第一章 1 『せんちょー、事件です』
カナと別れて家に帰ってきた飛鳥は早速ゲームをやり始めることにした。ずっと気になっていたゲームだから無理もない。
時間は夕方5時過ぎ。ちょうど日が暮れ始めるころであった。飛鳥は幸いにも(?)一人暮らしなので、家族に気を遣って騒げないということもない。乙女ゲーをやるときに、ついうっかりと身悶えて騒いでしまうタイプの人間である飛鳥にとって、一人暮らしはとてもいい環境であった。
「さぁ、私の理想の王子様ー!待っててねー!」
手慣れた速さでゲームの準備をしていく。今回やる『True Daling』はフルダイブ型のVRゲームなので、頭に装置を装着し、ベッドに寝っ転がる。
「トイレは済ませた。お腹もまだすいてない。よし、じゃあスイッチオーン!」
ーーーーーーーーーーーーー
閉じていた目を開けると、どこまでいっても真っ白な空間が飛鳥の目の前に広がっていた。すると突然目の前に光が広がった。
「ようこそおいでくださいました。私が案内役を務めさせていただきますガブリエルと申します。早速ですが、あなた様のお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
(おぉ!?なんか結婚相談所の人みたいな服着た天使様?がでてきた。これがチュートリアル的なものになるわけね。)
「えっと、鬼武飛鳥といいます。よろしくお願いします。」
「鬼武飛鳥様でお間違えないでしょうか?」
「あ、本名じゃないほうがいいとかあります?」
「いえ、本名の使用がこのゲームにおいては推奨されております。正確に理想のお相手様を見つける為には必要なことなので。」
「なるほど?じゃあ、鬼武飛鳥でお願いします。」
「了解しました。そのように登録させていただきます。それでは飛鳥様、早速ですがこのゲームにおける注意点をいくつか述べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、お願いします。」
「ありがとうございます。まず、第一にご理解いただきたいのですが、このゲームの中の人たちは生きています。飛鳥様と同じように喜怒哀楽を持っていますし、傷つきもします。ゲームだからと言って、簡単に傷つけたり殺したりといった行為はおやめください。」
(うわぁ…そんなとこまで設定に盛り込んでくるとか、凝ってんなぁ…)
「次に、このゲームは飛鳥様の理想の相手を攻略していくゲームとなっております。そのため攻略対象は1人となりますことをご了承ください。また、理想の相手の攻略とは別にストーリー目標がございます。飛鳥様が望まれるシチュエーションにおけるストーリー目標は、こちらで設定させていただきます。」
(まだ何を目標にやればいいのかわかんないってことね。1人なのは、まぁ、そうなるよね。)
「最後に、このゲームではログインしていない最中でも、お手持ちの携帯端末に専用のアプリを入れて頂くことにより、キャラクターとの会話を楽しむ機能などがございます。そこでご注意いただきたいのが、このゲームデータは3日間放置されますと自動的に消滅する仕組みとなっております。消滅したデータは2度と復元できませんのでご了承ください。ここまででわからないところなどございましたでしょうか?」
(うひょー!そんな機能あんの!?いつでもどこでも王子様と一緒ってことじゃん!テンション上がる―!)
「えーと、放置っていうのは、具体的にどういうことなの?」
「ゲーム自体にログインを3日間されていなくても、携帯端末でキャラクターとの会話が続いていればデータ消滅は致しません。キャラクターとの関係を一切切ってしまっている状態が放置という状態にあたります。」
「また、このゲームはリアルタイムセーブですので、飛鳥様がセーブを行う必要はございません。その代わり、リセット機能はござませんので、ご自身の行動はよく考えて決めて頂ければと思います。」
(リセットできないのか。うん、これはかえって燃える。絶対に間違えられない戦いがそこにある!!)
「わかった!理解した!」
「他になにかご質問等ございますでしょうか?」
「うーん、特に今はないかなぁ。また、わからないことがあったら、ガブリエルさんのことは呼べるの?」
「そうですね。基本的には呼べない仕組みになっているのですが、ゲームの中にある教会を見つけて頂ければ会話することが可能になるかと。」
「あ、じゃあもう一旦お別れになっちゃうのか。ちょっと寂しいかも。」
「そうなりますね。ですが、寂しいことはなにもありません。飛鳥様にはこれから素敵な理想のお相手様と恋に落ちて頂くのですから。」
「それはそれとしてだよ!絶対また会いに行くね!」
「ふふっ。案内役の私にそこまで言って下さる方は珍しいです。ありがとうございます。それでは、飛鳥様。心の準備はよろしいでしょうか?」
「いつでもオッケーだよ!」
「ここから飛鳥様の脳内の読み取りを開始いたします。合図があるまでしばし目をつぶっていてもらってもよろしいでしょうか?」
飛鳥は期待を胸に膨らませ目を閉じ……
「それでは、『True Daling』の世界をお楽しみください…」
そのまま意識が途切れたーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーー
「えっと、これはどういうことなのかなー?」
意識が戻り目を開けた飛鳥を待っていたのは、またあの真っ白い空間だった。
否、正確には異なる点がある。飛鳥の目の前には「げ~むで~た」という文字が上に浮かんでいる扉が2つあるのだ。
「え?ガブリエルさんも口コミでも攻略対象は1人って言ってたよね?なんで2つあるの?」
扉にはそれぞれ「学校編」と「異世界編」と書かれている。これはいったいどういうことなのかと飛鳥は首をひねり続ける。しかし、特にこれといってなにかを思いつくわけではない。飛鳥は考察というものがあまり得意ではなかった。
「ガブリエルさんもでてきてはくれないみたいだし、悩んでても仕方ないし。とりあえずどっちか入ってみるか。んー、学校は王道だし、様子見としてまずは異世界編かなぁ」
そうして飛鳥は、「異世界編」と書かれた扉をくぐるのであった。
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