第一章 狩る者
最強はボスを狩る①
今日も楽しく病ゲーを終えた私は、自室のベット上に起き上がり、ヘットギアを外す。まだ少しゲームの時の感覚が残ってる頭を軽く現実に戻すために振っていると机の上に兄からの伝言と数種類のゲームに気付いた。
『お兄ちゃんの、会社で出来たばかりの新作ゲームです。面白いやつだけ教えて! 報酬は、今月分のアップデート内容は、ドライアド大森林内でのデイリークエストに魔法書がでるかも? じゃぁ、ゲームの方よろしく! あと、しっかり食え!』
「あー、面倒くさい。今はレベル上げたいのに……。てか、私、毎月やるなんて一言も言ってない! もう都合よく妹使い過ぎだよ。馬鹿兄貴!」
でもまぁ、協力しないとアップデート情報貰えないし、さっさと新作やって終わらせて病ゲーでレベ上げしよう。
元々人付き合いが苦手だった私が、オンラインゲームの病ゲーにどはまりしたのは約4年前。
家には滅多に帰ってこれない父は、ゲームの製作会社を経営していた。そんな父が珍しく家に帰って来るとビューティフル・ライクと言うゲームをくれた。翌日、父は母と共に買い物に出かけ、交通事故に遭い帰らぬ人に……。
父がくれたゲームをやろうと思えたのは、兄が父が作った会社を失いたくないと必死になって勉強していたからだ。
私が貰ったゲーム版は、まだ販売前のもので父が亡くなって半年後にクローズドベータテストのテスター募集が行われた。勿論私も応募する。三百人の募集に対して集まったのは一万人近く。当選通知が来たときは、本当に嬉しかった。
一カ月のクローズドベータテストが終わり、そのままオープンベータテストが始まった。期間は同じく一カ月で新しく参加する人数は約十倍の三千人。
ゲーム内で色々ありつつも私は順調にキャラを育てていく。ちょっとした行き違いがあって揉めたり逆に仲間が出来たり、本当に楽しくて面白くてやめられなくなってしまった。
そのせいで家からでなくなった私に兄は、新作のゲームを持ってくる。勿論、全てクローズドベータテスト前の物で――デバッカーみたいなものだ。
まぁ、兄には食べさせて貰ってるしね。ゲームは好きだから手伝うけど、流石に毎週はだるいしメンドクサイ。それでもやる理由は、公式にアップされる前のアップデート情報を数時間~数分前に得ることが出来るから。
水を飲み終わったところで、ギアを被りPC経由で新作ゲームを始める。どのゲームでもキャラ名は全て同じrenにしてある。renの由来は、安直に
ベットに身体を寝かせ、ギアの横にあるスタートボタンを押した。
一時間ほど新作ゲームで遊び、改良して欲しい所やバグや感想を書いて兄にメールを送る。何度かその作業を繰り返し、漸く終わりを迎えて時計を見れば、既に21:00を回っていた。
「あぁ。ボスタイム!」
急いでテスター用ではないギアを被り、病ゲーへログインする。
暗転する視界に一瞬の不安を感じながら瞼を開けば【ようこそ、ビューティフル・ライクへ】と言う金色の文字が左から浮かび上がって消えていく。そして、けたたましい音楽と共に前回の大型アップデートで出来た善悪の塔が現れる。
ログインするためのIDとパスワードをキー操作で入力すれば、再び視界が暗転した。
目を開けると個人専用のホームの天井が視界に入った。
個人専用のホームは、プレイヤーが個人的に購入可能な部屋で城下街と呼ばれる城を有する街にしかない。購入金額は、広さによりピンキリで、一番高い部屋だと軽く1
因みに私の部屋は、六畳と八畳の二間続きで八畳の方にはロフトがついているタイプ。お値段は500M=500,000,000ゼルだ。
ベットから起き上がって、早々にアイテム蘭を開く。
今着ているのは装備は、街用で上はTシャツ、下は黒のジーンズ。知人曰く、女子力の欠如が甚だしい装備らしい。そう言えば、この装備で街を歩いているのを見かけたら、今度こそフリフリのワンピース着せるとか言われてたような? ま、いいか。
今からボス狩りに行く予定なので、狩り用の装備に着替える。着替えると言ってもアイテム蘭をタップするだけで、着替えられるので楽だったりする。
狩り用の装備は、赤地に薄桃の桜が描かれた打掛と金と黒の帯、下に履くパンツはスパッツっぽい何かに編み上げブーツ。
目立つ装備ではあるけど、これが一番防御力や魔法抵抗力が高い。
着替えも終わり、アイテム欄のポーションや魔石の数を確認する。それが終わったら装備の耐久も確認。今回は、このまま行っても問題ないだろうと結論付けて狩場へ向かうため部屋を出た。
目指す場所はオープンベータテストの頃からある【 プラークシテアー 】だ。この街に行くには転移魔法陣を使う。移動は一瞬で、移動金額は73K=73,000ゼル。正直、何度も使いたくないお値段である。
街の中央部分にある噴水の近くにいる
移動費を出してでも通う価値のある善悪の塔は、現在この病ゲーに置いて高レベル専用狩場だと言える。
見上げた石造りの塔は、鉛色の蜘蛛を突き抜け先が見えない。幾重にも蔦が巻きつき、おどろおどろしい見た目をしている。塔の周辺にいる
バンパイア・バットは、ノンアク――ノンアクティブの略称:先制攻撃を仕掛けてこない敵の事――なので、華麗にスルーして塔内部へ入った。
一階は、全面的に青白い光で照らされていて、MOBの出現はない。所謂、安全地帯だ。ただし、道は迷路になっているため、記憶力が必要になる。
覚えている道順をさくさく辿り進み、一階に設置された階層転移のポータルを目指す。
善悪の塔は、全百階層からなる強大な塔だ。
因みに現時点で私が攻略出来ているのは六十階まで、それ以上の階層になるとソロでは厳しく流石に
で、善悪の塔には、まだまだ色々と仕様がある。
一、十、二十、三十と十階層ごとに階層ボスがいて、十階層ごとに善悪の塔〇1階層のスクロールと言うアイテムか、善悪の塔〇〇階層の宝玉が必要になる。
このスクロールや宝玉が無いと上に階層に登れない。しかもスクロールは基本一回使いきりで、再び手に入れるために下階層で凡そ五十体以上のMOBを狩って入手しなければならないのだ。
宝玉に関しては何度でも使用可。ただし、PKを繰り返してレッドネーム――名前が赤く染まる事――になった状態で死に消えた場合は、もう一度手に入れる必要がある。
因みに、一万体にひとつだけドロップするかどうかのレアがある。その名も”善悪の玉”。このアイテムをあるNPCに持っていくと好きな階層のスクロール百枚+このアイテムで、望んだ善悪の宝玉が作ってもらえる。ほぼ失敗しないが、たまに消え去ってしまうこともあるらしいので注意が必要だ。
知人は、五回連続で失敗して消えたらしい。思わず冥福を祈った私は悪くない。
二階へ繋がる階段側で一度足を止める。ここからはモンスターが出現するため、再度装備の確認を行った。
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※ 2024.5.2 改稿。
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