第270話 最強は城主を目指す㉔
カリエンテが開けた騎士の穴を抜け、側面の城外門にべったりと寄り沿って移動する。こうしないとNPCの放つ、魔法や矢の餌食になるので仕方ない。
階段を駆け上り城外門上に登る。幅約四メートルほどの通路にはぎっしりと槍を装備した騎士と弓、魔法士が。
これを倒しておかなければ、後々自分たちが殺される事になるためここからは、全員が――主に前衛組なのだが――ゾンビアタックで駆逐する。
[[風牙] うがぁー、多すぎだろ!]
[[大和] ハハハハ。乾いた笑いしかでないよねー。ここまでギチギチだと]
[[黒龍] 気合入れろ。やるしかねー]
(ロゼ) 初期の城ってここまで詰まってたか?
(千桜) デメテルはどうだったわいね?
[[†元親†] ちょ! MP枯れちゃうから早く狩って!!]
(小春ちゃん) 装備のメンテ必要な人は、こっちまで来てね~ん
(ロゼ) 覚えてないw
騎士たちの詰まり具合が、見た目的にも精神的にも酷いためか、皆が口々に愚痴を零している。愚痴を零す間も、がりがりHPが削られているようで、回復を受け持つチカと宮ネェはさっさと攻撃して欲しいようだった。
うちに回復の余裕がないため仕方がないけど、しんどそう。
叫ぶチカを哀れに思った私はあくまでも気休め程度に水のソウル、フルークトゥスを入れMP回復を試みる。クラリタスとフルークトゥスを両方入れられればいいだろうが、ソウル自体が同一バフ扱いになるため見事に上書きされた。ま、わかりきっていた事だし、私に否応はない。
『「皆、頑張れ!」』
(白影) だー。痛ぇ~! 無理だ、これw
(大次郎先生) 回復は無理しないで、前衛見殺しでいいよ~。
MP温存&自分優先防衛するように。
(ren) 宮ネェ、バリア止めていい。どうせ死ぬから意味ない。
壁の上の攻防は激しさを増す。NPCを一体倒し終えるころには、黒をはじめとした硬い壁たち――盾と言われる職業のプレイヤーが結構な割合で死に戻りしていた。
彼らが戻るまでティタたち重装備組が持てばいいが、見る限りそれは難しそうだ。
ティタ達がダメなら紙装備組が出張る。回避率が高いからこその紙装甲なのだが、まず間違いなくNPC相手にそれが通じるとは思えない。紙装甲ゆえに、初撃を食らえばHPの全てが吹き飛ぶだろう。
「これ、詰んでないか?」
私の思考とリンクしたかのように、隣でNPCを攻撃するロゼが呟いた。
「うん、詰んでる。NPC相手だと数に物言わせればいいけど、今は無理だから諦めて?」
「ぶっ、認めんのかよ」
「うん。この状況だと言い訳も出来ない」
「あー、まぁ、そうだなー」
「ちょ、縁側で日向ぼっこしながらお茶飲む老夫婦みたいな会話するのやめて? しかも内容が不穏すぎるから!」
ロゼと二人遠くの戦場――城外門の上を見ながら会話する。そこへ、たまたま来たらしい雪継からツッコミが入った。
老夫婦ではないけれど、ロゼとは以前から何かと気が合う。だからこそ、こんな会話になったのだけなのだ。
[[黒龍] ren、バフくれ、ソウル雷で頼むわ]
[[大和] 僕も~!]
[[鉄男] 俺も俺も]
(白影) ren~! バフ頼む!
