第4話 最強はボスを狩る③

 五十一階層で出くわしたバフォメットのせいで時間を取られた私は、五十二階層の階段を駆け上がる。

 MPKしかけた奴らにはキッチリあとで仕返しするとして、本気で急がないとボスが湧くまでに間に合わない。


 ここで使うのは嫌だけど、仕方ない。

 ドラマスの奥義とも呼べる透明マントの劣化版であるトランスパレンシーを使うことに。

 トランスパレンシーは、透明化できる魔法なので非常にありがたい魔法なのだが、このゲームにおいてこの魔法は、ゴミと言われている。


 所以は使用中にあるのだが……。私としては、全く問題ない。

 トランスパレンシー使用中は、一切の攻撃を受けない代わりにMPがガッツリ持って行かれる。そして、キャラ歩く、走る、PTチャット、クランチャット、同盟チャット以外の動作――HPMPポーションを飲む、白チャでしゃべるなどをすれば、その効果は切れてしまう。

 最後に、使う時は周りに人やモンスターが居ないこと。これが一番大事だ。


 さっと目で確認して、トランスパレンシーを発動させる。視認さえされていなければ、ここの敵には有用でほぼ攻撃されることはない。


 サクサク進み五十三階層、五十四階層と昇り、五十五階層へ辿り着く。

 そうそう、各階層の五と付く階層は長時間狩をするプレイヤーの休憩場所として用意された安全地帯になる。

 今の私には必要ないものなので、ここもサクッと進む。


 五十六階層からは、ゲイザーと言う目玉の魔物がトランスパレンシーを見破るため戦闘しながら進むしかない。できるだけ戦闘を避けたいところだが、引き連れて階段を昇るわけにも行かず、周囲を警戒しつつ早足で歩く。


 マップの表示に敵を示す赤い点が六個あるのを確認して、直ぐに魔法を発動できる体勢をとった。

 ふぅー、もう少し。二歩……一歩 

 

「フレイムサークル(+20)からの、ホーリーフレイムレイズ(+20)」


 ゲイザーの攻略法としては、視認される前に先手を打つこと。

 フレイムサークルは設置型――床に魔法陣が浮かび、発動は任意――の魔法で範囲内に居るモブを二十秒間燃やす。

 燃やされ聖魔法の浄化の炎を浴びた、モブは黄色い粒子になり消えていった。


【 ゲイザーを討伐しました。 】

【 3580ゼルを獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンスカウトを討伐しました。 】

【 23564ゼルを獲得しました。 】

【 壊れた盾を獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンウォーリアを討伐しました。 】

【 1508ゼルを獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンスピアを討伐しました。 】

【 4565ゼルを獲得しました。 】

【 古びたヘルムを獲得しました。 】

【 ハイ・スケルトンアックスを討伐しました。 】

【 689ゼルを獲得しました。 】

【 ゲイザーを討伐しました。 】

【 76581ゼルを獲得しました。 】

【 ゲイザーの体液を獲得しました。 】


 うし、タイミングドンピシャ! と一人喜びシステムログを確認して、階段を目指す。


 そう言えば、ゲイザーの体液ってはじめて見た、何に使うんだろ? 

 気になった体液をアイテムボックスから取り出す。ゲイザーの体液は、透明な試験管に入った見るもおぞましい色合いのグロイ液体だった。

 何気に逆さにしてみれば、試験管内をねっとりとした液体が糸を引くようにおちている。


 ……うん。見なかったことにしよう! 


 そそくさと、試験管をアイテムボックスに戻す。スルースキルは何気に優秀な私は、マップへ視線を向けて進む。

 五十六階層では、ゲイザー含め数回戦闘になるも、特にヤバイ状況にもならず順調だ。


 無事、五十七階層の階段を見つけ気を抜いていた私のマップに、黄色の点――赤ネームプレイヤーの表示だ――と、赤い点ふたつが映し出される。時間も無いのにPKKしようと流行る心を抑えきれず、ついニヤリと笑い即座にバフを更新する。


 こう言うのは見つからないよう出来る限り近付き、角から様子を伺って相手の戦闘に割っては入るのが常勝の秘訣だ。


 キィーン

 

