最強はボスを狩る③
52階へ向かうためマップを見ながら小走りに進んでいた私は、一瞬だけ視界に四角い箱が映り足をとめた。
「おぉ! 珍しい」
約三カ月ぶりに見た宝箱につい声が出てしまう。
どうしよう、開ける? この階層の宝箱は、当たればかなり美味い。だけど、外れだったらボスタイムに間に合わないかもしれない。
時間的猶予が無い私は、数秒だけ考えて賭けにでることにした。
病ゲーの病たる由縁のひとつが、この宝箱にある。
宝箱は、滅多に出現しない。開けるためには、鍵を用意しなければいけない。その鍵もMOBを倒して集める必要があるし、鉄<銅<銀<金<七色と五種類があって鍵の種類によって当たりのパーセントが微妙に変わる。
ぶっちゃけ、私の体感で言えば本当に0.01%とか、その位の変化だ。
「金にしよう」
七色の鍵は未だ見たことがないので、手持ちで一番良い金の鍵を宝箱に差し込んだ。
右に鍵を回せば、パカっと軽快な音が鳴って宝箱の蓋が開く。
【 レイスが出現しました。討伐猶予時間は、5:00です。 】
「……むぅ」
久しぶりに見たのに外れだと分かった途端、私は期待していた分ムッとした。
八つ当たりするため宝箱がある場所へホーリーフレイムを発動させる。だが、既にレイスの方が数コンマ早く攻撃魔法の詠唱を終えていた様で、私は諸にダークファイアと呼ばれる黒い炎を飛ばす攻撃を受けた。
近くに居たため身体ごと弾き飛ばされ、ホーリーフレイムが中断されてしまう。
攻撃が当たって嬉しいのか赤い相貌を光らせていたレイスは、骸骨の口部分をカタカタ言わせて笑う。その姿が癪に障った私は、ついつい女子力を捨てて舌打ちする。
「チッ」
ぼろぼろの黒衣から両手の鎌を突き出したレイスが、浮遊した状態で更に攻撃を加えて来る。それを避け、次の行動を予想しながら 精錬で杖に付けた回復魔法を自分に向けてかける。
職問わず武器には精錬で色々な魔法やスキルがつけられる。
ただし、武器に付与される魔法やスキルはランダムで、欲しい魔法やスキルが付与されるまで繰り返すことになる。私の経験上になるが、欲しい魔法が出ても使用後のディレイが三十分、一時間、二時間とこちらもランダムなので、本気で欲しいスキルや魔法を得るには全財産突っ込む気でいかないと後悔する。
精錬を一度するごとに高級圧縮魔石十個と100K=100,000ゼルが必要になり、ついた魔法やスキルを消す場合も25K=25,000ゼルを必要とする。勿論、精錬する際に使用した高級圧縮魔石は戻ってこない。
なんとかレイスと距離を取りたい私に、レイスは何度も鎌で切りつけてくる。それにイラついた私は、使用MP減少のついた杖から別の杖に持ち替える。
「ここで使いたくなかったけど……」
アンテッドにはこれが一番効くのだが、この杖の精錬魔法:アンデッドデヴォーションは、二次職の回復職が使える聖属性の最高位魔法だ。この杖を作るためにかかった費用で、私は三カ月毎日欠かさず十時間の狩りをし続けた。その上、アンデッドデヴォーションのために武器へ聖属性の属性石をMAXまで二百個近くつぎ込んでいる。
属性石は、付与した属性石の防御力や攻撃力を上げてくれる。付与できるのは一種のみで、武器防具、アクセサリーと限られる。しかも、一度付与すれば二度と外すことはできないし、最大付与して通常の攻撃だと200程度しかあがらない。だが、属性の乗った魔法攻撃は、約二倍ほどまで上がる。
レイスが一瞬止まったのを確認した私は、そのタイミングでアンデッドデヴォーションを打ち込んだ。レイスの腹部から白金に輝く閃光が膨れ上がっていく。苦し気に呻くレイスの腹部から四方八方に閃光が漏れ出した瞬間、レイスの身体が弾け飛んだ。
【 レイスを討伐しました。討伐時間は、03:43 です。 】
【 102558ゼルを獲得しました。 】
【 レイスの黒衣を獲得しました。 】
【 レイスの眼球を獲得しました。 】
「どうよ? 聖属性MAXまで突っ込んだ、強化済みアンデッドデヴォーションの味は?」
あっさりとレイスを倒した私は、一人だと言うのに恥ずかしげもなくニヤリと笑いドヤ顔を決めた。やっておいてなんだけど、キャラじゃないし凄く恥ずかしい。そう思った途端、急激に顔に熱が集まるのを感じて、私は急いで両手をパタパタ振って熱を冷ました。
しばらくの間、その場で顔を熱を取りつつレイスのドロップを確認する。
ゼルは、そこそこ。ドロップ品のレイスの黒衣は、透明マントの材料になるアイテムだし、レイスの眼球は杖の材料になるものだ。ふたつもドロップが落ちたことにホクホクと顔が緩んだ。
熱が冷め、移動を開始する。
小走りで進んでいるのだが、やたらとMOBが湧いてる。レイスに比べれば、スケルトン系の群れなど雑魚でしかないけど、多すぎる。
んー、何かいつもと違う。絶対におかしい。どうしてこんなに階段の方に沸いてるの? …………まさか!!
有る可能性に気付き、出来る限りマップを見ながら階段を目指す。
あと少しで階段と言うところで、見ていたマップに二つの青点――プレイヤーを示す表示と二十体前後の赤点――MOBを示す表示が見えた。
あぁやっぱり……。
自分の予想が、正しい事を知った瞬間だった――。
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※ 2024.5.2 改稿。
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