第5話 最強はボスを狩る④

 六十階層でHPとMPを全快させつつボスが居そうな場所を探して移動する。


 時計は既に、22:16を過ぎている。

 善悪の塔は十階層ごとにボスが湧く。どのゲームでもそうだが、ボスと言うのはボスタイム――周期がある。湧くボスも違えば階層により周期も違う。


 例えば六十階層のボス――ボーンドラゴンは死んだドラゴンが骨だけになって復活したもの。ブレス攻撃得意で、飛ぶため移動速度も速い――周期は討伐後十二時間ごとで、五十階層の場合は十四時間毎と言った具合だ。


 六十階層の討伐時間は今朝10:16だ。

 詳しい理由は、狩ったのが私だから。毎回同じプレイヤーがボスを狩ると言うと一般的には独占と言われる。だが、この狩場は他に人がいない。普通に狩りしててもすれ違う事もないので、本当に不人気狩場なのだ。そう言う理由でボスを好きに狩っているだけ。


 一応、人気のボスや同盟を作るうえで必要になるボスなどは、掲示板――プレイヤー間でボス討伐時間の共有をすると言った趣旨――に書かれている。

 ぶっちゃけ書くかどうかはその人次第。私は、面倒なのでパス。

 正直に言うと匿名で書ける掲示板は、好きじゃない。その上で掲示板を見るのに時間を使うなら、その分クエストをこなす方が有意義だと思っている。


 マップを視界に入れ、入り組んだ回廊を確認しながら進む。すると、ひと際目立つ大きな赤い点――ボスがマップに表示された。


 ひとまずディティクションスクロール――トランスパレンシーや透明マント、透視化のスキルを使用しているプレイヤーを表示させるスクロール――を打ち上げ、他にプレイヤーが居ないか確認して、本気装備――軽鎧へ着替える。


 軽鎧は、戦士、盾職が使うフルプレートより多少劣る。それでもローブとかよりはマシだけど……。


 ギリギリまで軽鎧を着ない理由は、やたらとボディーラインを強調した造りなのと、足が出すぎている事。更には、胸元が何故かやたら広がっている事など上げればキリがない。

 

 運営としては、男性プレイヤーを喜ばせるために作ったのだろうが、女性プレイヤーである私からすればリアルでは絶対に着る事は無い服装だ。

 

 杖を取り出し、バフをかけ直す。追加するバフはホーリーシールド(+25)――極まれに一度だけ攻撃を代わりに受けてくれる――を、気休めに入れておく。

 慎重に進み、あとは角を曲がればボスだと言う所まで移動した。

 奴のターゲットを引くため、精錬でサンダー スピアの付いた杖に持ち替え準備を整える。

 ほんの数秒、緊張をチラシ集中するため瞼を閉じる。


「よしっ」と、一言発し気合と共にボーンドラゴンの前へ飛び出した。

 杖を掲げ、ボーンドラゴン目掛けて精錬魔法サンダー スピアをぶち込みそのままボーンドラゴンの横を走り抜ける。


 攻撃を受けてひと鳴きしたボーンドラゴンと取り巻きのガーディアンスパイトルが、カシャカシャと骨を鳴らしついて来てるかを確認しながら人一人が入れる通路へ入り込んだ。

 ボーンドラゴンとガーディアンスパイトルニ十体を相手にする場合、ソロだと囲まれて不要なダメージを負わないようにすることが大事だ。


 ボーンドラゴンとガーディアンスパイトルの足の速さの違いを生かし、ボーンドラゴンを路地に嵌める。ボーンドラゴンが入り口を塞いでしまえばガーディアンスパイトルは、私にターゲットを向けたまま何もできず壁沿いをウロウロするだけ。


 順調に移動してくるボスを狭い入口から一歩入ったところで待ち受ける。

 勿論入口には、デバフである設置型の魔法を設置しておく。


・バインド(+18)(設置後6分間以内は範囲内の敵に対し三十秒だけ行動不可を与えるデバフ)

