第360話 最強は混沌と接す②

 笑ったらいいのか、呆れたらいいのか、分からない状況を先生と白が諫めたところで、アースに滞在する間使う部屋の前についた。ドアの前で先生たちが、私に開けるように促すのでドアノブを回そうとすれば、白が殊更真面目な顔で話す。

 

「ren、いいか? 部屋の中が、ちょっとアレだけど、真面目に歓迎する意味でのアレだから、キレるなよ?」

「そうそう。皆歓迎してるんだよっ」

「そうだわいね!」


 物凄くアレの意味を知りたい。知りたいけど、部屋は見ればいいから良い。それよりも横にいる二体の首振り人形の首が痛まないかが心配になるような……。


 二人は大丈夫なのかと聞きたくて先生の方へ目線を動かせば、先生の目が物凄く泳いでいた。その様子に手をかけていたドアノブを一度放すとゆっくりと息を吐く。

 気持ちが落ち着いたところでドアノブを再び握ってドアを開け――


「なっ……」


 ――絶句した。


 自分の視線が、彷徨っていることがわかるほど、室内がピンクピンクしている。


 私は、別にピンク色に対して忌避感はない。私の服にも桜の柄があって薄い桃色は使われている。だがしかし、こんなローズピンクやディープピンクと言った見るだけで目が痛く、頭がおかしくなりそうなピンクを部屋の壁紙やカーペットにまで使いたいとは思わない。

 と言うか、家具や飾られた可愛らしいぬいぐるみまでピンク色にする意味が分からないし、嫌がらせとしか思えない。

 まぁ、一生懸命用意してくれたのだろうし、その気持ちは非常にありがたい。だが! この部屋をピンクで統一すると言ったやつだけは殴り飛ばしたい!


 感謝したいのに、それを素直に表すことができない状況が腹立たしい。まるでキヨシやチカに対応している――頭痛が痛いと言いたくなる気分だ。てか、これからアースに居る間、私がこの部屋を使う事になるのよね……帰りたい。


 はぁ~と思いっきりため息をついた私は、考えを振り切るように頭を振った。


「か、歓迎の意味だからなっ! renが来てくれるって知って、うちのメンバーが張り切っちゃってさ……。それでな、あの、ごめん。俺も知らなかったんだ……よ」

「ren、大丈夫か?」


 雪継が引き攣った笑顔で必死に弁明する。最後は、尻切れでの謝罪と言い訳になってしまった。その横にいる先生が、私の引き攣った表情に気付いたらしく心配してくれている。お互いに顔色が良くないので、心配し返す必要があるかもしれない。

 再び息を吐き出して、先生に頷きで大丈夫だと伝えたところで雪継に盟主交代の申請に行くように言っておく。


「とりあえず、話せる部屋に連れてって」

「ぶっ」

「あぁ、案内するわいね」

「白、笑ってやるな」


 先生も笑ってるよね? と、ツッコミたい気持ちを抑え込み、一階の会議室へ移動する。

 白の肩がずっと揺れてるんだけど、後ろから蹴り倒してしまいたい。そうすれば、先生も巻き込まれるから一石二鳥かも?


 私の悪だくみに気付いた白と先生がぶるりと震えてざっと音を立ててこちらを振り返る。


「不穏な気配がっ」

「……ren?」

「何?」


 素知らぬ顔で首を傾げた私に二人はあからさまなため息を吐き出して再び歩き始めた。


 一階の会議室は、相変わらず狭い。うちの半分もない広さに円卓になった机が置かれている。それぞれが椅子に座ったところで、話をしようと口を開きかけた私は、雪継が居ない事を思い出してお茶を出すことにした。


 ヒガキの入れたコーヒーフロートが美味しい。お茶請けにとくれたメレンゲクッキーも本当に美味しく感じられる。ひとつふたつと口に入れてはコーヒーフロートを楽しんでいた私は時間つぶしついでに問いかけた。


「ねぇ、千桜。さっきの部屋、内装考えたの誰?」

「んー、仕返ししないって約束するなら教えるわいね……」

「……」


 暫しの間、互いにジト目で見つめ合う。


 こうなった千桜は、約束しない限り口を割らないだろう。他の人に聞いてもいいけど……、ま今回は仕方ないか。


「わかった」

「むー姫だわね」

「あ~、あの」


 名前を聞いて脳内にその姿が浮かんだ。アース所属のむー姫と言えば、アースではメンバーを纏めるリーダーのような役柄をしている女性? 女の子? だったような。

 見た目は、ツインテールに玩具みたいなティアラを乗せて、人好きする笑顔がとても可愛らしい小柄なヒューマンの女の子キャラで、ふりっふりのフリルとたっぷりのレースを使った薄桃色のプリンセスドレス姿だったはず。


 常々思っていたけどアースもうちのメンバーに劣らず、所属メンバーのキャラが濃い。ま、公式イベントで貰った打掛を着てる私が言えることじゃないけど。


 そんなことより、あの部屋が女の子らしいピンクピンクしてたのは、むー姫の趣味だったんじゃ……。

 

 どうして部屋が、あぁなってしまったのか考えていると、息を切らした雪継が「ただいま」と言う事と共にが帰って来た。

 何をそんなに急ぐことがあるのか聞こうかとまで思ったけど、急かしたのは私だった事を思い出して「おかえり」と言っておく。


「盟主の交代申請してきたの?」

「うん。ただrenにお願いがあるんだけど……」

「何?」

「あの三人を無言でBANするのだけは止めて欲しい。BANするなら、その前に教えて。俺から三人に理由を伝えるから」


 理由を言ったとして、きっとあの三人は理解できないだろう。そう思ったのは私だけではないらしい。先生や白も同じように考えているのか苦々しい表情をしている。ま、何度も先生、白を介して注意を繰り返して来たから、あの顔になるのも当然と言えるか。


 同じような表情をしている雪継自身も腹の中では、通じないと分かっているのだろう。それでも説明すると言える雪継は、やっぱり盟主に向いていない。

 だが、連盟のメンバーに対して、どこまでも優しく、誠実であろうとする雪継の姿が、私は少し羨ましくなった――。


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お待たせしました。


いつも、お読みいただきありがとうございます。

今月、ニヒルの改稿を少しだけ進めようと思っています。

内容の基本流れは変えないので、読み直す必要はないとは思いますが、タイトルと章がずれていたりするかもしれません。

その時は、どうか気にしないようにお願いします。

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