世界最強はニヒルに笑う。~うちのマスター、ヤバ過ぎます~(改稿中)

ao

プロローグ

第1話 最強を見た


 この世界に存在するプレイヤー(冒険者)には、3つの禁忌が存在する。

 ゲーム会社が作った訳ではない。

 プレイヤーが、自主的に口伝するだけのものだ。

 仲間だろうが、違おうが、初心者マーカーの新人は必ず嫌と言うほど古参のプレイヤーから聞かされる。


 1つ――何があろうと、ピンクメッシュの和装アバターには、決して喧嘩を売ってはならない。

 2つ――出会ってしまったら、目視される前に帰還の護符を使え。

 3つ――仕掛けられたら、潔く死ね。

 

 である……。

 敵と見なせばクランが潰れるその瞬間まで、徹底的に叩きのめし、泣き叫び懇願しようとも決して逃れることはできない。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「ねぇ。君たち……。そのままだと死んじゃうよ?」


 ビューティフル・ライク=通称=病みゲーを始めて1ヵ月、はじめてのレイドに参加した俺は、パーティー=PTで、オークキングに挑んでいた。

 現在、ただひたすらキングの周囲に沸く雑魚を倒す為、死闘を繰り広げている。

 切っても切っても増え続ける無数のオークジェネラルやオーククリーチャーたち。

 

 何もいないはずの横からソプラノの効いた高めの女性の声が、その場に木霊した。

 突然、華奢きゃしゃな身体つきを隠すような花魁おいらんの衣装を纏い、腰には二本の刀。

 ワンレンの前髪からサイドにかけて入ったピンクメッシュ部分だけを垂らし、黒髪を幾重にも結い纏めた頭に数本の簪をさした女性プレイヤーが姿を現す。


 姿を認めた数瞬で、素早く腰に差した二本の日本刀を抜き、右から左へ流れるように殺陣の剣を繰り出し無数のオークたちを屠っていく。全ての敵が見えなくなるのに、費やした時間は瞬き数回分も無かった。


「すっげー」


 賞賛する声が出てしまった。


 柄を拳でトンと叩き、剣先をクルッと回してから刀を納めると、こちらに向き直り首を傾げる彼女は、その綺麗な顔をニヒルな笑顔に変貌させ――ふふ。ごめんね――そう聞こえた刹那、俺の視界はブラックアウトする。


【 復活しますか? はい ・ いいえ 】


 視線の中央に表示された文字を見て、自分に何が起きたのかを理解した――。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 復活を選べば近くの街まで戻される。

 直ぐに密談――プレイヤー同士が個人的にチャットできるのが密談だ。チャットとは言うが基本は、声を出しで会話した内容が表示される。聞き逃し防止用に用意された機能だ。

 多くあるチャット表示機能だが、それぞれのタブをタップする事で専用のものに切り替わる仕様になっている。仮想キーボードの設置もあるが、通常は声での会話ばかりな気がする。


 一般チャット=通称=白チャで、入力、ボイスどちらも可。

 これは誰にでも見れるし聞こえるものだ。範囲は普通の人の会話位の距離しかできない。

 

 サーバー全員に見えるチャット=通称=全チャ、入力のみ。

 この機能は、サーバーにいる全員に見える代わりに入力する事でしか使えない。

 

 売り買い専用のチャット=通称=売チャ、入力のみ。

 これも同じくサーバーにいる全員に見える代わりに入力するのみだ。


 クラン専用チャット=通称=クラチャ、入力、ボイスどちらも可。

 同じクランに参加している人ならどこに居ても表示される。ただし、近くに居ないとチャットのみが表示されるだけで、会話は入力もしくはボイスチャットを経由して行われる。

 近くにいるクランメンバー同士であれば普通に会話が可能だ。


 同盟専用チャット=通称、同盟チャ、こちらは入力のみ。

 クラン同士が組む同盟で使用されるもの。近くにいても遠くに居ても仮想キーボードでの入力でしか使えない。


 PTメンバー専用のチャット=通称=PTチャ、これは声でのみの会話になる。

 クランチャと似たような仕様だが、こちらはPTに参加している人達がその場で会話するためのものだ。

 PTチャットは基本、狩り中に使う事が多い。

 レイドの場合などは、連合を組むことで沢山のPTが参加した連合のチャットを使えるようになる。

 どちらも会話が可能だが、ほとんどの人が連合の場合会話を控えている。


 フィールドで死んだ場合のみ自動で組んでいたPTが解除されてしまう。そのため特定の相手に密談を使う――で今回のレイド戦のPTを募集してたリーダー(以後PTL表記)に連絡を取る。


”グリードF” みんな、戻った?

