第298話 閑話 エイプリルフール
クランハウスの一室――宮ネェ提供――の部屋で、俺らはエイプリルフール用のネタ――ドッキリ大作戦について最終確認を行っていた。
「じゃぁ、renが来たら黒、白、ティタ、聖劉、源次の順で告白する。でいいんだね?」
「おっけー」
「あぁ、つか正直気乗りしない」
「俺も……」
「死ぬ未来しかみえねー」
「なんで、俺までなのー?」
手始めとばかりに確認を取る大和。ティタは警戒心なく頷くが、白は嫌そうに顔を歪める。白に便乗する形で顔を歪めてみるが、他のメンバーの眼が逝けと言っている。
巻き込まれてる残り二人、聖劉と源次はそれぞれ頭を抱えていた。
renをターゲットに選んだ奴は誰だよ。マジで勘弁してくれ……。普段温厚なrenだが、怒らせたりキレさせたりするとガチで殺しに来る。例えクラハン中だろうが、ソロ中だろうがお構いなしに。
「まぁまぁ、折角のエイプリルフールなんだから、気軽に楽しみましょうよ」
「殺られる時は、皆一緒でしゅw」
「はぁ、どうなっても知らねーからな! 殺されるときは全員一緒だからな!」
「仕方ねーな」
宮ネェとさゆに後押しされる形で、渋々俺も白も頷いた。
「告白の言葉は、五人五様で考えたのメールしてるから覚えろよー」
告白の言葉って、このメールで届いたクソ恥ずかしい文字の事か?? 俺がコレを言うのか……renに? 誰が考えたんだよこんな甘い文章。
renを前にして告白する自分の姿を想像して、胃から何かが込み上がってくるような吐き気を覚える。
それでも覚えなければとセリフを読み返す。
ren。ちょっといいか? あのさ、お前最近かわいくナッタ――ぐふっ。無理だ!!
涙目になりながら同じ苦痛を抱えているであろう白、ティタ、源次、聖劉を見る。四人とも揃って顔色が悪いと言うレベルではなくなっている。
ちょ、青じゃなくて真っ白なんだが……本当に大丈夫なのか? って人の事気にしてる場合じゃねー。出来なかったらここに居るメンバーから殺される。出来たら出来たでrenから殺される。
…………俺ら五人、詰んでね?
「その後、先生と宮ネェ、ヒガキがrenに誰がいいかを聞き出す。であってるー?」
「おー、大丈夫だ」
「任せて~♪」
「……はい」
キヨシの楽しそうな声が聞こえ、先生、宮ネェ、ヒガキの順で返事をする。
ヒガキの躊躇う姿を見た俺は、このクランで白、俺、ヒガキだけが真面なのかもしれないと思った。
「うんで、五人が告白し終わってrenがキョドったところで、キヨシ、鉄男、チカがrenの前に布を出す!」
「あ、布はこれっすよ」
「頑張りました」
「拙者はこの金具を作ったでござるよ!」
布作るって刺繍するの大変だっただろうけど、ミツルギとゼンはもっと別なことに時間使え? 宗之助……四隅に金具はいらねーだろ。
「じゃぁ、皆スタンバイよろしく!」
今回の総監督らしい鉄男がパンパンと手を叩き移動を促した。
配置につきrenが来るまでリビングで待機する。告白する場所は、ハウスの縁側と指定されている。
ぶっちゃけやる気が上がらない。どうしたって死ぬ未来しか見えない遊びに、どうモチベを上げろと……どうせ死ぬなら対人かボス戦がいい。
て言うかこいつら遊びに経験値かけすぎだろ! なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ。くそがっ!
(鉄男) ren、ログインした。
あぁ、ログインしてきちまったよ。もーやりたくねー。マジで今すぐログアウトしてやろうかな……。
グダグダと逃げる事を考えている内にrenがリビングへ入って来る。仕方なく重い腰を上げ、縁側へつながる窓を開けた。
「よー」
「おはよ」
「あのよー。お前俺と付き合わね?」
あー、やべぇ。メール見るつもりがめんどうで適当になった。
ハウス側からこちらを覗き込む仲間たちが、眉間に皺をよせ『やりなおせ』と口パクして来る。
引き攣る顔をなんとか笑ってるよう見せかけて、俺は嫌々ながらメールの文章を読んだ。
「ちょっといいか? あのさ、最近お前可――」
「――どこに狩り行くの?」
「は?」
「だから、付き合って欲しいんでしょ? 二人で行くの? それともPTで行くの?」
「あー……あぁ、そうだな。とりあえず、PTでどっかボス狩り行こうぜ」
すまん。許せ。俺にはアレをもう一度読む気力も勇気もない!と、心の中で皆に謝りながらrenの話に合わせるように答えた。
その後、白、ティタ、源次、聖劉も同じように指定された場所で告白をしたらしい。が、renには全く通じなかったらしく、後日狩りに行くと言う約束をしたり、物を譲ってもらったりする約束をしたようだった。
「アレだ。うちの男どもに愛の告白は早かったと言う事がわかった!」
「いや、お前がやりゃーいいだろ」
「あんな恥ずかしい文章読める訳ないだろー!」
「夢に見そうだ……」
「まー殺されなかっただけ良かったんじゃね?」
「……もう二度とごめんだ」
リビングでふんぞり返る鉄男に、俺、ティタ、聖劉、源次、白の順でいい返す。他にもいろいろ言っているメンツが居るが、それは白と源次が対応していた。
エープリルフールのクラン内イベントは不発終わってしまったが仕方ないと諦めて貰おう。
緊張から解放されてコーヒーを飲み、ホッと一息ついた。と、そこにrenが来て、話題を出せないメンバーたちは口を噤んだ。
一瞬にして静まり返るリビング。
俯くren。
肩を震わせたrenを気遣い宮ネェが「ren」と呼びかける。
顔を上げたrenは、庇護欲をそそる憂い顔で一筋の涙っぽい物を流し「皆の嘘つき!」と、零し走り去っていった。
一体何が起こったのか分からない俺たちは、不安な気持ちを抱えながら顔を見合わせる。
代表して先生と宮ネェが立ち上がりリビングを出ていきかけたところでrenが再び入って来る。
そして、ニヒルな笑いを張り付けたrenは一枚の布を広げた。
”ドッキリ大作戦 成功”
……やられた。
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