最強はボスを狩る④

 さて、どうしようか。確実にこのまま進めば、MPKモンスターキルを食らってしまう。かといって、ここ以外道がないからプレイヤーが倒すのを時間もない。ボスを諦める? それは、絶対に嫌だ。


「はぁ、めんどくさい……けど、仕方ない」


 何で他人のためにボスを諦めなきゃいけないのかと腹立たしく思いながら、仕方ないと腹を括る。何を置いてもボス優先な思考しかないけど、これが私だ。


 今回は大量にMOBがいるため、そのまま聖属性MAXの杖を持ちプレイヤーが通るであろう場所で待つ。


 もう少し、そう、層のまま進んで。

 五……四……三……二……一、零!


 ホーリーフレイムレイズを発動すると同時にMOBを引いたプレイヤー二人が目の前を走り抜けていく。丁度いい塩梅でスケルトン系のMOBが範囲に入り、焼かれていく。が、視界の端に認めたくない黒物体――山羊の頭に人間の体、大きな黒い翼、三叉の槍を持つ悪魔――が映った。


 噓でしょ! なんで、こんな時に限ってランダムボスのバフォバフォメットが湧いてるの!! マジ、最悪。


 レアボスと言われるレイスに続き、いつ出現のか、どこに出現するのかも不明なボスであるバフォメットの登場で、発狂したい気分になった。もう、見なかったことにしてしまおうかと現実逃避しながら、三人なら何とかなるかもしれないと考え直して近くにいる二人のプレイヤーを振り返る。

 が、二人のプレイヤーは助けられたことへの礼も言わず、バフォメットのタゲターゲットが私に移ったのを良い事に目の前で帰還の護符を使い消えていった。


「あいつら絶対に殺す! MPKの借りは、PKで返す」


 こんな時、PKになれていると本当に助かる。助けて貰ったにも拘らず、MOBどころかボスさえも押し付けて消えた二人のプレイヤーの名前は、消える前にしっかりとSSスクリーンショットで保存済みだ。

 ボス戦が終わったら、キャラデリキャラクター消去するまで追いかけまわして殺し続けてやる!

 

 そう心に決めた私は、目の前で苦しむバフォメットへ視線を向ける。


 出来ることなら、このまま倒したい。けど、バフォ相手じゃ無理だ。なら捕らえてる今の内に与えられるだけのダメージを与えておきたい。

 

 手始めに聖魔法のホーリークロス(+15)を打ち込んでおく。この魔法は発動前に少し時間がかかる。そこで私は、減っていたMPを回復するため特濃MPポーションを一本飲み干した。


 ホーリークロスが発動したようだ。雄たけびを上げながら三叉の槍を振り回していたバフォメットが宙に浮き、まるで十字架に張り付けにされた格好になった。と思えば、沢山の白金の杭が現れバフォメットの頭から足へ、右手から左手へと打ち込まれていく。


「ブゥオォォォ!」


 まだまだ元気なバフォメットの様子を見て、ですよね~と半笑いになった。何故ならホーリークロスは演出こそ派手だが、与えるダメージはしょぼいからだ。


 立て続けのボス戦で、バフがキレ始めている。バフォが自由になる前にバフを更新し、ついでに武器を強化値+29のムラクモ×オハバリに持ち替えホーリーウェポン(+25)を付与する。愛刀である武器に聖属性の薄い膜が張ったのを確認して、物理でバフォを斬りつけた。


 ギンッ!


 金属同士がぶつかる音が鳴り、刀を持つ右手が鈍く痺れる。横からなぎ払うようにバフォメットの蹄が迫り、身体を捻り何とか避けると追撃とばかりに、今度は三叉の槍を振り下ろされた。

 体勢を立て直す余裕があるはずもなく、左手に持った刀の棟で受け、お返しに右手の刀で脛から膝にかけ切りつける。

 上手く私の攻撃が入ったらしくバフォメットがバランスを崩した。それを好機だと確信して、武器の付与をファイアーウェポン(+20)に替え、勢いを殺さず二刀スキル旋風切りをお見舞いする。


「ブッ、フォオオオオ!!」


 渦巻く風が出現してバフォメットを包み込むと、風に触れた個所が切り裂かれていく。激しい雄たけびを何度もあげたバフォメットが、渦巻く風の中から少しでもこちらにダメージを与えようと攻撃してくる。

 何度も往なしたり、躱したり、弾いたりしながら、バフォメットの隙を狙う。


 バフォメットが勢いをつけて右から両手に持った三叉の槍を振り下ろす。その力を利用して二刀で左上に弾いた。

 次の瞬間、バフォメットが勢いに負けて仰向けに倒れた。

 

 待ちに待った隙が、出来た! そう考えるよりも先に私の身体が動く。


 バフォメットの腹に乗り上げると同時に、二刀を渾身の力で心臓に突きさし、精錬魔法:サンダーライトニングを叩き込む。心臓に直接攻撃すれば、しょぼい魔法でも効果は二倍だ。


「プビュオォ……」


 私の読み通り、残り少なかったHPをサンダーライトニングで一気に枯らしたバフォメットは、情けない鳴き声を上げると粒子になって消えていった。


【 善悪の塔を彷徨いしバフォメットを討伐しました。 】

【 2586576ゼルを獲得しました。 】

【 バフォメットのブーツを獲得しました。 】

【 善悪の塔91階の宝玉を獲得しました。 】



「はぁはぁ……しんど……はぁはぁ」


 極度の緊張を強いられた疲労感から、その場にへたり込む。

 一応マップでMOBが近くに居ないかを確認する。ついでにHPとMPを確認してみれば、MPは半分、HPに至っては一割しか残っていなかった。


「本当にギリギリだった。やば、今更足が震えてる。流石に回復魔法も無い状態で、ボス二連戦は心臓に悪いわ!」


 もう絶対、次は逃げると心に決めて、震える足で立ち上がる。HPは座っている間に特濃HPポーションを飲み満タンで、特濃MPポーションを飲み、ついでに空腹ゲージを満たす木苺のタルトを口へ放り込んでおく。


 お腹はポーションのせいかタプタプだけど、万全の状態になった私は階段を目指してダッシュする。既に狩り尽くしてしまったのか、MOBに会うこと無く52階へと続く階段に到着した――。


 六十階層のボスが湧くまで、残り36分――。


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※ 2024.5.2 改稿。

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