第267話 最強は城主を目指す㉑

  SGが無事に城主になった翌日。

 今度はアースを城主にするためヘスティアのNPCを相手に攻城戦に挑むらしい。なんて、他人事のように言ってみたけど、昨日の時点でわかってた。ログインした途端、先生にヘスティアに布告出せって言われたからわかってた。

 

 キヨシとチカのやる気十分な顔を見ながら、ハウスで開始前のコーヒーを飲む。相手がNPCと言う理由からやる気は全くでないけど……やるだけやろう。


「はぁ~。狩り行きたい」


 どうせ相手にするなら城のNPCより断然モブの方がいい。経験値になるし、クエストアイテムくれるし。はぁ~と大きく溜息を洩らしまたも知らず知らずのうちに「狩り行きたい」と駄々洩れた本音漏らせば宗之助がそれを拾った。


「最近それがrenの口癖になってるでござるな」

「まー、今日乗り切れば再来週までないわけだし頑張って?」


 隣で同じくコーヒーを飲んでいた先生に肩を叩かれ励まされる。

 励まされた所でやる気が上がるわけでもなく、ただただ時間だけが過ぎた。



*******



『「今日指揮するのです。どうぞよろしく」』


 頼りなさげな声をあげ視線を彷徨わせる雪継は、指揮できるメンバーのじゃんけん大会で負けて指揮をすることになってしまった可哀想な子である。


(白聖) 俺って、誰だよ! 草生えるわw

『「あ、アースのマスターやってます。雪継です」』

(さゆたん) 生ジルの間違いでしゅw

(白影) まだそのネタ引っ張ってんの?

(千桜) ちょ、さゆ。ここでそのネタ止めてあげて欲しいわいね

『「ぐはっ、もういっそ殺してくれ」』

(ロゼ) いいからさっさと、指揮しろ。

(大次郎先生) 頑張れ雪!


 ヘスティアの攻城戦開始五分前、ヘスティアの街の入口に集まった面々を前に流石の雪継も緊張気味なようだ。

 緊張を解くためか、ただ単に面白がってか、未だに生ジルネタを持ち出すクラメン達は相手が城を守るNPCとわかっているため最初っからぶちかます気満々と言った様子。


『「今回は、相手がNPCだからフラグベースは城前に置きます。締め切り間近に確認したけどうちの同盟以外、攻めはいないので心置きなくやって下さい」』

(ren) k

(ロゼ) おう

(小春ちゃん) 了解よ~ん

(千桜) わかったわいね

『「じゃ、PT入ってない人いないか確認して移動開始しましょう」』


 何故敬語なの? と、突っ込みたくなる気持ちを抑えクラメンたちが全員PTにいるか確認。先生がやってるから間違いなくいるだろうと適当に数えたフリをしながら、ウルを呼び出す。

 もふもふのウルがお座り状態で頭をすりすり。ついつい絆されお肉を出して与えてしまった。が、誰も何も言わない――生暖かい視線は感じた――ので問題ないはず。


 目が合った雪継は顔を引きつらせている。何か問題でもあった? と言う思いを込めてじっと見つめていたらすいーっと視線を逸らされ『「いっ、移動でー」』

と言う声で移動を開始した。

 

 五分程経って、攻城戦開始のアラートメッセージが画面にでかでかと表示される。それに合わせ、攻城戦区域に入った私たちはそのままヘスティアの城前へと辿りついた。


 ヘスティアの城は、城壁が五角形の形をしている。城外門は南西と北東に二つで、城内へ向かう扉は南に一つだけ。王座の間があるのは二階の最奥で、そこまでの道がまるで迷路に近い。

 見た目は有名なネズミの世界のお城に似ていると私は思う。目の前にずらりと鎧をまとった兵士がいなければだけれど……。


『「北東から入るからそっちにフラグベース置いたら、遠距離攻撃で城外門前の兵士優先排除で」』


 指示通り北東の城外門まで百メートルほどのところでウルたちを帰還させ、フラグベースを二百メートルあたりに置いてみた。

 うちの右隣りはSG、左はアース、アースの左に二丁目と言った並びだ。プレイヤーの敵がいない事とNPC騎士がフラグベースを攻撃する事がないので堂々と城門から見える平原においた。


 今回の作戦は、ただただNPCを全て撃破して城内に入り込み、城主になる! なのだが、上手くいくかどうかは微妙なところだ。

 何故微妙かと言えばNPCのLvとHP、MP、硬さ、攻撃力などなどが、三次職のプレイヤーと変わらないから。プレイヤーより使うスキルの数は少ないものの遠距離の弓や魔法を食らえば紙装甲は即死出来るレベルである。


 全て撃破する理由は、死に戻りがフラグベースに復活するため復帰に時間はかからない。けれど、折角復帰しても本体に合流するまでの道中でNPCに遭遇すればまた死んでしまう。だからこそ、NPCを全て撃破していくしかない。


『「準備できたところから、NPCに攻撃開始~」』

(キヨシ) 行くぜー!

(聖劉) タゲはティタのに合わせて

(白影) SG――タゲ俺が出すわ。

(千桜) アース――私に合わせるわいね

(小春ちゃん) 修理と補充はフラグベースに行ってね~ん


 ティタのターゲットマーカーに合わせ、うちは魔法職以外の全員が弓を取り出し攻撃を始める。黒たちは基本使わないものなので、今日のためだけに二次職用のロングボウ(店売)の弓を急遽買い強化したらしい。

 ちなみに宗之助たち遊撃部隊は、鉄の塊を投げている。ここから届くのか気になったが当たっている気配がない。


[[ベルゼ] ちょ、当たらない!]

[[源次] つんだな]

[[ミツルギ] 遠いっすね……]

[[大和] うーん。矢の無駄かも? 命中が悪くて当たらない~]

[[黒龍] とりあえず、打っときゃいいんじゃね?]

[[春日丸] ショートボウの方がまだマシ?]

[[ティタ] スカ、スカしてる]


 強化しても当たっていないらしい面々が口々にクラチャで感想を漏らす。そんな彼らに二次職のバフであるマジックオブアジリティ(+25)――命中率を25%アップさせる――を追加した。

 これでダメなら諦めて貰うしかない。だってもう、命中を上げるバフがない!!


『「小春ちゃん。矢の補充多いと思うから予備多めに作っておいて」』

(小春ちゃん) 了解よ~ん


 当たらない当たらないと言いながら一人、また一人とNPCが粒子になり消えて行く。確実に仕留める事が大事だし、攻城戦は始まったばかりだ。ゆっくりやって行こうと雪継へ声をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る