・フレイム サークル(+20)

・ポイズン クラウド(+20)(設置後十分間、見えない毒霧で範囲内の敵に対し毒効果を与える。但し、絶対ではない)


「さて、次は……」


 設置を終えてマップを確認しながら、ディティクションスクロールを放り投げる。


 ここまで注意する理由は、まだこの善悪の塔が出来たばかりの頃に低層のボスを狩っていた際十分に注意していたにも拘わらず、他プレイヤーにPKされかけた――もちろん、返り討ちで殺したけど――ことがあったからだ。


 スクロールを放ると白い発光する光の玉が天井まで上がり、パンとはじけ飛ぶ。そのタイミングでマップを確認すると隠れたプレイヤーが表示される。

 今回は、プレイヤーの表示が無かったのでいないのだろう。 


 ガリガリと削る音が鳴り、ボスが来ているであろう道を見れば、ちょうど角を曲がってくる所だった。


 ボス戦は、極度の緊張と閃きの連続だ。自分の行動一つで、失敗にも成功にもつながる。だからこそ、討伐成功した時の高揚感は忘れられない。

 これからの戦闘を思い、私の口角は自然と上がり心がワクワクした。


残り十歩……五……三で杖を取り出し、アーマーブレイク(+25)――防御力を低下させ、攻撃を通りやすくする――の詠唱を開始。


「グルヲォォォ」


 戦闘開始の雄たけびをあげたボーンドラゴンに杖を掲げて詠唱が終わったアーマーブレイク(+25)を発動する。

 ボーンドラゴンの頭上に成功を示す青く透明な鎧が出現して砕け散るエフェクトが浮かびあがると同時に、武器を持ち替え刀にホーリーウェポン――武器の属性が聖属性の場合、聖属性の効果を高める――を自分にかけた。


 ボーンドラゴンが、大口を開け噛み付ついてくる。

 足の裏を使いボーンドラゴンの横っ面を蹴り上げ、口の軌道を逸らす。その間に自身の股を潜るようにクルリと一回転しながらボーンドラゴンの弱点である首の接続部目指し刀を振るう。


ガキン……ギン。


 刀が当たり鈍い音が二発鳴った。

 弱点を攻撃されたボーンドラゴンは、よろよろと首を振り数歩後退。

 ここでボーンドラゴンを追いかけるような事はしない。折角嵌めたのだから、奴が戻るまで敢えて壁際に留まる。

 ボーンドラゴンが入り口をふさぐまでの隙間時間を利用して、武器を持ち替え魔法の詠唱する。

 離れたボーンドラゴンにも有効なホーリークロス(+15)打ち込んだ。


「グルウォォォォ!」


 低い泣き声をあげホーリークロスに暴れ苦しむボーンドラゴン。遅れて来たガーディアンスパルトイが、ボーンドラゴンに踏みつぶされて数を減らした。


 追撃とばかりに設置型魔法を追加で発動させ、再び杖を持ち替える。今度は水属性MAXの杖を取り出し、練成で付いたアイスランスを叩き込む。

 杖をさっと収納して二刀を取り出し、迫って来るボーンドラゴンを迎え撃つ。

 二撃、三撃――十、十五。


 いつもならここでブレスを食らうはずなのだが、今日のボーンドラゴンはブレスを放つ素振りを見せない。

 いつもとは違うボーンドラゴンの様子に不自然さを感じた私は焦るように攻撃を続けた。


 二度目のバフを更新して、魔力の残りがあまりないことを自覚しながら近接戦を再開する。合間合間でMPPOTを飲みながら、金属と石がぶつかるような音が何度も響かせる。


 左の刀で足の関節部分を狙い打ち込もうとした瞬間、ボーンドラゴンの硬く長い尾が腹に食い込み吹き飛ばされ、壁に激突する。


「ヴグッ」


 到底女子とは思えないほどのうめき声を上げる。

 回復ポーションを使うためアイテムボックスを開くため向けた視線に、密談のお知らせマークが光っている。ポチっと押して確認すれば黒からのメッセージがチャット欄に表示される。


