第292話 最強は同盟の運営に尽力す⑤

 白の部屋が決まった。相談を受けてから一時間後に……。結局、右側の窓枠がどうのと言っていた方の部屋にしたらしい。

 私には何度見ても、同じつくりにしか見えない。とか思っていたら、一緒に昇ってきた白影が――


「白、こっちにしたんだ。お前の好み的に左かと思ってたわ」

「あー、すげー悩んだけど、こっちにした」

「なるほど、こっちの窓枠の方がデザイン良いな」

「おー、白影分かってるじゃん!」


 二人の会話を見ながら、どこの言葉で話しているんだ? と首を傾げたくなる気持ちをぐっと堪え部屋の設定を終える。

 未だ続く会話を無視して、後はお好きにどうぞと言い残し一階へ戻った。


 一階のキッチンでは、部屋を片付け終えたらしいヒガキさんがキッチン台の設置をしていた。


「マスター、お疲れ様です。キッチン台この辺りでいいですか?」

「乙、ヒガキさん以外使わないから好きにしていいよ」

「ぷはっ、確かにこのクランで台所立つのヒガキだけだわな」

「ヒガキ君、宮ネェとか絶対立たせちゃだめだわいね!」

「笑顔で出されるマーブル模様の何か……」


 ぶるっと震えた雪継の後ろから肩を掴んだ黒い笑顔の宮ネェが「あら~。また食べたいのかしらぁ~?」といいながら現れる。

 クラチャの方でログインしてたのは知ってた。言わなかっただけで。


「部屋決めてね」

「クランハウス、良い物ができたわね。ちょっと見て来るわ~。あぁ、雪継、千桜、後で覚えてらっしゃい?」

「ひっ!」


 死の宣告を受けた雪継と千桜は短い悲鳴を漏らすと「あ、僕、大至急、急用があったんだった」「飯落ちするわいね」と言いながらそそくさと帰って行った。


「馬鹿だよな。ログインする限り逃げられねーのに」

「だよね」


 ロゼと二人、雪継と千桜の末路を思い浮かべ両手を合わせ、冥福を祈る。

 祈る間に続々とクラメン達がログイン。早々に部屋を決めるメンバーに呼ばれ、中途半端に祈りを済ませたのは許して貰いたい。


「チカはここでいいの?」

「うん。やっぱり俺の夢は地下基地だー!」

「あぁ、そう」


 チカに呼ばれて地下一階へ。彼が選んだ部屋は私の部屋の真下。石造りの壁や床がむき出しの灰色っぽい部屋は、前の地下の様子と余り変わらない。ただ、丸い尖塔がこの部屋にも付いている。

 さくっと設定を済ませ、チカの部屋を抜け出す。すると直ぐに同じく地下を選んだ村雨からお呼びがかかった。


「村雨はここね?」

「あぁ、ここで頼む」

「分った」


 村雨の選んだ部屋は、何の変哲もないただの箱だった。

 本当にここでいいのか、視線で問えば無言で頷かれる。


「部屋変えたくなったら言って?」

「あぁ、わかった」


 設定を終え、宮ネェのいる三階へ向かう。

 そう言えば、春日丸は今日ログインできるのだろうか? 何も言っていなかったしそのうち来るだろう。先生の友人の仙人の面接はどうするんだろう? 未だ話しが来ないと言う事はフラレタのかもしれない。一度会って――と言うより見てみたいけど、いきなり仙界の話とかされても微妙なところだ。


 下らない事をツラツラ考えポータルで移動する。

 宮ネェが選んだのは、三階の壁一面がテラスにつながった広々――広すぎないか?――とした部屋。


「ここにするわ。窓枠が白で可愛いし、私に似合うでしょう?」

「……設定するね。あぁ、宮ネェ、部屋の配置終わってからでいいから、リビングダイニングもよろしく。物はクラン庫に入ってる」

「了解よ~」


 話を流してしまったにも拘らず、リビングダイニングの件を快諾してくれた宮ネェにお礼を伝える。

 他にログインしているメンバーは、と見ながらゼンさんのログイン挨拶を見つけて部屋が決まったかクラチャで確認。二階に決めたと言う彼の言葉に従って二階へ降りた。


「お待たせ」

「あ、マスター。わざわざありがとうございます」

「部屋はここでいいの?」

「はい。ここからだと畑が見えるので」

「三階の方が見える方開いてるけど? 本当にここでいいの?」

「はい。キヨシ君も大和さんも近いですから、ここでお願いします」

「わかった」


 のんびり屋のゼンさんの癒しは畑だったようだ。知らなかった……。

 彼が選んだ部屋は、大和の隣だ。近くにはキヨシとさゆたんもいるから、安心なのだろう。

 設定を終えて、ゼンさんの部屋を出る。と、そこで風牙と春日丸、聖劉、ミツルギさんと宗之助が示し合わせたかのように絶妙なタイミングでログインした。

 ログインした四人にはクランハウスの部屋を決めるよう伝える。残りは……ベルゼと先生と源次だ。

 

 一階に戻り、リビングに顔を出す。

 ヒガキさんが暇そうなら雪継たちから貰った増築祝い――コーヒー豆を渡すついでに、私の分をお願いしておこうと思ったからだ。

 なのに、なんでかロゼがリビングでソファーを出して座っている。


「まだ、いたの?」

「そんな嫌そうな顔すんなよ。あ、これはヒガキが出してくれただけだから!」

「料金はヒガキさんに払って? そのソファー自前?」

「あぁ、わかった。自前だな。つか白の部屋に行った白影が、戻ってこないんだよ」

「あぁ、そういう事……」


 グダグダとロゼと会話を交わしながらヒガキさんの様子を見れば、彼は忙しなく働いていた。クラメンがいそいそしているのに私が座るわけにはいかない!! なんて責任感ある熱血なマスターらしい考えを私が持つはずもなく、私はロゼのソファーの横にクッションを取り出し座った。


「手伝わないのか?」

「手伝うと言う行為をすることが迷惑になる事もあると思う」

「あぁ……」


 その後、私たちに会話は無かった――。

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