第299話 最強は同盟の運営に尽力す⑪

 July姉さんは職人だけあって、手先が器用らしい。一度目は僅かにずれたサークルが、二度目――ティタと小春ちゃんの時には修正されていた。


「Julyさん凄いですね~」

「ありがとう」


 可愛い笑顔全開でJuly姉さんを褒めるゼンさんは、果たして笑顔でお礼を言う彼女? の眼が光っているのに気付いているのだろうか?

 よし、見なかった事にしよう。


『そう言えば、小春ちゃん』

『何かしら~ん』

『どれぐらい素材集めるの?』

『もどりますわぁ~』

『そうね~ん。――10Kずつは欲しいところよ~ん。本当は百万ぐらい欲しいのだけど……流石にそれは言いすぎでしょ~ん?』

『戻ってるよ~』


 小春ちゃんの最低の数に驚く私。

 モブを引きに行っていたティタもその場で足を止め、小春ちゃんをギギギと音が鳴りそうに振り返ったまま固まっている。

 

 最低一万って……無理だよ。いや、いけるけども……私にもこなしたいクエストがある。ドラパレとかドラパレとかetc……。

 クラメンたちを無理矢理巻き込んだ上で、本気を出せば二週間。

 お得意の帰れまテン状態で二十四時間寝ずに狩りをすれば、八日ぐらいで集まるだろうけど八徹は、無理! 流石に私も人間はやめたくない。


『ごめん。流石に一万は厳しいと思う……』

『ふふっ。わかってるわ~ん。同盟ハントで頑張って貰うから、大丈夫よ~ん』


 小春ちゃんの言葉に安堵した瞬間、ティタが周囲をキョロキョロと見回す。どうしたのかと様子を見ていると『……デジャブ?』と漏らした。


 一万と聞いて帰れまテンが浮かんだのだろう。実際、過去にここで帰れまテンをやったことがある。あの時は、一次職から二次職になったばかりで皆自分の武器を作ってもらおうとノリノリだった。けれど、クラメン全員分を集めるのは余程の覚悟と根性が無い限り無理で……。

 開始から三日目の早朝、全員が示し合わせた様に無言で帰還すると言う珍事件が発生した。


『あの時は、本当にやばかったよね~』

『まぁ、後で考えれば笑えたけど』

『じゃんけん大会は盛り上がったじゃん』


 ドロップの鉱石は大量にあったものの、全員の武器を作るには当然足りない。そこで考えたのが恨みっこなしのじゃんけん大会だ。鉱石の数から、最大でも七人までと決め一人につき四回、誰でもいいからじゃんけんをして勝敗を決めた。

 勝ち残ったのは、先生、キヨシ、キヅナ、ケン坊、雷、黒、聖劉、春日丸の七人で彼らは希望の武器――黒とキヅナは防具も――を小春ちゃんと宮ネェ、卑弥子に作ってもらっていた。


 狩りを初めて四時間、そろそろ眠いと言うティタに合わせて今日は終わる事にする。

 ドロップした鉱石類と粘土など素材になりそうな物は、全て二丁目が買い取りその場で金額を人数分配。

 自分たちも一緒に狩ったのだからと理由をつけて、安く買いたたかくこともできるのにしない小春ちゃんが男らしいくて好きだ。

 まぁ、本人には言えないけど。


 ダラダラと今後の素材集めについて小春ちゃんと意見を交換してPTを解散する。クランハウスに戻る間際、小春ちゃんに「また、お願いね」と言われた。


 私室に戻りウルを呼び出す。餌あげて、水を飲ませて寝そべったウルをモフモフ――最大級の癒しの時間を堪能。

 満足したところでウルの毛並みを整え、頭をひと撫でして帰らせた。


 やっぱり騎獣を後二匹ほど増やそうか……。いや、騎獣を増やしたところで、時間制限があるし、意味がない。それならせめてハウスでペットが飼えるように仕様変更希望をGMに送り付けよう!


[[キヨシ] ren~~~]

[[†元親†] ren。hhhhhhh]

[[シュタイン] 二人して語彙力が無いのである!]


本気でGMにメールを書いているとクランの問題児二人にクラチャで呼ばれた。一瞬本気で居留守を使うか迷い、仕方なく返事をする。

 博士に語彙力が無いと言われたら終わりだと思うのは私だけだろうか?

 

[[ren] 何?]

[[キヨシ] ren、助け! ヘラのカジノ来てぇー]

[[†元親†] やばい奴が居て、めんどくさいから

       無視して、離れない!!  助けてくれー]

[[ren] ……誰か、翻訳して?]

[[黒龍] お前ら、何言ってんの?]

[[ベルゼ] 翻訳か。えっと……、やばい奴が居るらしいぞ]

[[宮様] キヨシもチカも落ち着きなさい。何に絡まれたの?]

[[白聖] ベルゼ、翻訳になってねーよ。草生やすな]

[[大次郎先生] 私も一緒にいくよ。ren]

[[宮様] はぁ、私もいくわね~]


 要領を得ない二人の救援要請に重い腰を上げる。

 一緒に行くと言う先生と宮ネェとハウスの玄関で待ち合わせをして、三人連れ立ってヘラの街を歩く。


 ヘラのカジノはヘラの中心部からかなり離れて奥まった場所にある裏町と呼ばれる少し廃れた所だ。


 裏町は、各城下街に飲み設置されている新規プレイヤー用の仮狩場で、例え失敗しても死ぬことはない。

 裏町で学ぶのは、主に動作とスキルの使い方。

 出てくるモブ――モンスターではなくNPCの住人――は、ここへ立ち入るプレイヤーに対し、スリや窃盗、恐喝を行う。それを防ぎ、捕まえ、兵士に引き渡すことで経験値がもらえる。


 要は、何も知らない始めたばかりのプレイヤーが外に出て死んで、萎えてゲームを止めてしまうのを防止するために運営が苦肉の策で作った場所だと思って貰えればいい。


『久しぶりに来たけど、見事にスリだらけだな。おっと』

『本当にね~。こんな所に来たいと思う心境が理解できないわ~』


 優雅に歩きながら先生と宮ネェは、愚痴を零し迫りくるスリを無効化している。


[[風牙] 面倒そうなら呼べよ?]

[[ティタ] ……おりゃも、たいき]

[[大和] クランハウスに居るからね~]

[[宗之助] 拙者もいるでござるよ]

[[大次郎先生] ティタ、ちゃんと寝ていいよ]

[[春日丸] 俺もいる]

[[村雨] ちょっと行っとく~]

[[ヒガキ] あ、耐久戻しに研ぐなら自分やりましょうか?]

[[黒龍] ヒガキ頼む]


 ふとクラチャに目を向ければこんな会話がされていた。

 村雨は鍛冶屋に行って武器を研いでどうするつもりなの? って、ヒガキさんそこで研ぎますって言っちゃダメ。あぁ、黒がのってしまった。


 ヒガキさんにお願いしている皆は、はるか昔過ぎて覚えていないようだが使。唯一使えるのは、街中に落ちている木の棒だけだ。

 態々武器を研ぐ必要が無いと果たして誰が一番最初に気付くのか……。

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