最強はボスを狩る⑤

 ボス二連戦で時間を使ってしまった私は、ドラマスの奥義とも呼べるトランスパレンシーを使うことにした。

 このトランスパレンシーは、透明化できる魔法なので非常にありがたい魔法だ。がしかし、プレイヤーたちには、ゴミと言われている。理由は、簡単で移動以外の行動を起こせば、直ぐに効果が解けてしまうからだ。


 さっと周囲をマップで確認して、トランスパレンシーを発動させる。視認さえされてなければ、MOBに見つかる事はまずない。


 トランスパレンシーのおかげで、時間をかけずに55階へ辿り着く。5階のつく階は、長時間狩をするプレイヤーの休憩&ログアウト場所として用意された安全地帯だ。


 56階からは、ゲイザーと言う少し厄介な目玉のMOBが出る。このMOBは、トランスパレンシーを見破る。そのため時間をかけたくなくてもMPKを避けるために戦闘をするしかない。

 どうしたらゲイザーに会わずにすむか、考えながら走っているとマップに赤点が六つ表示される。はぁ~とため息を一つ零して、サクット戦闘を終わらせるため直ぐに魔法を発動できる体勢をとった。


 ふぅー、もう少し。二歩……一歩、今だ! フレイムサークル(+20)からの、ホーリーフレイムレイズ。


 めんどくさいMOBことゲイザーの攻略法は、視認される前に火魔法で焼く!

 今回は早めに狩りつくしたいので、フレイムサークルを使った。フレイムサークルは、設置型――床に魔法陣が浮かび、発動は任意でできる――の魔法で範囲内に居るMOB全てを業火で囲い二十秒間燃やしてくれる。

 燃やされ聖魔法の浄化の炎を浴びた、MOBは攻撃する間もなく粒子になって消えていった。


【 ゲイザーを討伐しました。 】

【 3580ゼルを獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンスカウトを討伐しました。 】

【 23564ゼルを獲得しました。 】

【 壊れた盾を獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンウォーリアを討伐しました。 】

【 1508ゼルを獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンスピアを討伐しました。 】

【 4565ゼルを獲得しました。 】

【 古びたヘルムを獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンアックスを討伐しました。 】

【 689ゼルを獲得しました。 】

【 ゲイザーを討伐しました。 】

【 76581ゼルを獲得しました。 】

【 ゲイザーの体液を獲得しました。 】


 よし、タイミングドンピシャ! と自画自賛しつつトランスパレンシーを入れ直して先にを急ぐ。

 マップは常に見ているので、走りながらシステムログを見る。


 ゲイザーの体液なんてアイテム初めて見たけど、何に使うの?


 気になってゲイザーの体液を取り出してみれば、見るもおぞましい色合いのグロイ液体が透明な試験管に入っていた。


 うわぁ、すっごい色。物凄い糸引いてる……うん。見なかったことにしよう!


 若干引きつつ倉庫に入れてしまえば二度と出すことは無いだろう試験管をアイテムボックスに戻した。


 56階で数回ゲイザーを含めたMOBと戦闘になるも特に問題もなく、無事57階の階段を見つけて昇る。

 階段周囲のMOBを確認するためマップを見た私は、黄点=赤ネームプレイヤーの表示と、赤い点ふたつ映っているのを発見した。

 

 あぁ、PKKプレイヤーキルキラー――PKするプレイヤーを殺すこと――したい! でも、時間がっ。PKKのチャンスがっ……。


 欲望の間で葛藤すること一分。私は逸る心を抑えきれずに決断した。バフを更新して歩き出す。向かう先は、階段ではなく黄点の方。久しぶりの獲物を見つけて、ついつい口角があがってしまう。

 

 こう言うのは見つからないよう出来る限り近付いて、まずは相手の様子を伺って~。そんで戦闘になったら割って入るのが常勝の秘訣。

 

 相手がMOBに対してスキルを使ったエフェクトが見えた瞬間、二刀で斬りかかる。


 キィーン。

 

 右手に持つ刀が跳ね返され、甲高い金属音が響く。踏み込みが甘かったせいで、跳ね返されてしまった。


「チッ」


 一撃で仕留め損ねた自分の甘さに対して舌打ちしながら、左の刀で相手の剣を跳ね上げる。隙が出来た瞬間を狙って突きをかまそうと右の刀を突き出した刹那、相手のキャラ名が見えた。

 

 あぁ、物凄く見覚えがある名前だわ――。


 ぁ、やばっ……。


「ごめん。黒、止まんない!」


 一言だけ謝り、右の刀を黒に向かって突き刺す。

 まるでスローモーションで動画を見てる気分だ。突き出された刀を黒が必死の形相で身体を捻り、イナバウワーを決めようとしている。だが、フルプレートでは無理だ。だって、フルプレートだもん。

 全身を覆う金属鎧のせいで身体が後ろにのけ反らず、イナバウワーに失敗した黒がなんとか刃を避けて横に転がり避けた。

 グルグルと4回転ほど周り止まった黒が、すくっと立ち上がり物凄い顰め面でこちらに来る。


 あぁ、逃げたい。なんであの時、私は黄点の方を選んだの! 今からやり直せるなら絶対階段にするわ。


 後悔先に立たずとはよく言ったもので……これから始まるであろう説教を覚悟して反省してるっぽい雰囲気を作る。


「ren!! お前なー、危ねーだろ! 俺が死んだらどうしてくれんだ。このやろー」

「いや、まさか、こんなところで、レッドネームがソロ狩りしてるなんて思わなかったから……本当にごめん!」


 両手で合掌のポーズを取り、いい訳しつつ謝る。


「全く、お前は! 普通レッド居るって分かってて凶悪な笑い浮かべて嬉々として攻撃するとか、どんだけ暇なんだよ! だからお前はっ……。はぁ~」


 何か言いかけた黒が言葉をのみ込むように止めると、とても深い溜息を吐き出た。


 黒こと黒龍は、私のフレンドで、殲滅の破壊者と言う血盟で一緒に色々やらかした仲間でもある。

 彼の職業は、一次職のパラティンがカンスト。二次職はアサシンを選んでて、三次の職は不明。前に三次職は、メインを盾にすると言っていたので、多分盾職にしたはすだ。


 黒とは、病ゲーがクローズドベータテストの頃からのフレンドだ。


 当時の黒はフレンドをゲッシュと言う血盟にカモにされ、ブチギレて喧嘩を売ったことから集団粘着されていた。

 ゲッシュのメンバーは徒党を組んで金品を奪ったり、脅してクエストを手伝わせたり、名前が気に入らないからとPKしたりしていて、多くのプレイヤーが被害にあっていた。その中には、私のフレンド含まれている。だから、復讐するため他のフレンドとゲッシュを追っていた。

 そして、あの日。

 私は、ゲッシュが居ると言う密談を貰って、意気揚々と狩場に向かった。その狩場で襲われていたのが黒で、どうせなら共闘しようと持ち掛けて、ゲッシュに一泡吹かせた事からお互いに会えば少し話す程度の仲になったと言う感じ。


 黒とフレンドとして付き合ってみれば、口悪いけど、仲間想いで、ぶつぶつ言いながらも色々と世話を焼いてくれる良い漢だと分かる。


「そう言えば、こんなとこで油売ってる暇あるのか?」


 懐かしい記憶を辿っていた私は、黒のセリフに慌てて時間を見た。ボスが湧くまで、残り17分――。


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※ 2024.5.2 改稿。

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