第275話 最強は城主を目指す㉘


 トニトゥールスが開けた道を、ギリギリでいきのこってしまった黒たち盾三人衆を先頭に進む。続きの間の中ほどまではトニトゥールスが殲滅してくれている。これならば、残り時間で攻略は可能だろう。

 唯一、気になることといえば回廊でバリアをほぼほぼ消費してしまったことだ。宮ネェに確認したらバリアの残りが後二枚と言うので、この後はゾンビアタックで頑張ってもらいたい。


(雪継) ren。もう一回ドラゴン召喚できる?

(ren) ゾンビアタックで頑張れ

(雪継) あぁ、えーっと、うん。わかった

『『「えーっと、ここからは自力になるそうです。頑張りましょう?」』』

(千桜) 雪、言わされてる感満載だわいねw


 雪継の指揮チャは相変わらず辿々しく、これは本格的な指導が必要であると再びのメモ。

 そんな雪継に千桜がツッコミを入れる。二人の楽し気なやり取りに、それまで連戦で疲れが溜まっていた参加者たちの顔に笑みが浮かんだ。


 ここからはゾンビアタックで、殲滅する言った言葉に、漸く出番だと遊撃や後方支援に回されていた宗之助たち紙職がやる気をみなぎらせる。彼らにとってはここが見せ場になるからだろう。


 黒たち盾がヘイトでタゲを執り、自分の周囲に騎士たちをおびき寄せる。騎士たちの背後には、宗之助たち紙職以外の近接組も陣取りNPC一人に対し五人体制で攻撃を仕掛けていく。

 NPC魔導士を狙うのは遠距離組だ。ロゼ主導で、ターゲットマーカーを使い、狙うNPCを指し示す。

 狭い続きの間で、弓、魔法のエフェクトが飛び交い、近接組のエフェクトがそこかしこで舞い踊る。


(さゆたん) 奥のエリートWIZ(ウィザード)が、範囲魔法使ってくるでしゅよ!

(雪継) 痛いぃ!!

(ロゼ) 雪下がれ、お前が死ぬと意味が無くなる。

(大次郎先生) 雪のPTは通路退避。他は殲滅


 さっきほどから微妙なHPの減りを感じていた私は、さゆたんの報告にあぁ、だからか、と納得した。予想外だったのは、雪継が何故か前に出ていたことだ。馬鹿なのか? 馬鹿なんだろうね?


 通路に下がる彼に呆れた目を向けた。その視界の隅で、博士が何やら手に持っているのを認め、彼に視線を移動させる。

 ニヤリと口の端を上げた博士の行動に、いやな予感――身の危険が迫っている気がした。即座にその場を離れ、雪継たちのあとを追い通路へ退避する。

 遠目でもわかる博士の手にあるPOTを改めて見直す。

――サンダーハリケーンボム(試作品)


「うわぁ、まだ持ってたんだ」

「ん? 何が? 何を持ってたの?」

「renどうしたわいね?」


 ボス戦前の大惨事を思い出した私は、顔を引きつらせ更に数歩下がった。

 私の言葉が聞こえたらしい雪継と千桜が、私の反応を凝視する。

 確かにアレなら、そこら辺のNPCは死滅するだろう。ただし、仲間も含めてと大きな注意書きが必要だが。


「えっと、これから何が起こっても雪継だけは生き残って、ついでに私は、このことと無関係だから!」

「「は?」」


 雪継と千桜が言葉に詰まり私を凝視する。その僅か数秒後、ニヤリと口角を上げた博士が、ドヤ顔でボムと名のつくPOTを放り投げた。


 POTが博士の手を離れ、地に叩きつけられ割れる。

いち早く危険を察知した白が、秀逸な顔を歪めこちらを振り向き走り出す。つられるように聖劉、さゆたんが驚愕した顔で通路へ走る。

 逃げ場がないと悟ったらしい先生とロゼが、ゆっくりと瞼を降ろす。宗之助が何かを感じ、源次、風牙があぁ、やられたーと言いたげな表情に変わった。

 黒、大和、ティタ、が気付き、鉄男が「ふざけんなーーーー」と叫んだ。

 が、しかし鉄男の叫びは、王座の間を巻き込む形で爆発したボムの爆音によってかき消された。

 爆風を上げて背後から迫りくる雷に、白、さゆたん、聖劉が必死の形相で走る。その様子を安全地帯で眺めていた私の脳裏に、有名な昭和のドラマ――葉巻を咥えたボスがワイン片手に、ブラインドを指で広げ覗き込む――のラストシーンと楽曲が流れた。


「……な、何事?」

「死にたくないでしゅぅぅぅ!」

「い、いきなり爆発したぞ、おい」

「はかせええええええええええええええ、まじでしねえええええええええ」

「千桜、言葉戻ってる」

「うわー、これ間違いなく、後でPKされるレベルだわいね」

「つーか、生き残ったのこんだけ?」


 爆風を逃れたさゆたんと白が、ゲームなのに肩で息をしている。走る最中にあれだけ叫べば息も切れるか、と勝手に納得した。そう言えば……聖劉はどうしたのかとそちらを見れば、途中で躓いたようで片腕を伸ばしたままHPを枯らし死んでいた。


 爆風や雷が収まり状況を改めて確認する。現在城内で生き残っているのは私、さゆたん、白、雪継のPTのみ。続きの間のNPCは全滅で、王座の間の残存勢力は三割。流石にこの人数で突っ込んで死ぬのはごめんこうむりたい。

 

 考えごとに没頭していた私の耳に「くそっ、なんで……くっ」と堪えるような白の声が届いた。

 いつもの事じゃないか、博士のPOTで死ぬことなんて、と白を見る。揺れる肩の動きで白が、何に耐えていたのかを悟った。


「うわー、死に顔みられるのなんて絶対に嫌でしゅww」

「ちょ、趣味悪いよ。パイセン……ぷっ」

「確かに聖劉の顔近くで見るとヤバイわいね」

「ぶっ、くっ……アハハハハハハハ。だってヤバくね? この顔見てみ、マジで笑わずにはいられないだろ?!」

「この仕様、悪意しかないでしゅよ」


 さゆたんの言う通り、ゲームの仕様ーー運営の悪意とも言うがーーでプレイヤーに限り死に際の姿、表情のまま色褪せる。しかも、攻城戦は復活するまで約一分ほどのディレイが発生してしまう。だからこそプレイヤーは、笑われないよう誰もが目を閉じ醜態を晒さないため気をつけるのだが、聖劉は……。


 真面目に作戦を考えているのに、近づくと私も笑ってしまいそうだ。流石にここで私まで笑うと聖劉が凹みそうなので、見ないようにしながらSSだけを撮影した。

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