第3話 最強はボスを狩る②

 五十二階層へ向かうため記憶を頼りにつき進む。不意に視界に飛び込む四角い箱に足をとめ、確認すれば珍しく宝箱が出現していた。

 どうしよう、開ける? この階層の宝箱は当たれば確かに大きいけど……外れを引いたら、確実に痛い思いをする。


 時間的猶予が無い中で逡巡した私は、賭けにでる。

 アイテムボックスから金の鍵を取り出し、宝箱へ差し込む。

 パカっと軽快な音が鳴り、宝箱が白く発光した。


【 レイスが出現しました。討伐猶予時間は、5:00です。 】


「……ハズレデスネ」


 諦めの言葉と共に溜息を吐き出す。

 そして、瞬時にホーリーフレイム(+25)を発動させる。だが、既にレイス――骸骨の頭を持ち、黒い体に白い布を巻きつけ、両腕がカマの形をしている――の方が数コンマ早く攻撃魔法の詠唱を終えていたらしく、諸にダークフレイムを身体で受ける。

 攻撃を受けたと同時に弾き飛ばされた私は、詠唱中のホーリーフレイムが中断されてしまった。


「チッ」


 舌打ちと共に、精錬で杖に付けた回復魔法を発動する。


 バッファーに限らず職問わず回復魔法が使えるのは武器に精錬で、様々な魔法を付与することができるからだ。とは言え精錬と言うものは、ある意味でギャンブルと変わらない。

 付与される魔法やスキルはランダムで、自分が欲しい物が出るまで繰り返すことになる。欲しい魔法が出ても使用後のディレイが三十分、一時間、二時間とこちらもランダム。


 精錬を一度するごとに高級圧縮魔石十個と100k――100,000ゼルが消える。気に入らず取り外す際にも25k――25,000ゼル消える。勿論、使用した高級圧縮魔石は戻ってこない。


 なんとか、距離を取りたい私の思考を読んだかのように、レイスは、鎌の形に変形した腕で何度も切りつけてくる。


「仕方ない……ここで使いたくなかったけど……」


 別の杖に装備を変更すると同時にアンデッドデヴォーション(+20)を発動させる。

 レイスの身体の内側から、白く輝く光がその肉を引き裂くようにあふれ出し、弾けると黄色い光粒子へと変り消えていった。


「どうよ? 聖属性MAXまで突っ込んだ、強化済みアンデッドデヴォーションの味は?」


 勝ち誇り、ドヤ顔を決めるも誰もいない。ソロだし、わかってた。


 急激に恥ずかしくなるが、ボスの存在を思い出しすぐにシステムログを確認した。


【 レイスを討伐しました。討伐時間は、03:43 です。 】

【 102558ゼルを獲得しました。 】

【 レイスの衣を獲得しました。 】

【 レイスの眼球を獲得しました。 】


 中々に美味しい。

 レイスの衣は透明マントの材料になるし、レイスの眼球は杖の材料だ。

 ホクホク笑顔で、足取り軽くその場を後にする。


 レイスに比べれば、ハイ・スケルトンの群れは雑魚でしかない。出くわす度、ホーリーフレイムレイズ(+20)を仕掛け燃やしていく。

 もう少しで五十二階層の階段と言うところでマップに、二つの青色プレイヤーを示す表示と二十体前後のモブを示す赤い点が見えた。


「チッ」


 このまま進めばMPK(モンスターキル)を食らってしまう。かといって、今から引き返し別の道を進めばボスの湧き時間に間に合わない……めんどくさい。


 ものぐさな私は仕方ないと腹を括る。何を置いてもボス優先な思考しかないけど、これが私だ。


 先ほど使った聖属性MAXの杖に持ち、二つ前の角でプレイヤーが来るのを待つ。


 残り、五……四……三……二……一


 ゼロとカウントするタイミングでプレイヤーが、飛び込んでくる。と同時にホーリーフレイムレイズ(+20)を発動。だが、ここでイレギュラーが起きた。


 丸く形づくられた魔法陣の右端に、いつの沸くのか、どの階層に湧くのかわからないと言われている、バフォメット――山羊の頭に人間の体、大きな黒い翼、三叉の槍を持つ悪魔だ――がいたのだ。


 焦る私は、三人ならと助けた二人を振り仰ぐ。

 だが、奴らは助けられたにも拘わらず、目の前で帰還の護符を使い消えた。

 キャラが消える直前急いでスクリーンショットを数枚撮り、確実に後で殺そうと心に決める。


「マジ、殺す。MPKの借りは、PKで返す」


 消えた二人に対する怒りの矛先を目の前のサークルで苦しむバフォメットへ。


 出来る限りでいい。今のうちに与えられるだけのダメージを与えておきたい。後手に廻ると自分のHPが心もとない。

 まー、バフォメットはこれ――私の愛刀、+29ムラクモ×オハバリでもダメ通るからまだマシか。


 ホーリークロス(+15)の詠唱をはじめると同時に、特濃MPポーションを1本飲み干す。詠唱が完了すると同時に、杖をバフォメットへと突き出すと、その周りに白に輝く十字が現れる。

 

「ブゥオォォォ!」


 雄たけびをあげる、バフォメット。武器を+29ムラクモ×オハバリに持ち替えホーリーウェポン(+25)を再度詠唱し武器に、聖属性の薄い膜が張ったのを確認して斬りつける。


 ギンッ!


 金属同士がぶつかる音が鳴り、刀を持つ右手が鈍く痺れるのを感じる。

 横からなぎ払うように、バフォメットの蹄が迫り、身体を捻り何とか避けると追撃とばかりに、今度は三叉の槍を振り下ろして来る。

 体勢を立て直す余裕もなく、左手に持った刀の棟で受け、お返しに右手の刀で脛から膝にかけ切りつける。


 バランスを崩すバフォメットを見遣り、好機だと確信しファイアーウェポン(+20)をかけ直し、勢いを殺さず二刀スキル旋風切りをお見舞いする。

  

「ブッ、フォオオオオ!!」


 バフォメットは、身体を切り裂かれながらも、激しい雄たけびをあげ、それでも攻撃を仕掛けてくる。


「さっさと死ねぇっっ!」


 腹のそこから叫び、三叉の槍を左手の刀でいなすと、右手の刀を渾身力を籠めバフォメットの心臓目掛け突き刺し、精錬で刀に付けたサンダーライトニングを発動し叩き込んだ。


「プビュオォ……」


 その泣き声と共に黄色い粒子になり消えていく。バフォメットの身体が消えその場に、へたり込む形になってしまうも、酷い疲労感に襲われ手の感覚は無くすぐには立ち上がれそうにない。


「はぁはぁ……しんど……はぁはぁ」


【 善悪の塔を彷徨いしバフォメットを討伐しました。 】

【 2586576ゼルを獲得しました。 】

【 バフォメットのブーツを獲得しました。 】

【 善悪の塔91階の宝玉を獲得しました。 】


 見える範囲の中央上部に置いた、HPとMPを確認できるバーを見れば……MPは全体の五割、HPに至っては全体の二割しか残っていなかった。


「全財産使って、精錬しといて良かったぁ」


 心の底からの思いを知らず知らず言葉にしていた。


 へたり込むこと五分、漸く感覚が戻ってきたところで、HPとMPを回復すると疲労回復効果のある木苺のタルトを口へ放り込み立ち上がる。

 装備の耐久を確認し、五十二階層の階段を目指し歩きはじめた。


 出くわすはずのモブを、既に狩り尽くしてしまったのかその後、モブに会うことも無く階段へと到着した。


 六十階層のボスが湧くまで、残り三十六分――。

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