最強はボスを狩る⑦

 既に魔法攻撃を打ち込んでいるため挨拶替わりにはならないが、防御力を低下させて攻撃を通りやすくする魔法:アーマーブレイク(+25)を入れる。

 すると、ボーンドラゴンの頭上に、青く透明な鎧が出現して砕け散るエフェクトが浮かびあがった。それと同時に聖属性をMAX値まで上げた二刀に持ち替え、ホーリーウェポンのバフをかける。


 ボーンドラゴンが、大口を開け噛み付ついてきた。ずらりと並んだ牙の一部を左手の刀の峰で受け、右手に握った刀で下顎を斬りつける。

 ついでとばかりに片足でボーンドラゴンの横っ面を蹴り上げ、口の軌道を逸らす。その間に自身の股を潜るようにクルリと一回転しながらボーンドラゴンの弱点である首の接続部へ刀を振るう。


 ガキン……ギン。


 鈍い音が、両手分鳴った。弱点を攻撃されたボーンドラゴンは足を踏み鳴らし、警戒するように頭を擡げた。


 いつもなら、あと一、二回は余裕で弱点攻撃できるはずなのに、今日はやたら頭を持ち上げるのが早い。そう言えば、MOBが階段に溜まってた。もしかして、誰かが無謀にも討伐しようとして失敗した?

 ……ま、いっか。死んで神殿送りになってるなら、横殴りとか横取りとか言われることはないし、気にするのやめよ。


 余計なことを考えているとボーンドラゴンが、前足を振り上げた。このまま降ろされたら、流石にHPが吹っ飛んでしまう。そうなる前に、ボーンドラゴンにも有効なホーリークロスぶち込んだ。


「グルウォォォォ!」


 とても痛そうな声をあげたボーンドラゴンへ、設置型の魔法フレイムサークルもお見舞いする。四つ足を踏み鳴らして暴れまわるボーンドラゴンのせいで、遅れて来たガーディアンスパルトイが踏みつぶされていく。

 それを好機と見た私は、水属性MAXの杖へ持ち換えると練成魔法:アイスランスを叩き込む。


 武器の入れ替えが激しくなるがメイン武器の二刀へ持ち換え、迫り来るボーンドラゴンを迎え撃つ。


 二撃、三撃――十、十五撃。


 そろそろブレスが来るだろう頃合いなのだが、今日のボーンドラゴンはまだまだブレスを放つ素振りを見せない。

 違和感があるのに理由が分からない。考える余裕もない今、私の中で焦りが産まれた。


 ほんの小さなミスのせいで隙が産まれる。そんな私をあざ笑うかのようにボーンドラゴンが尻尾で私の身体ごと周囲全てのMOBを含めて払った。

 勢いよく壁に叩きつけられHPが、一割を切る。次の攻撃態勢を整えているボーンドラゴンの様子が視界に映った。急いで身体を起こして立ち上がり柱の陰に隠れた私は、特濃HPポーションを一気に飲みほして回復をはかる。

 

 落ち着け! この程度のことで焦ってどうする! こういう時こそ冷静に対処しよう。今は余計なことは考えないで、只管攻撃していこう。なんたって時間だけはたっぷりあるんだから、腰を据えて討伐しよう。


 柱の陰に隠れた私は、ゆっくりと一度深呼吸して気合を入れ直す。


 落ち着いた私の視界に密談の知らせる吹き出しマークが映る。それをポチっとタップすれば、黒からのメッセージがチャット欄に表示された。


”黒龍” グランドロールが二PTが上に行ったぞ。気をつけろよ。


 なるほどね。彼らが討伐しようとして失敗したわけか。んで、この状況の理由もグランドロールがどこかで邪魔をしているって事ね。


 結成当初のグランドロールに、ソロだった私は勧誘されたことがある。ま、断ったけど。

 あの時、勧誘に来た盟主は、色々なレイドボスのイベントを企画したいと言っていた。

 だが、今ではグランドロールのメンバー以外が、ボスを狩っているとボスに対して回復魔法やバフをかけ、討伐者を排除しボスの独占を目的とする害血盟になってしまった。


 邪魔をするなら殺す。


 謎が解けてスッキリとした気持ちで、再びボーンドラゴンと向き合う。

 聖属性MAXの二刀でボーンドラゴンを斬りつけながら、ディティクションスクロールを放った。尻尾の攻撃が来るのをタイミングを計って回避。そのまま隙間を抜け出して、マップに移ったプレイヤーの表示を目指す。


「みぃ~つけた~!!」


 グランドロールの人数は、全部で二十四人。一PTのMAX人数は八人だから、黒が報告してきたよりも一PT多かった。ま、どれだけ居ようと私の邪魔をした奴らは、全員殺すだけだけどね。


 相手も既に私の方を認識している。人数が多いからと言って、調子に乗って笑っている奴を狙って二刀を振るう。何人か斬り殺し、別のプレイヤーを狙ってるフリをしながら何ヶ所かに設置型の魔法を置いておく。

 さて、そろそろかなと思っていたら案の定フルプレートを装備した盾職三人が、メンバーを守る様に前へ出て来た。だが、残念。そこには設置型の魔法:バインドを仕掛けてある。


 私を追い詰めた気になってそうな盾職の男の顔が、歪な笑みを刻む。その瞬間、設置していたバインドを無言で発動させた。そのまま会話をすることも魔法やスキルを使う事も出来なくなるサイレンス(+25)も入れておく。


 続いて、二人目をおびき寄せるため後方にいる回復や魔法職を狙う事にする。こういう時に活躍するのが、短剣に付けた鋭利に尖った針に近い氷を飛ばす精錬魔法:アイスニードルだ。


 このアイスニードルは、二次職の魔法職が覚える魔法でディレイは無い。攻撃力も少ないが、相手を五秒だけ凍らせ動けなくする。ただし、成功率は非常に低くなっている。

 とは言え、水場での戦闘では使えないアイスニードルだが、闇属性一色の60階では非常に有効だ。

 まず間違いなくこの狩場に来るプレイヤーたちは闇属性を上げる防具を着ているし、こちらは武器に水属性をMAXまで付与しているだから。


 二人目が、設置罠にかかる。一人目と同じようにサイレントを入れ、その場を離れようとした私に三人目の盾職が「くそっ!」悪態をつきながら殴りかかる。それを回避すると同時にボーンドラゴンが「グラァァァァ」と、お腹に響くほど大きな声で吠えた。

 

 最高のタイミングでの到着だ!


 ボーンドラゴンの登場で、グランドロールのメンバーたちが慌てだした。かく言う私へ攻撃してきた盾職も表情を硬くして後ろを振り返っている。その隙をついて、サイレントをかける。失敗のエフェクトが出なかったことから、成功を確信してボーンドラゴンを回復職の方へ引くため動いた――。


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※ 2024.5.2 改稿分割追加分。

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