True Darling ~理想の相手攻略します~
shin
第一章 ゲームスタート
プロローグ
「やっと会えた。俺の運命の人…」
「俺たちは運命の赤い糸で繋がってるんだ。」
「俺と、結婚してくれますか…?」
「『True Darling』はあなたの運命の相手を提供します。」
イケメンが画面に向かって話しかけてくる。こんなCMが流れていたのはいつだったか。すっかりテレビでは聞かなくなってしまったが、このゲームの評判はネットだと未だによく聞く。
ただの乙女ゲーのはずなのに、のめり込む女子多数。リアルよりもリアル。理想の相手がそこにいた。
噂のまとめサイトが何本もあるくらい情報が溢れかえっている。
乙女ゲーだと普通攻略サイトがたちあがるものだが、このゲームに関してはそういうものが一切ない。
何故ならこのゲームは、プレイヤーの理想の相手と恋愛するからだ。どういう仕組みかわからないが、プレイヤーの思考を読み取り理想の相手を攻略対象として作成するのだ。
つまり、プレイヤーによって攻略方法が異なるということ。なんなら、ゲームの世界観すらプレイヤーの望むシチュエーションだ。攻略サイトなんてものは全く役に立たないのだ。
VRで行われるこのゲームは、とにかく現実と大きな差がない。こちらも仕組みは全く明かされていないが、五感が現実のソレと変わらずに使えるのだ。それ故に、ゲームの中の彼にプロポーズでもされれば、現実と錯覚し受けてしまうこともあるだろう。
『現実と変わらない世界』で、『理想の彼』からプロポーズしてもらえる。
それだけがどの口コミサイトでも一致しているところだった。
発売当初は1万円と、乙女ゲーにしては少し高いかなくらいの値段だった。しかし、噂が噂を呼び、気づけばプレミア価格がつき、手に入れる為にはその10倍くらい積まないといけなくなっていた。
それでも欲しい人は後を立たないのだから、よほどこのゲームは評判がいいらしい。
理想の相手というのは、人によって千差万別である。
理想のタイプを全て持ち合わせている人など、現実世界ではまずいないだろう。会えたらそれこそ奇跡である。その奇跡をやってのけるのがこのゲームなのだから、実際安いのかもしれない。
ハマったら最後、現実には戻ってこられなくなる。
ーーーーーーーーーー
今年で28歳。俗に言うアラサーである。アラサーだというのに、彼氏の1人すらいたことがない。いわゆる、年齢=彼氏いない歴というやつだ。
飛鳥にも大学時代までは好きな人がいた。相手は、隣の家に住んでいる幼馴染の
そんな頼のことを世間が放っておくわけもなく、昔からモテていたわけだが。頼も頼で飛鳥に気があったせいで、女子から告白されたなんて話を一切しなかったのだ。器用な男は隠し通すのもうまかった。そのせいで、飛鳥は頼が告白されまくっているという事実を一切知らず、いつか頼と付き合うことを夢見ていた。
ある日事件は起きた。いつも通り告白に呼び出された頼は、飛鳥のいないはずの大学に向かった。そう、飛鳥はこのとき風邪のせいで家で寝ていたはずだった。
しかし、飛鳥は締切ギリギリのレポートを、根性で起きて提出しにきていたのだ。そして、
「頼くん、好きですっ!付き合ってくださいっ!」
「ごめん、俺、他に好きな子いるんだ…」
というなんともありきたりなシーンに出くわしてしまったわけだ。飛鳥は2度衝撃を受けた。頼が告白されていたという衝撃。そして、頼に好きな子がいるという衝撃…。
飛鳥は体調が悪かったのも相まって、深く絶望した。頼と付き合えるなんて幻想だったんだと。
そこから大学在学中は、リアルで恋愛する気にもなれず、乙女ゲーをやりまくった。推しもたくさんできて、幸せだった。毎日が推しのおかげで希望に溢れていた。
しかし、大学卒業し、社会に出てから、「鬼武さん、彼氏はー?」なんてことをよく聞かれるようになった。さすがの飛鳥も職場の人に、「彼氏、ちょっと年下なんですよねー(次元が)」などと言えはしなかった。
そこで急に焦り始めて、婚活なるものを始めてみたものの、イマイチピンとくる人が現れない。それもそのはず。飛鳥の理想は大変複雑なことになっていた。
まず
かといって、妥協はしたくない。自分でも、そんな理想の相手がいないことくらいわかってはいる。しかし、魂が拒否するのだ。そんなんじゃ私は幸せになれない!と。
「で?そもそも頼のことは諦めたわけ?」
「それは、ほら、ね…うん。だって好きな子いるって言ってたし、しょうがないって言うかなんていうか…」
幼稚園からの親友である
「だからさー、そんなに諦めきれないなら、1回当たってみりゃいいじゃん!」
「そうはいってもよ?せっかくまだ仲良く付き合えてるのに、この関係までなくすとかほんと無理だから。頼いないと私は死ぬ。」
「誰がこんなに飛鳥をだめな子にしちゃったのか…………頼か。」
カナは幼少期から2人と過ごしてきたので、2人の気持ちはもちろんわかっている。いや、むしろわかっていないのは本人たちだけなのだ。身内や友達はみんな飛鳥と頼の気持ちに気付いていて、むしろ何故くっついていないのかと疑問にすら思っていた。
かといって、無理やりくっつけるのも野暮というものかと静観してきたわけだ。いや、カナにとってはどちらでもよかったという話もある。付き合っていようがなかろうが、2人とは生涯友達でいようと決めていたからだ。
色々あって出来た友達2人。飛鳥と頼には幸せになってほしい。それが、出来れば2人が結婚という形ならば言うことなし。しかし、飛鳥ときたら、たった一度の挫折で頼への思いを切ってしまった。
カナは考えた。再び頼の株を上げるには、飛鳥には頼しかいないんだと思わせることが大事だと。頼以上に飛鳥に似合う人は、現実にも二次元にもいないんだと。
「ねぇ、飛鳥。いっそ頼のこと忘れる為にこんなものやってみない?」
「なにこれ……って、『True Darling』じゃん!乙女ゲー信者が喉から手が出るほど欲しがってるやつ!どうやって手に入れたの!?」
「入手経路は秘密。やっぱり知ってたか。」
「だって理想の相手と恋愛できるんだよ!?そんなの一度はやってみたいと思うじゃん!あとは、単純に数々の乙女ゲーを攻略してきたからこそ、評価の高い乙女ゲーはしてみたいというゲーマー魂が…」
「理想の相手、ねぇ。頼がでてきたりして。」
「それ笑い事じゃないよ…。いや、でも、『ときスク』の樹先輩とか、『マイナイ』のジャンとかがでてくる可能性もっ!」
「あー、飛鳥お得意の乙女ゲームの推したちだっけ。」
「そうだよ!理想の相手ってことはその辺もそうでしょう!?」
「まぁ、なんにせよ、だ。そんな理想の塊みたいな相手が攻略の対象なら、飛鳥も頼のこと忘れられるんじゃない?」
「……そうだね。このゲームずっと気になってたってのもあるし、やってみようかな。」
「お代はいいから、どんな感じかちょこちょこ教えてよね。」
「了解です、せんちょー!」
「うむ、返事がよろしい。」
こうして、カナからの勧めで飛鳥は『True Darling』をやり始めることになった。これは乙女ゲームが大好きなアラサー女子の恋物語である。
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