスタスタと神殿の中に入っていく。飛鳥もおいていかれないようにその後に続く。

 神殿の中には、いかにも聖職者と言わんばかりの格好をした人達で溢れかえっていた。皆、飛鳥とソウをチラ見しては自分の仕事に戻る。誰一人として話しかけてくることなく、2人は1番奥の部屋の前までやってきた。



「ね、ねぇ?ほんとになんのアポもなしに、こんなとこまで入ってきちゃって大丈夫だったの?」


「大丈夫大丈夫。俺はデス婆の子供みたいなもんだから、みんな慣れてんの。あ、でも、今日はみんなアスカに興味津々って感じだったなぁ。」


 ソウは初めて会ったときと同じような笑顔でハハハッと笑った。


(本当にソウの笑顔は太陽みたいだな…)


 飛鳥がソウの笑顔に見惚れていると、突然目の前の扉が開いた。


「人の部屋の前でいつまで突っ立ってる気さね?さっさと入ってきたらどうさね?」


「おー、デス婆!そんなに俺の顔が早く見たかったのか?……って、痛ぇ!!」


「馬鹿言ってないで、早くそこのお嬢ちゃんを連れてくるさね!」


 全身黒ずくめのローブに覆い隠された人物が扉の中から現れた。ソウがその人物をデス婆と呼んだことから、この人こそが件の人物なのだろう。

 ソウはデス婆に杖で叩かれたとこをさすっている。つい先程機嫌を損ねるなと言っていたばかりなのに、ソウが怒らせているではないか。飛鳥が恐る恐るデス婆の顔を見てみると、そこには優しそうな顔があった。


「お嬢ちゃんがアスカだね?待っていたよ。さぁ、中に入るさね。」


「は、はい。お邪魔します…」


「そんなに緊張しなくても、取って食いやしないさね。自分の家だと思って気楽にするといいさね。」


 デス婆に連れられて、部屋の中央にあるソファーに向かい合う形で座る。間にある机の上には、ソウが持っていたチリーンの大きいバージョンの箱が置いてあった。大きさの他に違うところがあるといえば、その箱の上部に大きなレンズがついていることだろうか。


「さて、改めて自己紹介するさね。私はデスタン。まぁ、一応予言者なんてものをやっているさね。みんなからはデス婆って呼ばれることが多いから、あんたも好きに呼ぶといいさね。私にも敬語は必要ないさね。ソウと同じように接してくれればいいさね。」


「じゃあ、私もデス婆って呼ばせてもらうことにする。私は、鬼武飛鳥。いきなりこの世界にきて、ソウに救世主だとか言われてわけがわかんないんだけど。その辺のこと教えてもらえるの?」


「そうさね。じゃあ、まずはこの世界のことから話そうか。」


 デス婆が机の上のチリーンの大きい版に手をかざすと、レンズからホログラム映像のようなものが浮かび上がった。そこには、6つの建物が浮かんでいた。


「この世界は、『グリュック』と呼ばれていて、全部で6つの国から構成されているさね。6つの国は、それぞれ『ロウーユ』、『オーア』、『ルネ』、『イズイーク』、『ケルパー』、『カルディアー』という名前さね。」


 デス婆が国の名前を言う度に、ホログラムに浮かび上がった建物が光った。飛鳥は一体どういう技術なんだと考えたが、異世界だから不思議なことがあってもおかしくないかと考えるのをやめる。


「そして、ここに浮かび上がっているのは、それぞれの国のシンボルである神殿さね。そこには、私のような予言者や神官がいるんだけれど、中には王様がいる国もあるさね。まぁ、そこは自分の目で確かめてみるとして……。ここからが本題さね。今この世界には危機が訪れようとしているさね。」


「そう!!魔王が!!復活!!しそうに!!なっているんだああああああ!!!!」


 デス婆の話に割り込んで、ソウが物騒なことを叫びだす。突然大きな声を出したせいか、ソウはデス婆にまたしても頭を叩かれる。


「そう何度も頭を叩くんじゃねぇよぉ…。俺の頭が悪くなるだろぉ…」


「お前が私の話に割り込んでくるのが悪いさね。」


「あの…魔王って…」


「そう、魔王『シャイターン』。数千年前に封印されたはずの魔王が、だいたい1年以内に復活しようとしていることがわかってしまったさね。魔王が復活してしまったら、この世界は滅びてしまうことは確実さね。でも、復活する前にまた封印することができれば、なんとか世界の平和は守られるさね。」


 魔王シャイターンの画像は、さすがにホログラム上に浮かんでこなかったが、この世界全部を簡単に滅ぼせてしまうようなやつだということは、デス婆の空気からも伝わってくる。


「封印するには救世主、つまりセイヴィアの力が必要さね。予言では、『セイヴィアが6つの宝玉を集め、愛し合う人と呪文を唱えたとき、魔王は再び封印される』ということになっているさね。」


 愛し合う人と呪文を唱えるということは、つまりそのときまでに攻略を済ませておかなくてはならないということだろうか。告白を突破できても、魔王を封印できなかったらゲームオーバーということか。


「6つの宝玉はそれぞれの国の神殿にあるさね。でも、宝玉に認められないと触る事すら許されないさね。認められるためには、試練を突破してもらうしかないさね。」


「…試練?それ、死なない?私戦えないよ?」


「そのための騎士さね。もし戦うことがあったら、遠慮なくこいつをこき使うといいさね。まぁ、それなりに実力者だよ、こいつは。私が保証するさね。」


 デス婆は未だに頭をさすっているソウを示す。確かにソウは自分のことを騎士だと言っていた。相棒のソレイユも強そうな見た目をしているし、そこは安心してもいいところなのかもしれない。

 ソウは自分のことが話題になっていることに気付き、飛鳥に歩み寄る。


「そうだぞ、アスカ。言ったろ?俺がいるから大丈夫だって!」


 ニッと笑うソウ。やっぱり自信満々なこの笑顔は飛鳥を惹きつけて離さない。


(うーん…。さすが理想の相手なだけあるな…。)


 飛鳥がこのゲームのすごさに改めて感心していると、ソウの顔が突然目の前にやってきた。


「どうした?ぼーっとしたりして。なんかまだ不安なことでもあんのか?」


「!?!?ちっ!ちかいっ!!」


「おーおー、まーた顔赤くしちゃって。アスカはかわいいなぁ。」


「う、うるさいっ!!」


「さてさて、イチャつくのはそれくらいにするさね。」


「イチャついてなんかいません!!」


「アスカ、今日はとりあえずもう遅いから休んだ方がいいさね。そっちの部屋が客間だから好きに使うといいさね。」


 飛鳥が反論するも、デス婆はとくに気にする様子もなく、そのまま隣の部屋に押し込まれてしまった。客間だと言われた部屋の中には、ベッドはもちろんのことバス、トイレ、キッチンまで完備されていた。

 部屋中を物色したかったが、ここにくるまでに色々ありすぎて飛鳥は疲れていたようだ。ベッドに横になると、瞼が重たくなってきて……


………………


…………


……




ーーーーーーーーーーーーー




ピピピピッ  ピピピピッ


「んんー、もうあさぁー?」


 目を覚ました飛鳥がいたのは、昨日寝たはずの客間のベッドの上ではなく、自分の部屋のベッドの上だった。


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