”順三” 戻ってる~

”グリードF” どこいんの?

”順三” 宿屋前

”グリードF” いくわ

”順三” りょーかい


 神殿から出ると、直ぐに帰還の護符を使い街の中心部へと戻る。

 この街の名は、【 プラークシテアー 】神に仕えるニンフの名を持っている。


 街の中心部には色とりどりの花が植えられた花壇があり、その中央に大きな十字架が立てられている。

 その十字架から1分もしない場所にある、木造4階建ての建物が集合場所の宿屋だ。周囲を見回し、PTメンバーたちがいる方へ向かう。


「ごめん。待たせた」


【 順三があなたをパーティーに招待しました。 yes ・ no 】


 yesを選択すると直ぐにパーティー会話が聞こえてきた。その内容は先ほどのプレイヤーキル=PKに関するものだった。


『いや、あれ間違いなくrenれんだよね?』

『あれが、renか……。でも何で俺らがPKされたの?』

『そこがわからないんだよね』


 獣人族の猫の姿で尻尾をフリフリさせ、キャラネーム:みかちゃんの声に、PTLでヒューマンの順三さんが切り返し、首を傾げた仕草を見せるロリエルフのキャラネーム:秋が順次答えていく。


『でも、すげー格好いいよな……』


 暢気な声を上げたのは、狼の獣人姿をした幼馴染で親友のセイリューだ。


『そう言えば、皆装備大丈夫だった?』


 そう切り出した、秋さんの声に慌てて装備を確認する。

 このゲームが病ゲーと言われる所以のひとつが、PKに合う、モブに殺されるなどで死亡した場合、30%の確率で装備を落とすもしくは、破壊されると言う仕様のせいだ。


『ぁ……。まじかよぉー。俺+7のアイアングローブ落とした……』


 セイリューがどうやら、今回の被害者だったようだ。

 装備は、個人で素材を集めて作るしかない。装備にはそれぞれ、強化ができる。強化すれば、防御力や攻撃力だけでなく、属性なんかも上がる。

 ただし、装備には安全に強化できる範囲が決まっている。


 今回セイリューが落とした+7のアイアングローブは、通常安全圏は+4なのだが、+5にするだけでも100個は消失する代物だ。運が良ければ一発なのだが大概は失敗する。+が増えればそれだけ、消失する個数は増す。

 +7にする為には、破産寸前の金額をつぎ込んでいるはずだ。


『なむ~』


 PTメンバーから合掌されるセイリューは、泣きそうな顔で俯いた。

 そんな親友の肩を慰め叩いている俺の目に、ある全チャの一文が飛び込んだ。


{[一美] 善悪PT募集中~}

{[ren] レイド野良PT 落し物 +7アイアングローブ。3クロス 10分以内 来なければ消滅} 

{[猫の子] クラン員募集ぅ~にゃ~}


 落ち込む、セイリューの肩をバシバシ叩き、PTチャで直ぐに教えてやる。


『セイリュー。全チャあけてる?』

『それどころじゃねー!』

『いいから見ろ!』


 ものすごい勢いで、飛び出していったセイリューを追いかけてスリークロスへ向えば、さっきとはまた違った、和服姿の華奢なヒューマン女性が立っていた。

 俺の親友は彼女を目にした刹那、それは見事なジャンピング土下座を決めていた。


「お願いします! +7のアイアングローブ返して下さい!」


 土下座で懇願する親友を見た彼女は、ポンとなる音と共に出現したグローブを彼の眼前に置いた。


「次、アレと居たら現物だろうと戻さないからね?」

 

 意味がわからない言葉を残すと、獰猛でありながら綺麗な笑顔で彼女は残像となり掻き消えた。残されたアイアングローブを手に取り、ほおずりする友人を見つめた俺は何とも言えない気分で彼女の消えた場所を見つめた。

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