アース編

第359話 最強は混沌と接す①

 盟主交代が認められたのを確認して、血盟を抜ける。ハウスの部屋は、抜ける直前に宮ネェが私用だと設定してくれたので問題ない。

 雪継がログインしたためアースへ加入申請する。密談でやり取りしていたため直ぐに認められ、挨拶ついでにハウスへ向かった。


 誰のせいとは言えないけど、うちより遥かに整った美しい庭を羨望の眼差しを向けながら歩き、玄関を開けて入る。と、そこには既に先生と白、委縮した様子の雪継と疲れ果てた様子の千桜が。


「なんで、そんなに疲れてるの?」

「いや、その……」

「まぁ、あれだ。renが加入する話をだなした途端、メンバーたちがな……」

「ハハハハハ」


 意味が分からない。私が加入するからなんだと言うのだろう?


 首を傾げながら、乾いた笑いを漏らす雪継へ視線を向ける。その途端、雪継の肩が大きく跳ねた。


 ま、いいや。先に盟主交代申請させて、三人と話す時間確保しておこう。


「で、三人はinしてるの?」

「まだだな。あいつらがinするの夜九時前ぐらいだ」

「そう、inしたら会議室に呼んで。一応最終通告して、次はBANするって伝えるから。あぁ、雪継、盟主plz」

「あ、はい。今週末にしておきます」

「今日中! 今すぐ行って?」


 千桜が工事現場の誘導員の如く両手でストップをかけ、焦った声で「ま、まぁ、と、とりあえず、ちょっと待つわいね」と言う。

 ボソボソと言い合うアース主従に訝しく思いながら、説明してくれと先生と白の顔を見た。


「お前ら、二人とももう黙れ。言う通りにしとけ。renがアレ見たら、無言でアースごとBANかますぞ!」

「ありえるな」

「「ハイ」」

「で?」

「あー、あのな。ん-、なんて言えばいいか……」


 雪継たちに脅しをかけるほどの状況なの? アースごとBANしたくなる何かが、私に振りかかるってこと?


 眉間に皺が寄るのを感じながら、先生を見れば頭が痛いと言わんばかりに眉間を揉んでいる。白に至っては、死んだ魚の眼で空をみていた。

 先に我に返った先生が、白の肩を数回叩き内緒話を始める。そして、二人が頷き合った。


「見せた方が早いか……」

「着いて来てくれ」


 今すぐ血盟抜けて帰りたい衝動にかられながら、案内をされる形で二階の階段を登る。

 最後の一段を登りきったところで、左右に伸びる廊下を見れば、ほぼ隙間なくドアが並んでいた。


 アースのプライベート空間って、見ただけで部屋狭そう。これが私の感想だった。


 血盟ハウスは、増築して建物を大きくするより、部屋数増やすだけの方が価格が安い。あくまでも増築よりだから、狩専門の血盟だと部屋数を増やす事すら厳しいお値段である。


 もう少し、何とかできなかったの? せめて地下ぐらい部分増築すればいいのに……。あぁ、アース貧乏だったわ。貧乏なりに努力してるんだろうけど方向性間違ってるよ。これ、一枚目のドアと二枚目のドア同時に開けたら、二枚目の方の人ドアに顔面強打するんじゃないかな? ある意味でコントになりそうだし、見てる分には楽しそうだけど私がそうなるのはパスしたい。


 なんてことを考えていると、目の前でドアが開いた。出て来たのは逆三角形のムキムキマッチョな盾職。彼が一歩踏み出すと同時に隣のドアが開き、哀れマッチョの顔面が犠牲になった。

「ぐっうっ」と、呻くマッチョ。

「あぁん、ごみーん」と、軽く謝るスレンダな猫人。


「みょん! お前、きいつけろよ!」

「むぅ。みょんちゃん謝ったにゃん。細君が合図送らないのが悪いにゃん」

「お前なぁ、謝ったって言うけどよぉ。ごみーんってなんだ! ごみーんって!」

「猫族は皆、ごみーんが謝ることにゃん」

「嘘つくんじゃねーよ」

「嘘じゃないにゃん!」

「あ゛ぁ!? マジ糞猫のしつけが必要らしいなぁ!」

「にゃ! にょんちゃんの方が、常識人にゃん」

「糞猫が、やろうってのか?」

「ふん、返り討ちにしてやるにゃ!」


 ヒートアップしたらしい二人が、私たちの前でそれぞれ獲物を取り出した。見た目を裏切る二人の武器と装備――細君と呼ばれたマッチョが魔法使い用のローブと指揮棒を、みょんと呼ばれたスレンダー猫人が重装備+長剣+タワーシールド――を見た私は、心の中だけで 噓でしょ。何の冗談なの?! と叫んだ。


 狭い廊下で始まった戦いは壮絶を極めるかに思えた。が、しかし、距離を取り同時に動き出した二人がぶつかる直前、別のメンバーが開けたドアに二人は互いの衝撃で顔面を打ち付けもんどりを打った。


「……なんと言うカオス」

「ぷっ」

「ぐふっ」


 思わず漏れた私の呟きを聞いた先生と白が同時に噴き出した。宥めようと動いていた雪継は、二人を心配しながら肩を揺らしている。千桜は、口を真一文字に結び、鼻の穴をヒクヒクさせていた。


 雪継と千桜も笑いたければ笑えばいいのに、先生と白なんかツボに嵌って膝から崩れ落ちてるよ?

 しかし、ドアを開けただけで、暴走するメンバーを止められるシステムは羨ましい。うちにも二人ほど馬鹿な暴走を繰り返すのがいるから、是非採用を検討したい。あぁ、でも宮ネェとさゆたん辺りが、あの二人のために無駄金使うの反対って言いそうだ。提案するのは二人の機嫌を見てからにしよう。


「……なんで、うちってこうなんだろう」


 散々笑ってた二人が雪継の呟きを拾ってスンとした真顔になる。そして、二人の心をボキボキにへし折る言葉を紡いだ――。


「お前たちが作った血盟だろう? 今さらだ。諦めろ!」

「二人に運営能力は無いって気付け!」

「うっ」

「ぐうの音も出ないわいね」

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