第290話 最強は同盟の運営に尽力す③

 待ちに待ったメンテナンス終了時間。

 リアルで四時過ぎまでかかったのは予想外だったけど、無事終わったことに安心しつつログインした私は、ソロの時に購入済みの個人用ハウスで目覚めた。

 

「さて、ハウスの設定にいかないと」


 クラメンたちがログインして来るのは夜になるだろうと踏んで、一人先にハウスへ向かう。宮ネェの希望が詰まりまくったハウスが、一体どこまで大きくなっているのか不安ではあるけれど。


[[鉄男] おっはー]

[[大和] メンテ明けだね~。おはよ~]

[[ren] ノ]

[[ヒガキ] おはようございます]

[[鉄男] あぁ、ren。昨日さ、ren落ちた後、博士が全茶で探してたぞ]

[[ren] ありがとう。密談送っとく]

[[大和] ハウス楽しみだね~]

[[ヒガキ] ワクワクしますね]

[[鉄男] やべー、早く見に行きてー!]


 どうやら今ログインしているのは私を含め四人、メンテ明けにしては多い方だ。

 ベラの街中を街中をハウスへ移動しながら、露店を見る。小春ちゃんの言う通りやはり、値段が高騰していた。

 エントを狩ればいくらでも手に入るHPPOT用の素材エントの葉――一枚で五本作れる――が一枚二千ゼルにもなっている。うそでしょ……ありえない。あんなものニ次職で倒せるのに……。


[[鉄男] うおー、ハウスが!!]

[[大和] ねー、クラメンでもない博士が、どうして一番にハウスにいるの?]

[[鉄男] ん-。白達にラボ襲撃されて、泣く泣くなんじゃね?]

[[大和] あぁ、怒ってたしね~]


 大和と鉄男の会話で、博士から呼ばれていたことを思い出す。けれど、後二分もすれば本人に会えるし、博士との密談は商談以外メンドクサイし必要ないだろうと切り捨てた。

 

「さすが……改装費8G……」


 改築したハウスの外観を見た私の感想がこれだ。

 長方形にも似た外観だったハウスが、三階建ての四角い城のような見た目になっている。屋根の色は赤で、壁は灰色に近い白。汚れ対策と言うか……目立ちたくないので白は避けた。

 建物自体は四角く、四つある角にはそれぞれ丸い尖塔が立っている。外から見る限り、二階と三階には、それぞれ広々としたバルコニーがついていた。

 

「ren、クランに我を入れるのである!」

「あぁ、うん。別にいいけど……整理整頓はしてね?」

「わかっているのである!」


 なし崩し的――多分、恨みをかった白たちにラボを破壊しくされたからだろうけど――に博士がクランに入る事になった。


 クランハウスの前にいた鉄男、大和、ヒガキさんと加入したばかりの博士を連れてハウスの門を潜る。ここは以前と変わらない。ただし、門の大きさは、倍以上だ。


 見える玄関は両開きの焦げ茶色をした重厚な扉で取っ手は金。扉の周囲に誰が世話をするんだと言いたくなる花壇が据えられている。


「なぁ、これ誰が世話するんだ?」

「私じゃないことだけは、確か」

「……唯一の女手だよな?」

「ガーデニングはマスターの仕事じゃないよ?」

「早く入るのである!」

「まぁ、好きな人がするよー。いるかはわからないけどー」

「自分、そう言うの好きなのでしますよ」

「おぉ、ヒガキはどこまでいってもヒガキだな!」


 博士に急かされ、意味の分からない鉄男の発言を無視して玄関を開けた。

 正面に見える丸い形のカウンターには、執事と新たに追加されたクランハウス専用商店のNPCが立っている。


 場所が移動して分かりやすくなったような気がする。でも、カウンターは、正直なところ邪魔でしかない。


「じゃぁ、好きな部屋選んで、もめた場合は話し合いで解決して?」

「了解」

「わかったのである!」

「はい」

「楽しみだね~」

 

 四人と別れ、私は一階部分を見て回る。

 中央に配置されていた階段が無くなり、カウンター奥右手に薄緑に輝く筒状の何かが配置されていた。一体何なのか気になりそちらへ足を進めれば、丁度大和がその筒へと入るところだった。

 大和が筒へ入り淡く筒が光る。そして、瞬きをする間に大和が消えた。


[[大和] お~、凄い。上下に移動できる魔法陣だ~]

[[ヒガキ] エレベーターみたいな感じですか?]

[[鉄男] おもしれ~! ポータルいいね!!]

