第319話 最強は天敵と邂逅する②

 ロナウドDが動いたと言う報告から数分。ミッシェルが宿屋に姿を見せた。どこか暗いミッシェルの顔も目元を隠した黒髪も相変わらず。装備品も私がクランを解散した当時のままのようだ。

 その姿にこのゲームで引退者を含めなければ唯一、ミッシェルだけが過去にいる。


 ミッシェルの気持ちがわからない。私は勝手にそう思っていたのかもしれない。これまでのやり取りを振り返り、本当に彼の行動や気持ちの動きを見ていたのか? と言った疑問が浮かぶ。


[[大次郎先生] ren。流されるなよ]


 私の表情の変化を見た先生から、軽いお叱りを受ける。先生の言い分に納得した私は、パンパンと頬を叩き考えを改めた。


『「ミッシェル目視、宿内で確保。その後すぐに城内牢屋へ移動よろ」』

『ロナウドD、デンス着』

『「その場で、ロナウドD確保。同じく場内牢屋へ移動」』

『了解でござる』

『いくわよー、皆!』

『『『『おう』』』』


 その間にも、確保指示が飛び宮ネェの声に沢山の同盟員たちの応答が返る。


 静まり返る連合チャットに鼓動が早くなる。失敗したらどうしようと恐怖にも似た不安を感じた――刹那


『ミッシェル確保。牢屋へ拘留済み』と、春日丸が声をあげた。

 それから数秒後、宗之助が『ロナウドD確保でござる。ただちに牢へ拘留するでござる』と報告をあげる。


 いつの間にか詰めていた息を吐き出し、先生を見れば小さいドワ爺の癖に私の頭を撫でてきた。撫でられる頭から手を払い、むっとして顔を見ればニヤリと先生が笑っている。


 くっ、ドワ爺如きに!! 敗北した気分になるのは、私がおかしいからなのだろうか?


(ロゼ) ここからが勝負だぞ。ren気合入れて行けよ

(雪継) きつかったらいつでも変わるから言ってねー

(大次郎先生) みんなお疲れ。

        あとは各クラマス、副マスで対応しよう。

(小春ちゃん) ヘラでいいのよね~ん?

(黒龍) おう。ヘラ集合な!


 先生が、消える。城へ移動したのだろう。私もゆっくりはしていられないと慌ててヘラの城へ移動した。

 暗転の後、目を開ければ見られた豪奢な広間だ。幾重にも重りをつけられたように感じる足を動かし、地下へ行く。

 頭が下がり俯きそうになるのを堪え、眼前を見据える。


「久しぶり。ミッシェル」


 牢屋越しにミッシェルへ挨拶をすれば、彼の顔がわずかにこちらを見た。金の瞳なのになぜか濁って見える暗い瞳、それを覆い隠す黒い髪。私を見ているようで、いつも私を通り越していく彼の視線。

 ミッシェルは、やっぱりあの時のまま何も変わってないんだな。


「……ren。ど、どうして?」

「何が?」

「どうして、僕じゃないの?」


 紡がれた言葉の意味が分からない。答えに窮し、両サイドへ視線を投げた。横にいる黒も白も、ティタも否定的に首を横に振る。

 思ってたよりミッシェルって弱弱しい。ここに来るまで結構な覚悟を持ってきたつもりだったけど、必要なかったかもしれない。まぁ、時間もないことだし、ハッキリ聞いてしまおう。


「ごめん。意味わからない」

「えっ?」

[[黒龍] お前、ド直球やめてやれw]

[[白聖] 先生も宮ネェもロナウドDの方だよな? ロゼ呼ぶか!]

「だから『どうして、僕じゃないの?』って聞かれても、意味が分からないって言ってる」


 黒と白のチャットをガン無視して、驚いたようなミッシェルに真顔で問い直してみる。

 私の質問の仕方が悪かったのか、顔を上げたミッシェルは怒りの形相をしていた。


「僕が唯一renの理解者なのに! なんで、なんでそんな奴らを側においてるんだよ! 僕だけが、renを救ってあげられるのに!!」


 そうミッシェルは叫ぶと同時に、両手で牢をガシャンと音が出るほど殴りつけた。オブジェクトだし、けがをすることは無い。余程歯痒かったのか、未だ肩で息をするミッシェルを冷静に見る。


 ん-、やっぱり意味がわからない。だって、この世界はゲームだし、別に救いを求めてやっているわけではない。この人は一体どこに居て、何を言ってるんだろう?

 疑問が疑問を呼ぶとはこのことかと納得しつつ、両サイドを見れば同じように思っているらしい面々の顔が見えた。

 

「ハッキリ言うね? 現実でもないのに、この世界で救いなんて求めてないけど?」

「……つよ、強がらなくていいんだよ? ren」

「いや、一切強がってないから……。勘違いするのやめてほしい」

「だって、renはいつも一人でいたし。僕に昔言ってくれたでしょう? クラマスやらないかって」

「あぁ、それはクランも同盟も私は別に要らないからだよ。ただ、求められたから惰性でやってるだけで、クラマス変わってくれる人がいるなら即投げしたいぐらいだった」

「でも、renはいつも一人で狩りしてたでしょう? だから僕はrenと一緒に居てあげたいって――」

「狩りはソロが一番おいしいから、PT組むのも嫌」

「そんなっ、じゃぁ、僕は……」


 話をするのが怠くなり、段々と面倒になっていく。全部ぶっちゃけたし、あと何か言われてもスルーでいいかな? 勘違いされて、弱いって思われているようだけど、別に弱くはない。一人が楽で、ソロしてるだけ。


 そう言えば、もうそろそろまた黄昏のカジノに言ってこなきゃ。お金もだいぶ溜まったし、経験値スクのブランクが無くなりそうだし、買ってこないと。世界戦に向けて、断念した魔法書も欲しい。ついでに一人で帰れまてんでもしてLvも上げたい。経験値スクにためるのもありだけど、最近部屋に籠ってばっかりで全く狩りに行けてないから行きたい。でも、同盟全体のLvも上げないと戦争の時に役に立たない。うーん悩ましい。


(白影) おーい。ren。帰ってきてやれw

     ミッシェルがド凹みしてるから~。

(千桜) renは今、全然違う事考えているはずだわいね。

(ロゼ) ミッシェルもある意味被害者だなwwww

(†元親†) なー。これ生きてるの?

(さゆたん) 死んでるんじゃないでしゅか?

(キヨシ) オーバーキルもいいところw


 トンと肩を叩かれ何事もなかったように思考を戻せば、同盟チャットが酷いことになっていた。

 チャットの流れからミッシェルを見る。そこには、五体投地せんばかりに膝をついたミッシェルの姿が……。


「……あ、なんかごめん?」

「謝るぐらいならもう少し言葉選んでやれ?」

「無理。面倒」

「……」


 ただ、静かに沈黙だけが落ちた――。

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