[[村雨] 頼む]
[[大次郎先生] 私も欲しい。ソウルは同じく雷で]
[[ヒガキ] お願いします。マスター]
(千桜) 私も欲しいわいね~。
死に戻りしたらしい面々が、戻った途端にバフバフと五月蠅い! 白影の要求に苦笑いを浮かべたロゼが、私の肩をポンポンと叩き「頼むな」と一言。
頼まれなくてもバフは回すけど、クレクレ言われると入れたくなくなるのは何故だろう? 私がひねくれているだけなのかもしれないが、死に戻りしたのにすごく楽しいと言わんばかりのいい笑顔を向けられると余計にイラっと来る。
ある程度の人が戻ったところでバフを追加して様子を見つつ、同盟チャットでバフが無い場合の指示を出す。
(雪継) 先生、死に戻りが、城外門抜けれなくて死に戻ってる。
(ren) 流石にMPきついから、バフは十分に一回。
それ以外は、クランのバッファーに貰って。
(大次郎先生) あー、死に戻る人には、範囲外待機って伝えて。
続きの間抜けるときに、連発する事になるからバリア無駄打ち出来ない。
(雪継) 了解。
あぁ、攻撃したい。私も攻撃に回りたい。けど、どうぜバフ入れて欲しいから、ダメって言われるんだろうな。
攻撃に出るとして一番反対しそうな人にチラッと視線を向ける。すると見事にかち合う。ほんの一秒程度互いに見つめ合い、このまま見ていると思考を読まれそうだと思った私は自分からスッと逸らした。
『「死に戻って、城外門抜けれない人は城外門上殲滅済むまで、その場で待機してください」』
(大次郎先生) ren、
バレなければ良いだろうと、二刀を取り出すためアイテムボックスを開いたタイミングで、思考を読み切ったらしい先生が態々同盟チャットを使いしっかりと太い釘をさしてきた。
「何、renまさか、突っ込むつもりだったのか? バッファーなのに?」
「……」
笑いを含んだ声でロゼが同盟チャットの発言を受け、冗談交じりに聞いて来る。それに対し、視線を城外門の上に向けたまま無言を貫く私。
スッと目を眇めたロゼの眼が、いつの間にかジト目に変わり「はぁ~」と聞えよがしに大きく嘆息した。
「無言は肯定だぞ?」
「……チッ」
「おい、マジだったのかよ」
反論を封じられ舌打ちした事で私の意図をくみ取ったロゼの顔が呆れた表情に変わると、ありえないと言わんばかりに首を振られてしまった。
ぬぅ。あの短時間で、どうしてばれたの……。バレなければ良いだろう、と思いつつチラっと伺うように先生の方を見れば、ジーっと私を見て否定するように首を振られてしまう。
あぁ、ダメだ。この考えすら読れてる。
完全な諦めと共に、視線を逸らした私は、今度こそ真面目にバッファーを仕事に専念した。
クラメンたちのソウルの更新をかけ、MPPOTをグビグビと煽る。
城外門の上を攻略中の面々は前後しつつ、なんとかNPC騎士たちを後少しというところまで排除していた。
『「弓、魔法職は、南の出っ張り部分を優先でお願いします。前衛はそのまま、騎士優先排除してください」』
助言を受けた雪継の拙い指揮チャが飛び、弓と魔法職がその標的を城外門の上に設置された半円の広場に変える。半円の上には弓を装備したNPCと物見櫓と思われる尖塔が立てられていた。
飛んでいく魔法と矢が、山なりの曲線を描き半円のNPCを次々と射抜いていく。そこへ漸く騎士を倒し終えたらしい前衛組がなだれ込み、漸く城外門上のNPCの排除が終わりに向かう。
(ロゼ) ここまで来れば何とかなるか、死に戻り戻らせよう。
(宮様) バリア一人出す?
(大次郎先生) バリア無しでいいよ。東北方向からくれば被弾はしない。
(黒龍) 階段詰まるから、後ろで棒立ちの奴ら下がらせてくれ
(宮様) 了解
(白影) 俺が行くわ。
(雪継) 伝える
(ロゼ) 暇な奴らは内城門、開けて
『「死に戻り組は、東北方向の壁伝いに城外門抜けて戻って下さい。後、えっと、階段に居る人たちは、後退して。それから何? あぁ! やることない人は内城門攻撃してください!」』
同盟チャに流れる内容を必死に言葉にする雪継は、相変わらずどこか抜けてる奴だった。
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