第一章 3 『冒険、始動』


☆お知らせ☆

次話→8/2公開予定です。

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「それで、ソウさんは一体何者なんですか?そもそもここはどこなんですか?」


「やだなー、アスカ。俺のことはソウって呼べよ。だなんて、新婚夫婦みたいだろー。」


「なっ!?」


「ははっ、今度は顔が真っ赤っかだな。ころころと表情がかわるなぁ、アスカは。」


 落ち着いてきた飛鳥は、いきなりらしいこの男、ソウに質問を試みていた。しかし、からかわれてすっかりと相手のペースに巻き込まれていた。


(せっかく現れてくれた待望の人!少しでも情報を聞き出さないと、またあんな不安な思いをするのはごめんだよ!)


「からかわないでちゃんと教えてください!私、気付いたらここにいて、もうなにがなんだか…」


「そうなんだよな。そこがおかしいんだよ。の話だと、アスカはロウーユの神殿に現れるはずだったんだ。それなのに、なんでこんな僻地に……デス婆の予言が外れることもあるのか……?いや、まさかそんなことは……」


 ソウは心底おかしいことが起きたといわんばかりに、ぶつぶつと言いながら首をひねっている。しかし、飛鳥にしてみたら、今のソウの発言だけでもわからない単語が大量にある。特にデス婆なんて、いかにも物騒そうな名前の婆さんがいたものだ。

 飛鳥は色々と聞きたいことがあるのをグッと抑えて、聞き出すことを1つに絞ることにした。


「あの、考え事してる最中にすみません。……ソウ……は、私を安全なところまで連れて行ってくれるんですか?」


 何を言ってもうまくかわされてしまうので、情報収集はソウからは無理そうだと判断。モンスターにいつ襲われてもおかしくないこの状況から、いち早く脱出する方向に切り替えた。確かにソウは色々と知っていそうだが、この場所から離脱した後に聞き出しても遅くはないだろう。


「ん?安全なところまでどころか、この先ずっと一緒にいるつもりだぞ?っていうか、敬語も禁止な。俺敬語に距離感じちゃうタイプでさー。これから先長い付き合いになるんだからよろしく頼むぜ。」


「え?えっと?……え?」


 守ってくれる発言から、安全なところまで連れて行ってくれるのかと思いきや、まるで当たり前のことを言うようにずっと一緒にいる宣言をされてしまい、飛鳥は混乱する。このゲームは理想の相手を攻略しなくてはならないはず。しかし、もうプロポーズまがいのことをされてしまったのだが、どういうことだろうか。


「さっき言っただろ?アスカは俺が守ってやるって。俺が嘘でそんなこと言うような男に見えるか?」


「いや、だって、さっき会ったばかりですし…こんな見ず知らずの女にずっとついてきてくださるなんて……」


「だーかーらー、敬語禁止!いいか?俺にとっちゃアスカは運命の人みたいなもんなんだよ。その証拠に……ほら。」


ピピピピッ ピピピピッ


 ソウが手に握った何か四角い箱のようなものについているボタンを押すと、突然飛鳥の服のポケットに入っていた携帯が鳴り始めた。ソウは電話にでろでろとジェスチャーで促してくる。


「も、もしもし。」


「な!?運命だろ!?」


「いや、な!?と言われても…なにがなんだか…」


 当たり前のように受話器の向こうからはソウの声が聴こえてくる。彼に電話番号を教えた覚えはないし、そもそもソウが持っている不思議な箱も電話っぽくはない。


「簡単に言うとだな。アスカはこの世界を救うセイヴィア、つまり救世主で、俺はそのセイヴィアをお守りする騎士ってなわけだ。この箱はな、『チリーン』っていって、セイヴィアと騎士を繋いでくれる優れものだ。」


「えっと、ちょっとまって?誰が救世主って言った?」


「アスカがだな。」


 飛鳥は元々ない頭をフルで回転させてソウの言葉の意味を飲み込もうとする。


(この世界を救うとか言ってたよね…。異世界編のストーリー目標、規模が大きすぎないかなぁ!?私今のところ、何も特殊な力とかなさそうなんですけど??んで、設定から考えて、やっぱりこの人が攻略対象、つまり私の理想の相手ってことよね…ほんとにこれ攻略できるの?)


「それで、私はこれからどうしたらいいの?」


「おっ、いいね。飲み込み早い子は嫌いじゃないぜ。」


「早く質問に答えて!」


 さっきからなかなか質問に答えてくれないソウに苛立ち、つい声を荒げてしまう。飛鳥の余裕のなさを感じたのか、ソウは降参のポーズをとりながらぽつぽつと答え始める。


「まずは…、そうだな。デス婆のところに行くか。デス婆から話を聞くのが一番はやい。色々とまだ理解に苦しむ事だらけだろうしな。」


「それってここから近いの?」


「んー、歩いたら1ヶ月くらいかかるかもな。」


「えっ、そんなに歩くの…」


「いや、まさか。に乗っていく。」


 そういって指さされたのは、先ほどから気になっていた生き物。ぱっと見ドラゴンだろうか。全身が赤く、大きな翼と2本の角を持っている。鋭い目つきだが、ソウを見る目は優しそうである。大人2人など余裕で乗せることができそうだ。


「こいつはな、俺の相棒の『ソレイユ』だ。種族的にはエンシェントドラゴンになるな。基本的に移動はこいつに乗ってするからそのつもりでいてくれな。目的地まではざっと3時間かかるかかからないかってくらいか。」


 ソレイユと紹介されたドラゴンは、飛鳥に向かってぺこりと頭を下げた。見た目に反して、とても落ち着いていて礼儀正しい子なのかもしれない。飛鳥もソレイユにならって、ぺこりと返事を返す。


「でも、私ドラゴンになんて乗ったことないけど大丈夫?落ちたりしない?」


「そこは大丈夫だろ。なにせ俺がいるし。」


「なにも不安要素解消されてないんですけど…」


「為せば成る、だ!とりあえず乗ってみ!」


「きゃっ!」


 ソウにいきなり体を持ち上げられ、お姫様抱っこの形になる。そのままソレイユの背中にジャンプして乗り込むソウ。意外にもソレイユの背中は広く、安定していた。


「よし、無事乗れたことだし出発するぞー。」


「え、ちょっとまって、まだ心の準備が……きゃーーーー!!」


 飛鳥の制止など全く聞かずに、ソレイユは主人の言葉の通り浮上を始める。しかし、飛鳥が振り落とされることなどなく、それどころか空気抵抗なども全く感じない。


「すごい、めちゃくちゃ快適じゃん、ソレイユ…」


「だから、俺がいるから大丈夫っていったろ?俺は騎乗スキル持ってるから、騎乗している間は空気抵抗無効化とか色々と発動するんだよ。でもまぁ、俺から離れるとその効果もなくなっちまうから気を付けてな。」


 その効果がなくなることを想像するだけで身の毛がよだつ。飛鳥はソウから離れないようにしようと強く心に誓った。


「それじゃあ、行くぜ!まずはデス婆のいるカルディアーへ!!」


 ソレイユがソウに応えるように吠え、そして、速度を上げたのだった。

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