最強は混沌と接す③

 会議室の椅子に腰を下ろして直ぐ、どういった具合で話し合いをするのかを問われた。

 私としては、雪継が盟主のまま問題児三人を処分できるのであれば、様子を見てBANでいいと思っている。だが、雪継に決断する度胸がないことは、既に分かっているため今週いっぱいを目途に血盟内での様子を見ようと思う。それが唯一アースを繋ぎ止める手段だ。

 今晩、ログインしてきたら一応最終通告はする。言われた本人たちが、そのままアースを脱退してくれれば一番いいけど……。


 なんてことを話している間に血盟員がログインしてくる時間になったのか、血盟チャットが騒がしくなってきた。


「ren、一応挨拶しとく?」

「……ソレ、必要?」

「まぁ、二週間はうちに居ることになるし、一応?」


 人付き合いが苦手な私は、ついつい苦虫を嚙み潰したような表情になる。


「すんごい顔してるわいね」

「流石、人見知りだな」

「その顔、久しぶりに見たわ」


 千桜、先生、白の順で笑いながら言ってくる。

 

 血盟員と仲良くなれたら良いのかもしれない。だけど、アースは同盟の繋がりがあると言うだけで、BFとは違う。

 所属する血盟が違うのだから、BFの仲間たちのために時間を使うのは問題ない。一方のアースは、正直そこまでしたい相手ではない。

 勿論、雪継と千桜のためならやぶさかではない。


 今回は、問題児の事があったからアースに所属している。仲良くしたいかと言われれれば微妙だし、きっとノーと答える。それに雪継と千桜の二人に比べて、アースの血盟員をBFの仲間たちと同じく身内かと問われれば、これはハッキリノーと言える。


「挨拶は、メールしたからパス。雪継と千桜には悪いけど所属してるだけで、一緒に狩りとか行きたくない。あと、アースに居る間は、色々したい事があるから一人で行動したい。狩りするからって、誘わないでくれると助かる」

「おふっ。相変わらず、バッサリだわいね」

「あー、先に言われたぁぁぁ」


 ハッキリ断ると千桜は苦笑いで答え、雪継は頭を抱えた。


 もしかして、既に血盟員から何か頼まれてた? でも、嫌なものは嫌だから、いくら雪継の頼みであっても仲間のためじゃないなら断固拒否だよ。


「ま、renがこういうやつだって分かってたろ? 諦めろ」

「白~」

「これでも大分寛容にはなってるんだがな」


 先生が慰めるように雪継の肩を数回叩き、私へ合図を送って来る。それに頷き返した私は、大きく一度深呼吸をすると雪継たちへ視線を正して「雪継」と呼びかける。名前を呼ばれた雪継は姿勢を正して椅子に座りなおし、千桜はそのまま聞く姿勢をとった。


「ラスト・レクイエム所属血盟アースに対し、同盟主として勧告します。今回問題になっている三人については、今夜最後通告を行い、盟主交代まで一週間を様子見、通告の意味を分かっておらず迷惑をかけた場合は即日BAN。それ以外の場合は、所属血盟であるアースにて責任を持って面倒を見て下さい。ただし、その後一度でもアース所属のメンバーが問題を起こした場合は、容赦なくアースをラスト・レクイエムから追放します。この決定は、ラスト・レクイエムに所属するBF・SG・二丁目の盟主並びに副盟主による相談の上、決定されたものです」


 同盟としての決定は、アースにとって残酷とも言えるものだ。それを伝えなければならない私も胃が痛かった。


 何度もSGのメンバーや二丁目のメンバーを交えて、アースの対処について話し合ってきた。

 アースを同盟から除名しろと言う意見も多かったし、解散させて使える者だけ血盟で引き取ってはどうかと言う意見もあった。おんぶにだっこ状態で同盟に寄生していると言われた時は、黒や風牙が『お前らも大してかわらねーだろ』と、怒りを露に反論していた。


 沢山の人がいる同盟で、今は確かにアースが浮いている。でも、いつアースではなく、全ての血盟がそうなるかは誰にもわからないではないか。


 血盟員がやらかしただけで、上から捲し立てる行為そのものが私は嫌いだ。

 よく見れば、アースも十分に貢献してくれている。毎回の攻城戦や同盟ハントの参加人数は、アースが一番多い。それだけでもありがたいと思うのは、間違いなのか……。


 考えては答えを探し続けてきた疑問が再び頭を擡げる。それを頭を振って他所に弾き飛ばした私は、椅子から立ち上がった。


「……二人ともごめん。アースの貢献度を考えれば、もっといい条件で譲歩を引き出せるはずだったんだけど限界だった」


 言葉が出ない様子の二人に対して、ゆっくりと頭を下げる。許して貰えるとは思ってない。きっと自己満足のための謝罪だ。それでも謝らずにはいられなかった。

 口下手で上手く思いを伝えきれなかった自分の不甲斐なさが悔しくて、頭を下げたまま瞼をきつく閉じる。


「はぁ~、renが謝る事じゃないわいね」

「だね。renの事だから、俺らの事ずっと庇ってくれてたんでしょ? それなのにrenが謝ることないよ。俺が甘ちゃんだったのが悪い。辛い決断させて、ごめん」


 逆に雪継と千桜に頭を下げられて、逆に私が慌てる番になる。この決定について罵倒されこそすれ、まさか二人から謝られるなんて思わなかったから。


 互いに謝罪の言葉を繰り返していると「いい加減見飽きたから、そこまでな」と先生から止められた。


「やっと自覚したようだな二人とも。これからビシバシ鍛えていくから、しっかり血盟運営しろ!」

「雪、千桜。お前らアースの正念場だ! これを乗り越えて、ぐだぐだ言ってくる奴らを見返せ! renに頭下げさせたんだ。いい加減腹決めて、根性見せろ!」


 先生と白が叱咤しながら協力を申し出れば、雪継と千桜が揃って大きく頷いた――。

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