第300話 最強は同盟の運営に尽力す⑫

 ヘラのカジノに到着したとクラチャで告げた途端、キヨシとチカが泣きそうな顔で飛び出して来た。犬耳をした幼女を連れて。


[[キヨシ] ren~~~!!]

[[†元親†] たすけれー]

[[宮様] あんた達……後ろのそれ、どこから攫って来たの!]

[[大次郎先生] はぁ……]

[[キヨシ] 攫ってないー。カジノで遊んでたらいつの間にか]

[[†元親†] 話通じないぃぃぃ!!]


 キヨシとチカの腕に絡みつく――と言うよりは腕をがっしりと掴み逃げられないようにしていると言った方がいいかもしれない――幼女犬は、無所属のプレイヤーだ。

 人好きのする笑顔を浮かべている幼女犬は、キヨシとチカの腕を離すことなく私たち三人を見ると瞳を輝かせた。


「うわ~。本物ですぅ~! れみたん、本物に会ったですぅ~」


 独特の喋り口調で自分をれみたん呼びする幼女犬に私、先生、宮ネェは気付かれないよう警戒する。


「えーっと、そこのあなた、申し訳ないのだけれどうちのクランメンバーを放してくれるかしら?」

「れみたんは、ですぅー」


 あなたと呼ばれたことにご立腹らしい幼女犬は、宮ネェを煽るように不快感を出す。


 あー。この子ダメだ。宮ネェがこの世で一番嫌いなタイプだ。


「……『クソガ……』それは、ごめんなさいね~。えぇっと、れみるさん、キヨシとチカを放してくれるかしら?」


 アバターだから見えないけどきっと今、宮ネェの額にはいくつもの怒りマークがついているはず。


「いやですぅ~。れみたんは、BFに入るんですぅ~」

「入るって、どうやって入るのかしら?」

「そんなのあんたなんかに教えてあげないですぅー。邪魔だから消えろですぅー」

「あ‶ぁ‶?」


 あ、キレた。自己中もここまでくると凄いなと感心していたら、幼女犬ごとキヨシとチカが顔を引きつらせ数歩下がった。


 幼女犬は、どうやらうちに入りたいらしい。入りたいと言われたけど、うちは基本三次職カンストでない限り誘わない。一次職の幼女犬では無理。

 それにサブマスの宮ネェキレさせた時点で、幼女犬は何をしても一発退場ものだ。


[[大次郎先生] 宮、落ち着け。お前がキレでどうすんだ]

[[宮様] だって、このクソガキ話通じねー!

    今すぐぶちころしてやりたい!]

[[源次] 宮ネェがキレてら~。出るか?]

[[黒龍] うぜーのいるんなら叩き斬りに行くぞ?]

[[大次郎先生] 私が話すから……宮はちょっと黙ってて]

[[白聖] こっそり見てるけど、お前ら来るなよ?]

[[大和] 行こうか~?]

[[宗之助] 状況的に、うちが叩かれかねないでござるw]

[[ベルゼ] どんな状況なのそれ?]


 何処からか見てるらしい白と宗之助が揃って、来ると言う黒、源次、大和を止める。


 クラチャの報告を受けて暇な私は白と宗之助を探す。白は、カジノの隣の建物の屋根に。宗之助は、スキルを使って透視化してるのか全く見えない。

 とりあえず白だけでもPTに誘っておこう。


「えっと、れみるさん。私はBF――Bloodthirsty Fairyのサブマスターをしています。大次郎先生と言います。まず、私たちはキヨシとチカを解放してくれない限り、れみるさんの話を聞くつもりはありません。そちらの言い分を聞いて欲しいのなら、先にうちのクランメンバーであるキヨシとチカを放してください」


 おぉ! 流石先生。超丁寧ながら否やを言わせない言葉選び! とか褒めてたらPTチャットの方で『ここなら、スキル使えば殺せるから。最悪元凶を引っ張って来た馬鹿二人には犠牲になってもらおう』とか言ってきた。

 話を聞かない幼女犬に巻き込まれただけのチカとキヨシは、経験値と言う大切な物を失う運命にあるようだ。


「本当に聞いてくれるんですかぁ~? 信用できないです~」


『もう、何なのこの子? 信用できないのにクランに入るとか馬鹿なの?』とはイライラしている宮ネェの言葉だ。屋根の上の白が、お腹を抱えて爆笑している。落ちてしまえ……。


「そうですか、なら仕方ないですね」

「何する気ですかぁー。れみたん虐めるつもりですかぁ? そんな事したら、許さないんですぅー」

「いえ、あなたに危害を加えたりはしませんよ。殺されるのはキヨシとチカの方なので^^」

「怖いですぅー。れみたん脅されてるですぅー。この事GMコールするですぅー」


 こちらはミリも脅していないのに脅されたと言う幼女犬は、GMコールすると逆にこちらを脅してきた。


「GMコールね。好きになさいな」と告げた宮ネェは、怒りの限界突破を迎えたらしい。右手に棍棒――そこら辺に落ちていた棒を握り、ツカツカと歩きながら、クラチャでキヨシとチカに「装備を脱ぎなさい」とおど――要求する。

 ビビるキヨシとチカは即と装備を脱ぎ、下着姿になった。


 そして、振り上げられたこん棒が容赦なく、二人の鳩尾目掛け突き入れられる――。


「ぐっ」

「いっ」


 三割しか減らなかった二人を前に、宮ネェは超絶ドS様な微笑みを浮かべて「あら、死ななかったわ。もう一度ね?」と告げた。

 何が起こったのか理解してない幼女犬は、ただただ青い顔で調きょ――宮ネェ、キヨシ&チカを見比べていた。


『容赦ねーなーwwwwww』

『宮、

「ちょ、まっ。ぎゃああああああ」

「や、う‶ぅ」

『任せなさい』


 爆笑する白に、容赦なんて言葉を知らないらしい先生。喜び悦に浸った顔で必死に止める二人を殴り倒す宮ネェ。

 地獄のような光景が繰り広げられる中、幼女犬は視線を彷徨わせ私を見ると助けを求めるように手を組んだ。

 だが、私もまた止める気はない。


「れみるさんだっけ? これがうちの普通――当たり前だよ。クラメンだろうが、嘘ついたり、他のメンバーに迷惑かけたり、余計な事すれば殺す。Bloodthirsty Fairyは、そう言うクランだから入りたいならまず、その口調と言葉選びを学びなおして来て? あぁ、それからね。うちのサブマスやクラメンを馬鹿にしたの見逃すの今回だけだから、次は覚悟してね?」


 ちゃんと笑って見えるよう表情筋を動かした。


[[宗之助] 拙者、今のrenが一番怖いでござる]

[[白聖] ビビった相手にトドメ刺すのやめろ?]


 あれ、私かなり頑張って良いこと喋ったはずなのに、傍観者AとBの二人からドン引きされた……何故?

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