第274話 最強は城主を目指す㉗

 (ren) 黒、大和、白影、準備いい?

(黒龍) お、おう

(大和) 僕なんで盾なんか選んだんだろう?

(白影) 死ぬ気でやるしかねー、死にたくねー、こえー!!


 NPC騎士から一メートル離れた場所で、盾を地につけ前に出し屈んだ三人へ確認を取れば何故か肩が震えていた。別に死ぬのなんか怖くないだろうに、と言おうとしたところで宮ネェから「こちらも準備できてるわよ~」と完了の言葉が飛んでくる。


(ren) 博士、ミリまでポーション投下まで

     カウント、5……4……3……2……1……


 0のタイミングで「投下」と白チャで告げる。合図を聞いた博士はドヤーと決め顔を作り、二本の指で挟んだポーション瓶を勢いよく投げ放った。

 そんな博士の前に陣取った黒、大和、白影に道を塞ぎ、ガードを使う。私と博士の後ろから、宮ネェとチカが三人を回復していた。


(ren) 博士、カウント2でチェーン投下。

    宮ネェ、バリア準備

(宮様) バリア、10番準備してちょうだい~

(ナハサ) はい


 投げられたポーション瓶は見えない。流石ゲームと言うべきか、ポーションが落ちたであろう場所には、大きな数字が表示され徐々にカウントされていた。


「行くである! 我が英知の結晶三番!」

「バリア!」


 博士とサハナさんの声がダブる。と言っても、確実に博士の音量の方が大きいけど……。勢いよく叩きつけられたポーションが割れるのと同時にバリアが張られ、ミリまでポーションが作用した。


「うおおおおおおおおおおおお、怖ええええ」

「ちょ! はっ? なんで俺までミリなんだよー」

「いやー、死ぬ。死んじゃうぅぅぅ」

「ぎゃー、回復追いつかないぃぃぃ」


 流石と言うべきか、博士の作ったミリまでポーションはした。

 黒、大和、白影のHPがミリになり、三人三様の叫び声が上がった。かと思えば、後ろからも大多数の悲鳴が。

 バリアあるんだし死ぬ事はないんだから焦らなくてもいいのに。直ぐ側に居る私のHPもミリだし、チカ回復頑張って?


 投げられたチェーンサンダーポーションは割れた途端、パリパリッという音を上げ、鎖型の雷が近くのNPC騎士に巻き付いた。それは次第に騎士や魔法士、バリア中の黒たちを巻き込み最大範囲まで鎖を伸ばす。そして、一瞬スパークするかのように輝いたかと思えば、巻き込まれたNPCだけがバタバタと音を立て倒れ、粒子になって消えた。


 範囲が広い分効果は弱いようだが、ミリまで減っているおかげで十分に効果を発揮したと言える。博士のPOTは、使い処さえ間違わなければ使い勝手がいいと証明された。

 さて、次――


「ちょーーーーーーー、ren、ren、れ~~~ん!! やばいのである!!」


 博士の悲鳴に思考を断ち切り顔を上げれば、チェーンサンダーポーションの範囲に含まれた――ミリまでポーションの範囲外にいた――騎士たちが博士をターゲットに据え怒涛の攻撃を仕掛けてくるところだった。

 

「博士下がって、力の限りミリまでポーションを投下! 宮ネェ、バリア準備。チカ、回復最速で頑張って! 黒たちは、からガード継続!」

「行くのである~~~~~」

(宮様) バリア11番、準備!

(†元親†) ディレイあるから、無理ぃぃぃぃ!

(小春ちゃん) うちから回復まわさせるわね~ん

(ロゼ) 白影の回復はうちからも回す。

(大和) ren~、ポロっと本音出てるから~笑

(千桜) renと博士の回復はこっちで受け持つわいね

(白影) さらっと酷いぞ、ren! 

     ガチで死ねって……ないわー

(雪継) チカ、イキロ


 無理くりPOTの投下&バリアを継続しながら、通路を少しずつ進む。ミリまでポーションが作用する度に大袈裟な叫び声があがっているが、ここは一切合切スルーを決め込む。

 いい加減慣れればいいのに、と言う思いもあるが、この悲鳴が中々に楽しいのも本音だ。だが、ここで変なリアクションをして、黒たちにそっぽむかれるのも面倒だから、顔だけは平静を保つ。


 あと一回の投下で通路も残す所あと一本になる。そう言えば、後ろをちゃんと着いて来ているのだろうか? と思い出した私が後ろを振り向けば、全員が顔を引きつらせ数歩後ろへ下がった。

 え? 何かした? 流石にあの距離ならポーションの範囲外だし、そこまで気を付ける必要ないのにどうして下がったの?。 


 よくわからない後方の皆さんは放置して、角を曲がる。

 とここで、ついに博士のミリまでポーションが底をついてしまった。後少しだったのに、とても残念だ。

 仕方なく「お疲れ」と博士に声をかければ、出番が終わったと悟った博士は「我の出番が……」と肩を落としながら後ろへ下がった。

 さて残りは直線のみ。このまま扉をぶち壊し、続きの間へ突入したい。


「宮ネェ。バリア準備」

(宮様) バリア18番準備してちょうだい

(大次郎先生) ren? 何する気?

(黒龍) 何するか言え! お前は、まず計画を俺たちに話せ!

     社会人の常識だろうほうれん草!!

「バリア。カウントよろしく」

(ティタ) うわー

(宗之助) 酷いでござるなw

(黒龍) ガチでシカトしてんじゃねーよ!

(宮様) 了解。カウントー!


 黒がブチブチ何か言っているけれど、今はそれどころではない。何故なら、博士のチェーンサンダーポーションを食らったNPCがゆっくりとではあるが進軍している。事後報告にはなるけど、まずはそちらの殲滅を優先するべきだ。


 宮ネェのカウント0に合わせ十八番目の人がバリアを張ってくれた。無言だったため名前がわからないけど、心の中でありがとうと言っておく。


「イリュージョントニトゥールス」


 トニトゥールを選んだ理由は簡単簡潔に、通路が狭いことと続きの間まで直進だったからだが……無事召喚出来るだろうか?

 不安を感じながら見つめる先で、野外ではないので風もない状態なのに砂塵が舞いはじめ、集まり、はじけ飛ぶとトニトゥールスがその巨体を姿を現し…………た?


(千桜) 壁に、ドラゴンが埋まってるわいねwwww

(白影) 顔だけってww

(白聖) やべぇ、見え方がやべぇ。草生える。

     運営のグラフィック担当涙目だろうな~w

(小春ちゃん) 白の語彙力がやばいわね~ん


 わちゃわちゃと五月蠅いチャットを無視して召喚したは良かったが、トニトゥールスの巨体が壁に埋まって肩から上だけが通路に出ている状態になってしまった。

 あ、ちなみにトニトゥールの顔は角の部分が天井に埋まっており、見方によっては傘の持ち手そっくりになっている。可哀想なトニトゥール。

 そんな事よりも果たしてトニトゥールはこれでNPCに体当たりできるのか、と言う謎が私の胸をときめかせる。

 事の顛末を見守る私の眼前で、トニトゥールがひと鳴きすると傘の取っ手状態で一気に敵陣へ突っ込んだ。


(雪継) おー、すげぇ!

(大次郎先生) 流石、ドラゴンだなw ただ、笑が起こる状態だけど

(風牙) 味方だからこそ言える言葉だが、腹が捩れるww

(ロゼ) 確かに……w


 トニトゥールは、私の願いどおり無事仕事を終えて帰還する。周囲のNPCを一掃して――。

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