第291話 最強は同盟の運営に尽力す④

 板張りになったリビングとダイニングの家具の設置は、全て宮ネェに丸投げする。必要なものはクラン倉庫に入っているため、このまま放置しよう。

 キッチンはヒガキさんに声をかけて、使いやすい配置を考えて貰う。

 基本ほとんどが丸投げになっている気がするけど、まぁ、いいか……。

 ハウスの事と言えば、メイドさんたちだ。彼女たちは契約は続いているため、配置だけ決めれば勝手に仕事をしてくれる。


[[ティタ] おはよー]

[[ren] ノ]

[[ヒガキ] おはようございますー]

[[大和] おっはー]

[[ティタ] ハウスどう? どうなってる? 超、楽しみでさー]

[[鉄男] おはー。すげーことになってる!]

[[ティタ] マジ? 楽しみ~!]


 本当に楽しみにしていたのだろう。いつもよりティタのテンションが高いとか思っていたら、白と黒、さゆたん、キヨシが揃ってログインしてくる。


 一気に流れるクラチャに気を取られながら、ヒガキさんが以前作ってくれた代行看板をタペストリー代わりに部屋の壁にはりつける。

 折角作ってくれた訳だし、今回の壁紙にも映えるはず。

 選んだ壁紙は、上が黒で下が灰のグラデーションのものだ。

 

 十五枚もの看板を部屋の各所に貼り終え、満足した私はログインした面々に呼ばれ彼らの元へ向かう。


「さゆたん、お待たせ」

「renちゃん、ありがとでしゅ」


 さゆたんの選んだ部屋は、二階の中央に位置するL字型の部屋だ。部屋の内装は、娘一色で……いつの間にか増えた縫いぐるみなんかは、見なかったことにしたい。


「おーren、悪いな」

「いいよ。黒は今回二階にしたんだ?」

「まぁ、続き部屋が欲しかったからな」

「なるほど」


 黒と話しながら、部屋の設定を終える。黒が選んだ部屋は、長方形に近い細長い部屋で、部屋半分に仕切りがあり扉がついたもの。

 本人が気に入ったようなので、文句はないけど、部屋の中が黒一色なのはいかがなものか……


「ren、こっちだよー」


 三階に昇った途端はにかむティタが、片手をブンブンと振っている。

 こうして見ると犬っぽい。


 ティタが選んだ部屋は、三階の角部屋だ。鉄雄や大和と同じく丸い尖塔部分が気に入ったらしい。

 ティタの部屋の設定を終えて、同じく三階に居るはずの白を探す。


「白、決まった?」

「あー、もうちょい悩みたい」

「わかった。決まったら呼んで?」

「あ、待った。どっちがいいか参考までに聞かせてくれ」


 クラチャで盛り上がっているキヨシの所へ行こうとした途端、白が二つの部屋を指し示し聞いてくる。

 扉を開いてどちらの部屋も見てみたが、わたしには違いが全くわからない! 窓の向きも、部屋の広さもほぼ変わらないのに、どうしろと?


「……どっちでもいいんじゃないの?」

「うーん。右は窓枠がでかいんだよなー。左は窓の位置が……」



 何、その無駄なこだわり。理解できない悩みを抱える白に「決まったら言って?」と一言残し、私はキヨシの元へ移動する。


「キヨシ、決めた?」

「おう、俺はここにするぜ〜」


 キヨシが選んだ部屋は、大和隣の部屋だった。この部屋は、ハウスの中で唯一ロフト式? 

になっている。

 一階の部屋と二階の部屋が室内階段で繋がっっていて、どちらからでも出入りが可能。


「縄梯子は外につけるんだー」

「まだ、やるんだ」

 

 部屋の設定を終えるとキヨシが、お手製の縄梯子と取り出した。


「秘密基地は漢のロマンだろ〜」

「あぁ、そうだね。うん、頑張って?」


 漢のロマンと言われても、よく分からない私は適当に返事を返しておいた。


 キヨシの部屋を出て、自分の部屋に戻る。

 内装もある程度終わったし、ここからは癒しの時間にしよう。

 まずはウルを呼び出して、高級肉をあげつつ新しいベッドを試してもらおう。

 なんて欲望を抱いた私の元に、ロゼたちが顔を出す。


「……チッ」

「ちょ、顔見て早々舌打ちするってどうなんだよ!」

「引越し祝い持ってきたのに……酷いよ。ren」

「改装祝いだわいね。流石に会った瞬間、舌打ちされるとひくわいね」

「つい、癒しの時間を邪魔されたから……」

「しかし、すげーデカくなったな? 改装費、幾らかかったんだよ」


 白影に聞かれ「8G」と、私は素直に答える。

「マジで?」と、雪継が目と口を最大限に開け手驚くのに無言で頷き返す。


「なんで、そんなに金が……あっ、あれか!」


 ロゼの言うアレが、経験値スクロールなら正解だ。


「部屋数どんぐらいあんの?」

「数えてない。二階は十五って大和が言ってたけど」

「かぁー、羨ましい! ロゼ、うちも改装――」

「無理だ。うちに、そんな金はない」


 白影の言葉を遮り、ロゼがどや顔でお金がないと言い切った。笑いを誘うロゼの行動に、雪継と千桜が、顔を逸らして肩を揺らす。

 そこはドヤることじゃないと、心の中でツッコミを入れながら私もクスリと笑う。


「あぁ、そうだった。これウチからの改装祝い」


 と言いながらロゼが、ドンと木彫りの熊の置物を置く。躍動感あふれる熊は、ヒグマだろうか? って違う! ただのゴミだし、こんなもの喜ぶのキヨシぐらいだ。


「要らないから持って帰って?」

「いやいや、これ態々ウチのクラメンが祝いにって、手彫りで彫ってくれたんだぞ」

「気持ちだけでいい。そうだ、多分キヨシなら喜ぶから、キヨシににあげて?」


 渋々キヨシに渡すと言ったロゼが、熊の置物をしまう。

 態々作ってくれたのはありがたい。けど、うちのリビングにも私の個人の部屋にも合わない。


「こっちはウチからだわいね」

「何これ?」


 机の上に置かれた麻袋を見つめる。仄かにコーヒーの香りがするけど……もしかして?


「ヒガキのコーヒーは美味いから、差し入れだな」

「……それって、自分たちが飲みたいだけなんじゃ?」

「ハハッハ」

「アハハハ」


 雪継と千桜が同時に棒読みで笑って誤魔化す。

 見返りを求めた改装祝いって……と、呆れながらみんなの前にお礼代わりのコーヒーを差し出した。

甘いかもしれないけれど、改装祝いを持ってこようと思ってくれただけ嬉しいから仕方ない。

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