第357話 最強は準備を始める㉖

 アースの現状を考えると頭が痛い。お花畑を切って欲しい気持ちもあるが、なんとかうまくいって欲しい気持ちもある。

 その理由はやっぱり、雪継と千桜が仲間だから。協力したい気持ちは勿論持ってる。けど、行ったところで、コミュ障を拗らせてる私が何かを変えられるなんて烏滸がましい事を思えない。

 

「雪継たちは……」

「あいつらなりに何とかしようとしてる。けど、やっぱ会話できないのが痛い感じだな」

「その三人って、中身どっちなのかしら?」

「多分、女じゃね? ネカマの可能性もあるけど、行動が女くさい」


 白が女と言った瞬間、嫌そうな顔をする。それを見た宮ネェが何かを悟ったように頷いた。


「もしかして……恋愛脳的なお花畑なのかしら?」

 

 先生と白の二人が、口を開くより早く嫌そうな顔をした。

 二人の反応からして、宮ネェの見解は当たっているようだ。更に相手から言い寄られてる状態なのかもしれない。

 

 大抵どのゲームでも男女関係なくそう言ったプレイヤーは存在する。もてると勘違いする人もいれば、ストーカー紛いのことをするのもいるわけで……。私自身も体験したことがある。あの時は、私が何故かライバル認定されたわけで、解決方法として関係者全員をクランから排除した。

 クラメンをBANすることはかなりの勇気がいる。あの頃の私でさえ、除名タブを押すことを躊躇した。


 恋愛することについての文句は無い。ただ、それでクラン内を引っ掻き回され、大切な仲間が傷つけられるのは嫌だ。


 今回の件で、アースにとって本当に必要な人材とそうでない者をマスターである雪継が判断して、切り捨てることを覚えて貰いたい。その為に私が出来ることは協力しよう。


 なんて思考している間に話は進んでいたようで。


「マスターとサブマス、どっちも甘ちゃんなのがダメだな」

「もう面倒だから、アースごと切っちまえば? 毎回毎回、あいつら面倒ごと起こしすぎだろ!」

「恋愛が悪いわけじゃねーけど、ゲームで相手探そうとすんのマジ止めて欲しいわー」

「アイドル目指してるのかもしれねーじゃんw」

「アイドルねぇ……」

「話を聞く限りそれはないな。どっちかって言うと、疑似恋愛しながら貢がれたい系じゃないか?」

「養殖……」

「天然も色々あるでしゅね~」


 先生と白の話を聞いた皆もゲームをしていく中で色々経験しているからか、辛辣な意見が多い。


「恋愛脳もあるけど、あの三人の戦闘も……なぁ」

「あぁ、それもあったな。待てって言ってるのに回復飛ばしてタゲ取るわ。きっちり待ったと思えば、回復量は多いけど、詠唱に時間のかかる回復使って盾殺すわ。もう、何も言えなくなるんだよ。一緒に狩りに行かされるクラメンが可哀想でな」

「昨日なんか、狩場までの移動中に迷子になって、その場で死ねばいいのに、モブ大量に引き連れて帰って来て全滅した」

「うわぁ……」

「脳筋と言われてる俺でもそこまで酷区はないぞぉ~」

「何でもかんでも俺らが対処できるわけじゃねーのわかんないのかね?」

「renじゃないんだからさー」

「そう言う意味でも話が通じないわけでしゅね~」

「そうなんだよ! 話してるとイライラして来るレベルだぞ? なんであんな奴ら連盟に入れてんだあいつら二人は!!」

「白、落ち着け。お前が今キレたところで、被害被るのはあいつらじゃない」


 如何にやらかしてるかを伝えていた白が、徐々に目を据わらせて声を荒げ始めた。

 

 白がむかつくほどの状況であることが良く分かる。楽しむためのゲームだからこそ、自己中のために誰かが迷惑を被るのはダメだ。てか、余程ひどかったんだなぁ。このままじゃ、アース自然消滅してしまいそう。

 雪継と千桜は私にとってフレンドだし。ここはひとつ何かいい案を……。


 ん-、この手だけは使いたくなかった。ていうか、本気で気が重くて嫌だけど、仕方ないか。あぁ、なんて損な役回り……。


「宮ネェ、一時的にマスターしといて。って、今週は無理だから、今から申請して来週マスター交代したら私がアースに移籍する。その間、さゆたんと黒には申し訳ないけどきよしとチカの監視&宮ネェの補助お願い」

「「「「「「「「は?」」」」」」」」

「だって、このままじゃアース自然消滅待ったなしでしょ? なら、私が行って状況見てBANする。世界戦で他の連盟に迷惑かけられない。雪継と千桜には、来週移籍するって伝えておく」


 とりあえず、これでアースの問題は片付く。ついでに私自身が、アースに行けばマスター投げっぱなしにできるはず!

 崩れそうになる顔を必死に引き締め、表情を消して皆を見回した。


「renが行くって言うなら、片付くだろうけど……」

「……ren、まさかとは思うけど、マスターそのまま投げっぱなしにしようとか思ってないわよね?」

 

 眼を眇めてこちらを見てくる先生と宮ネェ。勘が鋭すぎる! と、内心考えたところで妙な圧を感じて他のメンバーを見回せば、全員がジト目で私を見ていた。

 五秒ほど圧に耐えたけど、ついに視線を逸らす私。

 途端に、皆がやっぱり! と、言わんばかりに呆れた顔をした。


 私としては我儘でも自分の時間が欲しい。世界戦の予選がもうすぐ始まる。それまでにできる限りの事がしたい。だからこそ、いい案だと思ったのに……。


 がっくりと項垂れた私は渋々と立ち上がると神殿に向かいつつ、アースに行く旨を雪継と千桜に伝える事にした。

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