第269話 最強は城主を目指す㉓

 イリュージョン召喚を提案した雪継に、私は範囲がある事を伝えた。実際にイリュージョンを受けたことあるクラメンからは、冗談だろ? と言う視線を感じたがこればかりはどうしようもない。

 チクチクやるよりイリュージョンの方が早い。だが、次があった場合、再召喚の時間が問題だ。

 なんて事をツラツラ考えながら、褒章の袋を開け続ける。


「むー、POTばっかり……」


 もうそろそろ、何かしら出て欲しい。だが、そう簡単に欲しい物はもらえないのが病ゲーで。これまで何度も同じような目に遭っている。だからこそ、こういう時は、無心で開け続けるべきなのかもしれない。

 

[[白聖] なぁ、これもう突っ込んだ方がよくね?]

[[ティタ] 当たらな過ぎてイライラする~!]

[[ヒガキ] 矢の無駄に思えてきました]

[[キヨシ] MPきちー!]

[[シュタイン] POT投げてみるであるか?]


 敵さんのHPが多すぎて、減らない事にキレ始めた白の言葉を皮切りに、ティタたち近接がブチブチと文句を言い始める。チャットが見えているであろう、宮ネェと先生は苦笑いを浮かべる。静かな黒は、既にキレた後らしく無言だ。

 

 こうなる事がわかっていただろうに、はぁ、仕方ない。この状態で既に、十五分も時間をつかっている。このままだと間に合わない可能性も高い。なら、城外門周囲を削れる分削ってバリアで中に入るしかない。城外門上の遠距離を潰してさえしまえば、ゾンビアタックでも可能だろう。


(ren) 城外門周囲削るから、範囲届かないとこまでは削って

    博士、敵にPOT投げていい。

(シュタイン) いくのである!

(ren) 雪継、城外門周囲削れたら、博士の投げ込みと同時に

     近接向かわせて、遠距離優先排除徹底させて

(雪継) 了解

(ロゼ) 城外門抜ける直前に、宮ネェバリア指示よろしく

『「全員同盟チャット見えてたよね? そう言う訳なので、城外門抜けたら上の遠距離徹底排除よろしくお願いします」』

(宮様) バリア、1、2番準備しといてね!


 宮ネェの合図に二人の回復職が前に出る。

 城外門のNPCへ特攻をかける私の前に立った黒が、ヘイトを打ち込めば百メートル先のNPCのタゲが黒に集まる。痛そうに顔を歪める黒を守るように、回復のエフェクトが二本立ち上る。


[[ren] 走るよ]

[[黒龍] k]

(宮様) 1番

(ヴィルディーナ) はい!


 黒のHPの減り方が尋常じゃない。走り出す直前、タイミングを読んだ宮ネェがバリアの指示を出した。

 バリアに包まれたおかげで、考える余裕が出た。駆け足で黒と並走して突っ込む。城外門まで残り三十メートルの所で立ち止まり、ヘイトを打ち込む黒の横でカリエンテを呼び出した。


「イリュージョンカリエンテ」


 詠唱が終わり、黒雲が渦巻き始める。僅かに開いた黒い穴からズボっと深紅に輝く鱗を持ったカリエンテが、その美しくも荘厳な姿を現すと優雅に空を舞い降りる。バサリと一度翼を動かし、着地すると一声鳴いた。


「グルォヴォォォォ」


 頭上から上がる声だけで地面が揺れる。

 ふと見上げたカリエンテに、思考があらぬ方へと向かう。

 ドラゴンの中でも一番大きいと思われるカリエンテの巨体を持ってすれば、城ごと叩き潰せそうな気がしなくもない。まーでも、そもそもの話カリエンテって火炎攻撃しかしないわけで、考えるだけ無駄だろうけど……体を叩きつけると言えば、雷のトニトゥールスの方だよね。もしかして、呼ぶドラゴン間違えた? 地のリジッドゥでも城壊せるんじゃないだろうか? あぁ、でもリジッドゥの攻撃が地震だと決まったわけではないから一度試してみないとダメかも。


(宮様) 2番バリア準備! 

(カスガノ) はい!

(宮様) カウントー! 3……2……1……GO


 同盟チャットで宮ネェが慌ただしく仕切る中、タイミングを合わせたようにカリエンテが四肢を踏ん張り、首を伸ばすと業火と呼ばれるマグマにも似た炎を吐き出した。


「うはぁ、やべぇ~な。カリエンテ」

『「全員走れー! バリアあるうちに中に入れ~!」』

「うん。これは予想外」

(宮様) 3番、バリア準備! カウント5秒前で発動させて。

(ターボ) うっす!


 カリエンテから吐き出された炎は私の予想を超えていた。真っすぐ城外門へ向かった炎は城外門にあたり、上下左右へと向かいそこにいるNPCの騎士や遠距離職を巻き込んだ。城外門の強度が高いおかげでいい返しになっていた。

 

 それを見た雪継が、すぐさま後方に陣取っていた同盟員に走り込むよう指示を出す。そこへ宮ネェの緊迫した声が重なった。

 役目を終えたカリエンテが「グルルル」と鳴き、粒子に変わり消える。それと時を同じくして走ってきた大和たちと一緒に、焼け爛れた城外門を潜った。


[[シュタイン] 我のPOTを使うまでも、ぐふぅぅぅ]

[[さゆたん] カリエンテの威力上がってないでしゅか?]

[[春日丸] 博士ぇぇぇぇ、死ぬなぁ。あ……]

[[†元親†] あーあ、博士どんまい]

[[キヨシ] あの死に方は無いわー]

[[風牙] やべぇ、笑が止まらねぇ]


 背後から走ってきていたらしい博士は、城のNPCにその身を容赦なく射抜かれHPを散らした。とカッコよくいってみたけれど、ただ単にバリアの範囲を外れていたらしい博士が、バリアが無い事を忘れ、敵陣に突っ込んで死んだだけ。


 博士の自業自得の所業だと言わざるを得ない状況に、クラメンだけでなく一緒に行動を共にしていた同盟員たちも忍び笑いを零す。

 敵がNPCだからこそ今回は、笑ってすまされる。仮にこれがプレイヤー同士の事であれば、こんな死に方をした博士は先生から反省文提出の憂き目にあっていただろう。


(大次郎先生) 雪、回復は近接、盾の後ろに付けて。

        階段から挟む形で.360度制圧させて!

        近接は下から攻撃するよう指示。

『「城外門上は、東と西の階段使って盾と近接勇勢で移動。回復はその後ろに! 遠距離は下から狙撃してください」』


 どう見ても、今回の指揮官である雪継は、先生に言わされている感が否めない。と言うか、感ではなく言わされている。雪継も必死なのだろうが、もう少し何とかならないものかと私はバフを更新しながら考えた。

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