[[シュタイン] ren、部屋を決めたのである! 地下二階に来て欲しいのである]


 早々に部屋を決めたらしい博士に呼ばれて、私もポータルの中へ入る。

するとウィンドウが立ち上がり、地下二階、地下一階、一階(灰色)、二階、三階と表示された。ワクワクしながら、地下二階をタップすればものの一秒で薄暗い地下へ着いた。


「ここを使いたいのである」

「……わかった」


 地下二階は元々部屋――と言うよりはだだの空間というべき状態だった。本来ならここを宝物庫にすればいいのだろうが、博士が使いたいのであれば使わせておこう。

 ポータルの横にある壁に備え付けられた設定用のボタンを押し、部屋主を博士に設定した。


「危険物の取扱だけは注意して? 爆破したりしないように」

「了解なのである!」

「本気でお願いね?」

「大丈夫なのである!」


 ルンルンと鼻歌を歌い、アイテムボックスから荷物を取り出す博士。


 返事は良いけど、ラボの時とあまり変わらないように見える。だって、既に荷物が雑に置かれ、積み上がっているから。あれが倒れたらどうなるんだ――いや、考えるのは止めよう。うん、見なかった事にしよう。


 博士に対する不安は常時発動されているものだ。他のメンツにも注意を呼びかけることで危険を排除すればいい。

 なんとかなるだろうと、軽い気持ちで思い直すと一階へ戻る。


 基本、一階の造りはあまり変わらないようだ。

 玄関、左側に部屋が二つ。ここは応接室でいいだろう。右は、続き部屋のようなので、変わらずキッチンとリビングダイニングに。

 私の部屋は置くの左手にして、カウンターに近い真ん中の部屋を会議室にする。

 ポータルの右にある丸い尖塔は、地下二階から三階まで登れる螺旋階段だった。


 ひとまず自分の部屋の内装を整えつつ、他の三人に呼ばれるのを待つ。

 部屋が広くなったおかげで、ウルのベット――半円形の物――も特注の物が置けた。フカフカのクッションを沢山置いて、ウルが寛ぎやすい空間を作ってみた。


「良い感じ。後は、机と……本棚と、それから――」

[[大和] ren~。時間平気~?]

[[ren] 何階?]

[[大和] 二階にお願い~]

[[鉄男] あ、ついでに俺もよろしくー]

[[ren] わかった]


 大和に呼ばれ二階に昇る。二階の部屋もかなり数が多くなっているようで、大和の話では二階は全部で十五部屋あるそうだ。これまでに比べると倍近い?

 大和が選んだ部屋は、左奥――私の部屋の真上に当たる部分だった。広さは、自在に変えれるので部屋主に設定をしておく。

 大和と同じ二階を選んだ鉄男は、ポータル側の右奥を選んでいた。


 二人とも、部屋の丸い部分が気に入ったらしくそこにベットを置くのだとはしゃいでいる。自分の部屋を持つと色々と妄想して楽しくなる気持ちはわかる。私もウルのベットとか……色々あって人の事は言えないけど、二十歳過ぎてあのはしゃぎ方は無い。大の大人が我を忘れてひゃっほ~と奇声をあげながら、部屋の中を走りまわるのはいかがなものか……。


 二人の設定を終え、一階に戻り部屋を整え終える。キッチンやリビング、ダイニングを片づけようかと思いながら、未だヒガキさんから連絡が入らないのが気になり探すことにした。


 ポータルを使い二階に昇るも、彼はいないようだ。ここに居ないとすれば、三階か地下一階なのだけれど、どっちを先に見ようかと悩みながら目についた螺旋階段で三階に昇る。

 三階も部屋数は二階と同じか。これは広すぎて逆に迷子になるパターンじゃないだろうか、などと思いながら三階を一回りするつもりで歩く。すると丁度、左奥の角部屋前で、ヒガキさんを発見した。


「ヒガキさん、決まった?」

「あ、マスター。すいません、遅くなって」

「いや、気にしないで。どう? 気に入った部屋はあった?」

「そうですね……自分、今回は地下が良いかなって」


 ヒガキさんのことだから、古参メンツに気を使って地下を選ぼうとしていたのだろう。

 まぁ、多少相手の事を思って優しくするとかは必要だけど、部屋割ぐらい好きにしたらいいと私は思う。

 だって私たちの中でヒガキさん、ゼンさん、ミツルギさんの三人は、既に友人でありともに戦う仲間になっているのだから……とは恥ずかしくて口には出せないけど、心ではそう思っている。


「そう。気に入ったのが地下ならそれでいいけど、誰かに遠慮して地下に行くつもりなら、それはいらない。好きな部屋、選んでいい。何か言うようなら、私が〆る」

「……はい。えっと、じゃぁ、申し訳ないんですが、ここをお願いしていいですか?」

「わかった」


 へにゃっと相好を崩したヒガキさんは、何度か頷くと目の前の部屋を選んだ。

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