 右手に持つ刀が跳ね返された音が響く。

 踏み込みが甘かったせいで、跳ね返されてしまった。


「チッ」


 一撃で仕留め損ねた自分に舌打ちしながら、左の刀で相手の短剣を跳ね上げる。踏み込み止め突きをかまそうと右の刀を突き出した刹那、見えたキャラ名に酷く見覚えがあった――。


 ぁ、やばっ……。


「ごめん、黒止まんない!」


 一言だけ謝り、右の刀を黒に突き刺す。

 まるでスローモーションで動画を見てる気分だ。突き出された刀を必死の形相で黒が身体を捻り、イナバウワーを決めようとしている。だが、フルプレートでは身体が後ろにのけ反らず、失敗し転がり避ける黒の姿が見えた。


 グルグルと4回転ほど周り止まった黒が、すくっと立ち上がり顰め面で詰める寄る。


「ちょっ!! ren……お前なー、危ねーだろ! 俺が死んだらどうしてくれんだ。このやろー」


「……ごめんなさい。まさかこんなとこで、ソロ狩りしてるなんて思わなかったから」


 両手で合掌のポーズを取り、平謝りといい訳をする。

 一応は反省している。けど、こんな場所でソロしてる黒も悪い。


「まったく、相変わらず凶悪な笑い浮かべて、レッド攻撃するとか。どんだけ暇なんだよ! だからお前はっ……はぁ~」


 黒は、何かを言いかけ止めると溜息を吐き出し、頭をボリボリと掻いた。

 黒龍――通称=黒の職業は、現在一次のパラティンがカンスト、二次のアサシンを経由して、三次転職まで終えている。三次職は、メインを盾にしているはずだが、何を選んだのかはわからない――とは、病ゲーがベータ―を始めて半年経ったぐらいの頃に知り合った。

 黒は、口悪いけど、いい奴で。身内には優しく世話焼き。


 私と黒が知り合ったきっかけは、当時ゲシュと言うクランに粘着されていた黒が集団で襲われているところに私が加勢したことが始まり。


 黒を襲っていたゲシュには、ゲーム内の友人も複数人被害に遭っていて私自身潰したいと思っていた相手だった。

 奴らは初心者と知っていてそれを対象に野良PTを組んで狩りに行き、分配金をちょろまかしたり、狩り中にいちゃもんをつけたり、バレたらその罪を言い当てた相手に罪を擦り付けたり、と、やりたい放題していた。

 黒の場合は身内がゲシュにやられてキレた上に、ゲシュに喧嘩を売ったせいで粘着されたらしい。

 ま、今となっては懐かしい思い出だ。


 その時から黒とは何気に良く話しているし、クランを作った時にも加入してくれた――今はもう無いけれど……。

 暇さえあれば一緒に狩りも行くし、素材を交換したりもする。今では同盟員でもない私をレイドに誘ってくれたりもしている。

 微妙に私の方がお世話になってる気もするけど、黒はお互い様だと言うだけで何も要求して来ない。


「チッ」


 思い出していたらなんとなく、イラっとするので舌打ちしてみる。


「ren、お前こんなとこで油売ってる暇あるのか? ボスタイムでのぼってんじゃねーの?」


 黒のセリフに慌てて時間を見れば、残り十七分。

 急げばなんとかなる時間! 挨拶もそこそこに慌てて黒に別れを告げて、猛ダッシュで階段まで戻り五十八階層へ昇る。


 ここからは更にモブの密度が上がり、ちょっと進めば戦闘を繰り返す。十五回目の戦闘を終え漸く五十九階層の階段を昇れば、誰かが引き連れて来たであろうモブの塊がっ。


 時間が無い時に限って! とイラつきを露にファイアーウォール(+17)とホーリーフレイムレイズ(+20)を交互に連発して処理。


 残り三分でなんとかギリギリ階段に溜まったモブの処理を終わらせる。行きつく間もなく再びダッシュでボスが待つ六十階層の階段まで駆け抜けた。

 後ろに引きつれたモブのターゲットを切るため一度六十階層へ昇る。ついでにHPとMPを戻す。

 全快になったところで、バフを更新した。


「よし、殲滅!」


 両頬を叩き気合を入れて五十九階層へ戻る。

 そして、自分が引き連れて来たモブを刀とホーリーフレイムレイズ(+20)を使い全て倒した。まぁ、ターゲットが切れてるおかげでやり易かった。


 大量に流れるシステムログは、もうスルー。だって、ボスが湧くまで残り一分を切っているから!

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