第320話 最強は天敵と邂逅する③

状況を鑑みて、これからどうしようかと悩む。そんな私を放置して、白がミッシェルへ質問を投げかけた。


「ミッシェル。お前がクラッシャーを仕掛けて、同盟崩そうとしたんだよな? それにアクセルに、アカウント売ったよな?」

「……」


 未だ膝から崩れているミッシェルは、頭をあげることなく無言を通す。しばしの沈黙を破ったのは黒だった。

 黒は頭をガシガシ搔きながら「正直に話せよ」と一言告げる。無言を通すミッシェルは答えない。


 取り調べ中に別件を挟むのは申し訳ないと思うが、私はどうしてもミッシェルに聞きたいことがあった。


「ねぇ、ミッシェル。一つだけ教えて欲しいことがあるんだけど」


 私の問いかけにハッと顔を上げたミッシェルの瞳が暗く輝く。


 いや、別に期待されても困るんだけど……。ずっと気になってただけだし。大したことじゃないからね?


「どうして、私だったの?」

「え?」

「だから、どうして執着したのが私だったのかなって……」


 そう、私はずっと気になっていたのだ。どうしてミッシェルが私に執着したのか。私からすれば、私と言う人間は自己中で、我儘なのだ。引きこもりでもあるけれど、ゲーム内であれば人と話すのも狩りをするのも邪魔さえされなければ嫌いではない。


「……それは、僕にはrenが特別に見えた。あの時……ゲームを始めたばかりの僕を助けてくれたrenが輝いて見えたから」

「それ、勘違い」

[[ティタ] 身も蓋もないこと言っちゃダメだって!]

「僕にはそう見えたんだ! renの姿が眩しくて、憧れた。けど、renに近づこうとするといっつも黒たちが邪魔をする。だから、僕は僕だけのrenになって欲しくて」

[[黒龍] やべぇ、renが神格化されてるww]

(さゆたん) ミッシェルの言ってることがカオスでしゅw

(千桜) ren、もう少しオブラートに包んでやるわいね

[[白聖] ミッシェル大丈夫か?]


 私としては、ミッシェルの言う私はありえない。何、輝いて見えたって……本当に、勘弁してほしい。私は、ただの一般ユーザーだ。


「ミッシェルは、まず眼科に行くべき」

「つか、俺ら邪魔なんかしてねーぞ?」

「してたよ! 僕はずっとrenと一緒にいたかったのに、皆が先にrenを狩りに誘うから……」


 私と話していたはずなのに、何故スルー。酷くないと思いながら黒と話すミッシェルを見れば彼は必死の形相だった。


 そこへ、事情をしっているらしいチカが言葉を挟む。


「なぁ、ミッシェル。renはお前のねーちゃんじゃねーぞ?」


 ミッシェルの肩がピクリと揺れる。

 キヅナとミッシェルがリアル友であることは皆が知っていることだ。そのキヅナの弟であるチカもまた、ミッシェルのリアルを知る一人なのは間違いない。


 お姉さん?? と首をかしげているとミッシェルが顔を赤くして反論し始めた。


「違う! 僕は、renにお姉ちゃんを重ねてなんて――」

「お前はそう思ってるかもしんねーけど、俺にはそう見える。弟が友達と仲良くする姉ちゃんを必死に追う姿に見えんだよ」

「違う。違う。違う。違う!!」

「素直に認めろよ。お前さ、兄貴にも同じ事いわれたろ?」


 ミッシェルは、鉄格子を何度もたたき違うと言い続ける。その姿がどこか幼い子供のように見えて、差し出しかけた言葉を飲み込んだ。


「なぁ、ミッシェルもう辞めようぜ。renはお前が求める姉貴じゃない。こいつは、自己中で、我儘だし、気に入らなければ身内すらためらいなく殺す。こいつがお前の姉貴になれるわけがないだろ。お前自身それを分かってるんだろう?」


 諭すように言うチカは、大人だった。チカの真面目な姿を初めてみた気がする。皆いい大人だし、リアルではこんな感じなのかもしれない。


 と言うか軽くチカにディスられてる気がするのはきっときのせいだよね? いやまぁ、自分でもわかってはいるけど、なんか納得できない。とりあえず今はチカのことはおいておいて、時間もないしいい加減終わりにしよう。

 

 未だ言い合いをする二人の会話に割り込むようにミッシェルの名前を呼んだ。

 元の仲間に訣別を言い渡すと言うのに、私の心は意外と穏やかだ。

 ふぅーと一息長く吐き出すと私は、まっすぐにミッシェルの眼を見る。これまで何度も見てきたミッシェルと初めて視線が合った。


「もう、終わりにしよう。ミッシェルがこのゲームを続けるかやめるかは私にはわからない。もし、続けるなら私は今後一切ミッシェルにはかかわらない。町で見かけたとしても話しかけたりしない」

「……」

「それから、今回の事についてミッシェルのリアルにどんな事情があろうと、迷惑を被った仲間がいる。だから私は、ミッシェルを許すつもりはない」

「……っ」

「これが最後であることを願ってるけど、もしまた私と私の仲間に嫌がらせするなら、元仲間だろうと引退するまで追い詰めて殺す」


 言いたいことだけ言うと私はその場を離れる。最後までミッシェルからの返事はなかった。


 ミッシェルとチカの会話を聞いて思い出したことがある。

 優しいお姉さんがいたと……ミッシェルが言っていたこと。お姉さんの話をするミッシェルの顔は、とても和やかで明るかったこと。きっとお姉さんが大好きだったんだろう。


 執着した理由は多分、ミッシェルが私に姉の面影を追っていたからじゃないかな?

 私的には、別にそういうつもりはなかったけど、きっと私の行動や言動がミッシェルの姉を思う心の琴線に触れたのかもしれない。

 たとえどんなに望まれたとしても、私はミッシェルの思い描く姉にはなれないし、なろうとも思わないから私とミッシェルがかみ合うことは一生ない。


 ゲームであるこの世界では、男が女を演じたり、その逆もいるし、男が妹キャラになったり、女が兄貴キャラになったりと色々なプレイヤーがいる。それはそれで面白いと私は思っている。だけど私自身がそれを演じるとか、どう考えても無理だ。


 一つの結論に達した私は思考を切り替え、ロナウドDの尋問をしているであろう宮ネェと先生の元へ向かった。

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