第358話 最強は準備を始める㉗
アースに移籍することを伝えた途端、何かを察したらしい雪継がマジ凹みを決めて、千桜が右往左往し始めた。対面したわけでも無いのに、二人の状況がありありと分かって何とも言えない気持ちになった。
無事盟主交代の申請をする。同盟主に関しては、うちの血盟が発端になってできた同盟なので、交代した
今後の事を考えながらハウスに戻るなり、アース主従から連絡が行ったらしいロゼと白影、小春ちゃんがリビングに勢ぞろいしていた。面倒だな~と言う思いを隠すことなく用件を尋ねれば、当然のことながらアース移籍の件だ。
「元仲間だからって雪継たちに甘すぎる!」と、詰め寄るロゼと白影に対して私も反論する。
「今の内に教育か引導か選んでおくべき。じゃないと恥かくよ? 世界戦ネット中継あるらしいし、ね。このまま任せて、笑いものになるぐらいなら、参加拒否。君らだけでやればいい」
どうする? と、視線だけで問いかければ三人だけではなく、リビングで様子見していたメンバー達まで黙ってしまった。
ロゼたちの言い分も勿論理解しているつもりだ。BF内の事ならまだしもよそ様の血盟のメンバーについて口出す事は、ある意味越権行為とみられる。だからこそ、再三雪継と千桜には注意するよう伝えたし、白や先生を派遣して教育しようと試みた。でも、その思いを相手が理解してくれなかった。なら、同盟のために切るしかない。
雪継たちには様子を見てからと伝えている。が、私的にはもう切る気満々である。理由としては、四血盟が参加する攻城戦の度に問題ある彼らの行動を観察させてもらっていたから。
問題児一は、攻城戦中に何度注意されても隊列を乱し、勝手に場所を移動する。その開いた空間を埋める前に敵が内部に侵入して、魔法職や回復、弓職が生贄にされた。
問題児二は、相手が見えないにもかかわらず
問題児三は、紙ではない方の前衛に攻撃がかすっただけで何度も回復を飛ばして、いざ必要な時にMP切れを起こす。仕方なく一番被弾しているであろう盾の回復を任せてみれば、詠唱に時間がかかる回復を選択して死なせていた。
本気で言わせていただけるなら、使えないどころか無能だ。いっそ被害が出来ないような職――そんな職があるかは不明だが――に転職して欲しい。そうすれば、同盟内のヘイトは少しは下がる。
同盟内でアースに対する不満はかなり上がっている。週に何度も話し合いの場を設けさせられている私の不満も最高潮である。ほんの三日前に行われた話し合いでは、アースごと同盟から切ってしまおうなんて意見も出てきているほどに。
「renが参加しないなら、BFも参加拒否だ」
「……はぁ、分かった」
「うちのメンバーからも不満が上がってたからな。ここらで始末つけてくれ」
「renちゃんが行くなら、大丈夫でしょ~ん。でもその前に~ん、今からちょ~とん、ゆっきーたちとオ・ハ・ナ・シしてくるわ~ん」
先生が、良い笑顔で拒否宣言を下す。
その顔を見やったロゼが、またかよ~と言わんばかりのため息と同時に頷き、白影が何故かとてもいい笑顔でサムズアップしてくる。小春ちゃんのオハナシが何かわからない――分かりたくない――けど、雪継たちには強い意志を持って生き抜いて欲しい。
こうして、色々ありつつもアースへ移籍することが決定した。血盟と同盟の運営は、宮ネェたちに丸投げしておけば良い。
移籍するまでの四日で私がしておくべき事は……。一に経験値スクロール作り。二に狩り。三、四飛ばして、五に狩りだ! とにかくソロで狩りを重点的にやる予定だ。
「よっしゃ~、いっくぜ~」
「ちょっと、キヨシ恥ずかしいから大声で叫ばないでちょうだい!」
「不安だ……」
「村雨、無表情で言われても、全く不安そうにみえねーよ」
「えっと、釣りに行っていい?」
「ちょっと落ち着けお前ら! まずバフ貰え」
「はぁ~、先が思いやられる」
「ガンバレ」
「無理」
予定は未定と良く言ったもので、私が狩場に到着すると何故か良い笑顔のメンバーたちが。おもわず視線を逸らして舌打ちしたことを報告しておく。
「ソロ予定なんだけど?」
「この狩場なら、クエアイテム被りないだろ? 人数多けりゃそれだけアイテム集まるし、連合組んで狩った方がお得だぞ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
なっと、肩に手を置かれてポンポンされた私は、深く深く深ーいため息を吐き出した。
確かにこの狩場のクエストは、PTや連合で受けていてもクエストアイテムの被りがない。クエストの清算もある程度溜まった状態でまとめてできる。だから、問題はない。
だが、問いたい。何故この狩場に四十人近い人――シルバーガーデンと二丁目のメンバーまでもが一緒にいるのか。そして、言いたいこともある。こんな人数で狩ったら、モブの湧きが尽きるだろが!!
先生からPT勧誘が、飛んでくる。この人数でPTに入ってなかった場合、絶対に狩れないので仕方なく了承してバフを回す。
『よろしく~』と、可愛らしい笑顔でニコニコする大和の顔が、今日ほど憎いと思ったことは無い。
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