最強はボスを狩る⑥
急げばなんとかなる時間なので、慌てて黒に別れを告げ、猛ダッシュで階段まで行くと58階に昇る。
58階では更にモブの密度が上がり、ちょっと進めば戦闘を繰り返すことになる。出来る限り一度で戦闘を済ませられるようMOBを引きながら進み、漸く59階の階段を見つけて昇った。
ふぅ~なんとか間に合うかも! なんて思った私は、またも大量のMOBと出会う事になった。
時間が無い時に限って、どうしてこうなる! と、見えない相手にイラつき。八つ当たりする気満々で、精錬魔法:ファイアーウォールを放ち、間でホーリフレイムレイズを出来るだけスケルトン系が纏まった所に打ち込み、精錬魔法:ファイヤーストームとホーリーフレイムレイズを更にMOBが固まっている場所へと放ってなんとか処理した。
ボスが湧くまで、残り三分。
ドロップを確認する余裕もないほど時間が押している。あと階段まで少しだから、出会ったMOBはこのまま一度階段まで引いて処理するようにしよう。なんてことを考えていたけど、ついさっきあれだけのMOBを処理したのだから、当然道中にMOBの姿はなかった。そのおかげで私は、ボスが湧くであろう時間までに60階へ着いた。
「間に合った~!」
大量に流れるシステムログは、もう見ない事にする。だって、もうボスが湧く時間だ。まずは60階のフロアを隅々まで回って、ボスをさがそう。見つけたら一撃入れてタゲをとって離れすぎないように引きながら、人ひとりが入れる隙間を見つけよう。
その前にまずは、HPとMPの確認。少しでも減っているようなら全快させて、装備の耐久を砥石で一応回復させておく。準備が全て終わったらバフを入れて、ボスが居そうな場所を回るため出発した。
時間は、既に22:16を過ぎている。
この病ゲーでは、ボスが湧く時間がある程度決まっていて、それをボスタイム――周期がある。湧くボスも違えば階層により周期も違う――と呼んでいる。
今回の60階のボスは、ボーンドラゴンだ。
西洋風のドラゴンが骨だけになった姿をしている。ブレス攻撃が得意で、骨しかないのに飛べる。その代わり移動速度は遅い。と言っても巨体だから、遅い気は一切しないけど、ね。
ボスタイムの周期は、討伐後から約十二時間ごと。
60階の討伐時間は、今朝10:16。なんでこんな正確に分かるのかと言えば、私がかったからだったりする。
とは言え、毎回同じプレイヤーがボスを狩ってしまうと、一般的には独占と言われ嫌われてしまう。だからこそ私は、ここ以外の階のボスにはできる限り手を出さないし、共闘はしてもPKや排除はしないようにしている。
ま、この階に限っては、普段から狩りをしていても人に会わないから問題ないだろう。
あと一応、病ゲーの暗黙の了解で、人気のボスや同盟を作るうえで必要になるボス、連合を組んで行くレイドボスは、公式が用意しているゲーム内でも見れる掲示板に、参加者の募集と共に討伐ボスの名前、討伐開始予定時間などをかき込み共有するようになっている。
私自身は一切掲示板を利用したことは無いけど、フレンドたちはそこから情報を得て参加したりしているらしい。
前方を見ながらマップを視界に入れて迷路になった廊下進んでいると、ボスを示す大きなオレンジ点がマップ上に表示された。
直ぐにボスの元へ移動を開始する。バフはさっき更新したけれど、効果時間の短いバフを幾つか時間差でかけ直す。
ボスが視界に入ると先んじてトランスパレンシーや透明マント、透視化のスキルを使用しているプレイヤーを表示させるディティクションスクロールを打ち上げ、他プレイヤーが居ないことをマップこみで確認しておく。
無事、マップで見える範囲に誰も居ない。それに少しだけ安心した私は、ボーンドラゴンへ一次職で覚えたファイアーボール(+25)を放った。魔法が当たり、ボーンドラゴンが私に向かって走りくる。タゲが取れた瞬間、距離を計りながら走り出す。
ボスを引くついでにMOBも一緒に来るが、今は気にせず三日前に見つけた隙間へ向かう。
基本的にソロの狩りでは、囲まれて余計なダメージを負わないような位置取りする。それは、今回のボス討伐でも基本は同じわけで。
ボーンドラゴンの巨体を利用して入口を塞ぎ、ダメージを与えることで呼び出されるガーディアンスパイトルが入れないようにするつもりだ。
ボーンドラゴンを討伐するとなると普段使っている打掛は使えない。仕方なく、私的にはあまり着たくないフレンド垂涎のオススメ軽鎧へ着替えた。
どこぞのアニメの姫騎士よろしくやたらとボディーラインを強調した軽鎧は、フレンド曰く『これで男を悩殺よ~ん♡』と言う造りだ。鎧の下のスカートが短いのもその影響だろう。
はぁ……、性能は良いのに……本当に勿体ない。この見た目じゃなきゃ、毎回着てもいい位なのに……。やめよ。考えたところで、ボス食べるためには着るしかないんだから……。
言い聞かせるように言い訳して思考を切りかえる。ついでに後ろを振り返ってボーンドラゴンが、しっかりついて来ているかを見た。
「問題なし」
少し速度を上げて追加のバフを入れる。
あとは角を曲がれば、たどり着くと言う所まで進み稀にダメージを肩代わりしてくれるホーリーシールド(+25)を、気休めに入れておいた。
予定通り位置に着き、設置型の魔法をボーンドラゴンが踏むであろう場所へ埋めておく。
・バインド(+18):設置後6分間以内は範囲内の敵に対し三十秒だけ行動不可を与えるデバフ。
・精錬魔法:フレイムサークル。
・ポイズンクラウド(+20):設置後十分間、見えない毒霧で範囲内の敵に対しランダムで毒効果を与える。
設置が終わり、私は気持ちを落ち着かせるためほんの数秒だけ瞼を閉じて集中する。「よしっ」と、気合を込めて頬を叩き、隙間から飛び出すとボーンドラゴンの前へ躍り出た。
今はとにかくタゲを固定するため先手優先で、精錬で攻撃魔法を付けた杖を掲げる。
まずは、サンダー スピア。続いて、サイクロン。更に、アイススピアと間髪入れずに精錬魔法をぶっ放す。
「よし。第一弾は、これぐらいで」
まだまだ精錬魔法を付けた杖はあるけど、討伐中に何があるかわからないから取っておく。
好き勝手に打ち込んだ魔法でダメージを受けたボーンドラゴンが、取り巻きのガーディアンスパイトルを呼ぶため汚い声で吠えで、どこからともなくガシャガシャと骨が当たる音を鳴らしながらニ十体のガーディアンスパイトルが現れた。
それを認めて、残り十メートルほどになったところで柱と折れた柱の間に身を入れる。ついでにここで、もう一度ディティクションスクロールを放り投げた。
閃光が昇り、天井間近で眩く発光する。そのタイミングで、さっと視線を走らせてマップを見るがプレイヤー表示は無い。
「グルガァァァァ」
先に到着したのは、読み通り巨体のボーンドラゴンの方だった――。
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※ 2024.5.2 改稿分割追加分。
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