”黒龍” グランドロールが二PTが上に行ったぞ。気をつけろよ。


 なるほど……グランドロールはクランの名前だ。

 善悪の塔のボスをクランで狩ることを目的として作られた。そして、仲間以外が狩っていれば、ボスに回復魔法をかけたり、バフをかけたりして邪魔をすると聞いたことがある。

 ボーンドラゴンが何故、所定のダメージを受けたにも拘わらずブレス攻撃をしてこないのか。その謎が解けた。


 濃縮HPポーションを二本飲み干し、MPポーションを煽り飲みつつ、ボーンドラゴンの攻撃を避ける。スクロールを使い、ディティクションスクロールを放り投げてみれば、真っ直ぐ直進できる道の二つ先の路地にプレイヤーの一団表示が見えた。


 怒りとも喜びともつかない感情が湧き上がり、口角がニヤリと歪む。

 ひとまず持ち替えた杖でボーンドラゴンへ攻撃する振りを見せつつ、精錬でついた最強魔法のひとつメテオストライクを詠唱した。


 ゲージが溜まり完了と同時に、一団へ向け杖を振るう。


 ドンッ……ドンドンドン。


 轟音と共に地が揺れ、悲鳴があがる。悲鳴があがったところで死ぬのは数人。重装備のATKや盾は、生き残っているだろうと二刀に持ち替えボーンドラゴンと生き残ったガーディアンスパイトルを引き連れ、一団が居る場所へ斬り込んだ。


 視認すると同時に、身体を動かし刀で斬りつける。


「ぐはっ」

「ぎゃっ」

 

 私の攻撃とボーンドラゴンの攻撃の巻き添えを食らった者は、無残にその屍――薄い灰色へとキャラクターが変化する――を晒している。


「あと、6人」


 帰還する暇さえも与えるつもりない私は、バインド(+18)を設置、発動させながらサイレンス(+25)――言葉を発する事が出来なくなり、魔法や帰還の護符が使えなくなる――をばら撒いた。

 サイレンスを食らい魔法が使えないただのゴミ――プレイヤーを容赦なく刀で斬り捨てる。


「うふふっ。あと三人」


 PKで興奮している私はペロっと口の端を舐め、戦士職であろう男性プレイヤーに迫り寄る。


「うわぁぁ!」


 情けない叫び声をあげ、へたり込む戦士の首を容赦なく右の刀身で弾き飛ばすとパタリと倒れる。後ろから斧で殴りかかってくる、

 ドワーフを蹴り飛ばしもう1人の戦士の腹を数回切りつけ倒れたのを確認して、ドワーフへと視線を向ければ、既にボーンドラゴンによって殺されていた。


「復活しないの~? 殺し合いしよ?」


 高揚した気分のままお誘いの言葉をかけたのだが、誰一人起きあがる気配がない……。


「はぁ。もう終わり? つまんない」


 まぁ、いっか……今日だけじゃないし!


 プレイヤーの死体が残るその場で気分良く、ボーンドラゴンと向かい合い討伐を開始した。

 今回は順調に、ダメージを与えられている――私がその場から離れないと判断したらしいグランドロールのメンバーたちは、次々と消えていった――予想されるブレスも、同じタイミングで吐き出され避ける事ができた。


「ギュワアアアア」


 雄たけびをあげ黄色い粒子になり消えていくボーンドラゴンを見送る。


【 善悪の塔60階フロアボス ボーンドラゴン を討伐しました。 】

【 5502558ゼルを獲得しました。 】

【 ボーンドラゴンの核を獲得しました。 】

【 善悪の塔61階のスクロールを7枚獲得しました。 】

【 善悪の塔61階の宝玉を獲得しました。 】


 システムログを確認して、討伐時間を確認する。

 さぁ、これから忙しくなると考え、帰還の護符を使い近くの街へと移動した。

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