第268話 最強は城主を目指す㉒
魔法と弓を使ってチマチマ遠距離攻撃を仕掛けている現在、攻撃が当たらな過ぎて近接組の鬱憤が最高潮に高まっているように感じる。
バフを入れてもダメなら仕方ないだろうに……諦めが悪い。
(大次郎先生) これは、時間かかりそうだな
(ロゼ) まー、NPC相手の方が時間かかるのはわかってたし、仕方ない。
(白影) 一気に行って、ゾンビアタックの方が良くないか?
(千桜) 雪、これ以上近づくと魔法と弓の範囲に入るわいね。
(宮様) ゾンビアタックねぇ~。
(大次郎先生) んー。せめて、門前の倒しきってからじゃないと
城外門すら到達できずに死ぬよ?
私は千桜の言葉に周囲を見回し、先生の言葉に頷いた。
こちらより圧倒的に数が多いNPCに対し、近接が近づき攻撃するのは現状を見る限り厳しい。イリュージョンを使ってみるのもいいだろう。
だが、門の前から上、左右に広がっている――横に伸びているNPCの布陣を対象にするとなるとカリエンテでも殲滅は無理だ。
色々考えて、諦めた私は暇を持て余す。
バフは、ニ十分に一度の割合で入れればいいためその間の時間を有効活用しようと狩りで貯めた褒章の袋をを取り出した。
タップすれば済むことなのだが、今日はなんとなく手作業で開けたい気分だ。
褒章の袋は、茶色い麻袋を細い革紐で縛ったような見た目をしている。
緩く結ばれた革紐をほどき、中に手を入れればアイテムに変換されアイテムボックスの中にPOTと思われる小瓶とゼルが増えた。
POTか、これは後で材料になるからいいけど、ゼル1000って! けち臭い! 最低じゃないか。欲しい魔法書は、無くなるまでに一冊でも出ればラッキーだと思っている。思ってはいるが、あれだけ苦労して集めたのだからせめてもう少し良い物が欲しい。
一つまた一つと無くなって行く褒章の袋は、未だ開けた数より残りの数の方が多い。ただ、最初は楽しかった袋明けも時間が経つにつれめんどくさくなってきた。
「ちょ、ren何やってんの?」
ギョッとした顔をした聖劉が、私の行動を見て話しかける。
「暇だから、褒章袋開けてた」
「……あぁ、そ、そうなんだ」
視線を泳がせ顔を逸らす聖劉の反応は、特に間違っていない。
攻城戦中、自分の所のマスターがバフ以外の行動を一切取らず棒立ちで、褒章の袋を片手にしていればこういう反応になるのもうなずける。だから聖劉を責めるつもりはない。
だが、私は暇なのだ。とにかく暇でやる事が無かったのだから仕方ないと諦めて貰おう。
「ところで、renはバフ以外に何かしないの?」
「何をして欲しいの?」
掛け合いのようなやり取りを聖劉と交わしながら、褒章の袋を開け続ける。
「弓持ってるんでしょ?」
「あるけど、矢の無駄じゃない?」
「補正ないとしんどいよねー」
「うん」
「ちなみにどんなの?」
聖劉の声に褒章の袋ではなく持ってきた弓――+19エックスロングボウを取り出した。
エックスロングボウは、人型攻撃に特化した弓で二次職後半から三次職までの間使えるボウガンのような形の弓だ。弓の効果は、命中補正なので多少なりとも使いやすいだろうと思って持ってきた。
「エックスかー。これの効果って、命中補正だっけ?」
「そう」
「弓職じゃない限り、補正ないとほぼほぼ当たらないからね~」
「うん」
聖劉と弓を片手に話していたら、神妙な顔をした雪継が私を呼んだ。その声に振り向き雪継を見れば、ちょいちょいと手招きされる。
(雪継) ren、ちょっとお願いがあるんだけど
(ren) ??
(雪継) 横からカリエンテぶっ放してくれない?w
(ren) は?
雪継の日本語が理解できなかった私は、情けない顔のまま雪継を凝視する。そこへ、通訳と思われる千桜が、言葉を付けたし漸く彼の言いたいことを理解出来た。
雪継が私に言いたかったこと、それは城外門から横に広がっているNPC騎士たちを左右のどちらからでもいいからカリエンテで焼き払って欲しいと言うものだった。
出来ない事はないだろうけど、全部焼き払うのは無理だと思う。だって、みえる範囲――五百メートルぐらい――をびっしりとNPC騎士が上も下も埋め尽くしてる。
しかもカリエンテの範囲は、二百から三百メートル。最低でも、カリエンテ他で約三回は必要になるはずだろうから、無理だ。
(ren) カリエンテ呼んだところで、残るよ?
(雪継) マジ?
(ren) うん。カリエンテにも範囲があるから……。
(大次郎先生) え、アレって範囲あったの?
(雪継) うそーん!
カリエンテに範囲があると伝えれば、驚愕した表情でクラメンたちが私を見てる。その顔が馬鹿っぽくて、つい笑ってしまいそうになるが真面目な表情を作り耐えた。
悲嘆にくれる雪継に、どうする? やる? と聞き返す。
(雪継) 先生、どうしよう?
情けない声を出す雪継が、助けを先生に求める。その姿に、今回の総指揮は雪継だったよね? と確認した。
私の質問に聖劉が頷いた。
雪継は元々こう言う甘える癖があったとはいえ、今の発言は同盟全体に不安を誘うだろう。敵がNPCだから許される事ではあるが、指揮官は常に堂々としているべきだ。
城主になってしまえば、次からプレイヤー同士の争いになる。今後も同じような態度を取らせてはいけない、と考えた私は後で白に注意させようと頭の片隅にメモを取った。
(ロゼ) 半分でも減ればありなんじゃないか?
(大次郎先生) うーん。ここでカリエンテ使うのは良いとは思う。
ren、どれぐらい残りそうなの?
(白影) ここをカリエンテと他で抜けたとして、中にもNPCいるんだろ?
(ren) 半分前後。
難しい顔で、腕を組んだ先生がうーん。とうなり声をあげた。雪継と千桜、ロゼと白影も手を動かしながら、先生の答えを待つつもりのようだ。
宣誓の判断がどうなるかはわからないけど、どっちに転んだとしても私がやるべきことは大して変わらない。
そう思い至った私は、中断していた褒章の袋明けを再び再開した。
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