第271話 最強は城主を目指す㉕
雪継のクラン――アースのためにヘスティアの城を攻めている現在。私はぶっちゃけ、NPCが多すぎて辟易している。内城門を壊した直後、見えた景色は三列にキレイに並んだNPCの重装備騎士たちで、全員がその場で硬直もしくは嫌そうな顔をした。
(黒龍) 帰っていいか?
(ロゼ) まー、こうなるだろうとは思ってたけどよー。多すぎる。
(大次郎先生) はいはい、愚痴はそこまで、サクサク倒して。
(白影) 鬼だ。鬼が居る。
(さゆたん) うち唯一の良心でしゅよwww
死んだ魚の眼をした黒と白影、その他クラメンたちが何故か私の方を見る。
え、私何も言ってないよね? ここ攻めるって言ったの先生だし。同意したの君らだよ?
どう見ても、私のせいと言わんばかりの視線に否定する言葉を頭の中で吐き出し、頑張れと言う意味合いを込めてバフを更新する。
渋々と動き出した黒たちに、被ダメを防ぐため回復部隊が壁際に移動しつつ回復を飛ばす。
内城門内に見えるNPCは、奥まで詰まっているように思う。事前情報で三百~五百前後だと言ってたようだが、ここまで既に二百以上を倒しているように思えるため数的に、千を超えているのではないかと思え始めた。
内城門の入口を抜ければ、中は広くなっているはずだ。中に入りその場で留まり殲滅する組と道を切り開く組に分かれてNPCを殲滅する方が良いだろう。
(大次郎先生) ロゼ、SGでここの殲滅可能?
(ロゼ) おう。時間はかかるだろうけど、いける。
(大次郎先生) じゃぁ、ここSGで殲滅して。
うち、アース、二丁目は、ある程度殲滅したら先に進もう
(千桜) 了解だわいね
(小春ちゃん) わかったわ~ん。
同じ考えに至ったらしい先生が、私が同盟チャットを打ち込むよりも早く確認を取っていた。なので、私は黙ってMPを回復する。お腹がタプタプになってしまいそうなほどの勢いで自作のMPPOTイチゴ味を飲み干す。
今日のために夜なべして作り出したMPPOTイチゴ味は、回復量は少ないけど味が美味しい。コストがやばいほどかかるけど……店売りのPOTのクソまずさを知っている身としては【 お金 <<<<< 越えられない壁 <<<< イチゴ味 】と言ったところだ。
黒たちが騎士を一人ずつ倒して行く間、またも私は暇になる。暇な時こそ、褒章の袋開けだ! と思いコソコソと、壁際により宮ネェの隣で地味な作業を始めた。
[[宮様] ren……ここで、それやるの?]
[[風牙] あ、死んだわ]
[[シュタイン] 我が結晶の英知いくである~]
風牙が死に、前が開いたらしい博士が瞬時にPOTを投げ込む。そこには勿論、重装備の味方とNPC騎士が多数。いつもの博士のPOTなら、着弾と同時に魔法が吹き荒れ周囲が即死のはず。
だが、今回はPOTが着弾して、十と言う数字がPOTの上に表示された。その数字に、ふとまるで時限爆弾のカウントのようだと思った。
[[やまと] ちょ、え?]
(千桜) ぎゃあああああ、アレ?
[[黒龍] ちょおおおおおおおおお、ん?]
(ロゼ) あ、うちの盾死んだわ。いや、生きてるわ
[[ティタ] いだいいいいいい。ちょ、騎士が痛い!!]
(白影) いやぁぁぁぁぁ……はへ?
[[ベルゼ] 生きてる。なんで?]
[[宗之助] 拙者、躱したでござるか?]
[[村雨] うーむ。不発?]
博士のPOT=死だと思い込んでいる前衛組が、絶叫を上げる。が、待てど暮らせど衝撃が来ない事に、気の抜けた声を出した。
被害が及ばない私は冷静に博士の投げたPOTを鑑定する。
==========================================
品名:ミリまでポーション(時限式)
製作者:シュタイン
効果内容:カウントが零になると、周囲百メートルの
敵味方関係なくHPを100にする。
効果時間:無し
効果範囲:半径50M
対象:死傷者を含め範囲内にいる全て
==========================================
これは初めて見るPOTだ。博士のネーミングセンスを疑いたくなるけれど、それ以外の効果はかなり良い。対人に最適かもしれない。
なんて感心していた、その時――。
POTの数字が零と漢数字で表示されボンと小気味いい音を上げPOTからアニメチックな灰色の煙がちょこっとだけ上がった。
(大次郎先生) 回復、回復して!
(シュタイン) 今である! 魔法職は範囲魔法を放つのである!
周囲を見回し慌てた先生がギャグにも近い指示を出し、大慌てで回復が回復を飛ばす。それに被るように博士の叫びが上がり、入口近くにいた魔法職が一気に魔法を放った。
魔法職の範囲魔法で、HPを枯らしバタバタと倒れるNPC騎士たちの様子に、今回の立役者となった博士は嬉々として片腕を上げ勝利のポーズを取った。
「上手くいったのである!」
どや顔を決めた博士がふぅと汗を拭うフリをすれば、周囲の前衛組と回復役のプレイヤーが青筋を立てた顔で博士に対し殺すという瞳を向ける。
フルフルと腕を振るわせ、黒がツカツカと博士に近づく。無言のまま重装備を着けた拳を博士の脳天に叩き落とした。
「ぐはぁぁぁぁ、痛いであるぅぅ。何故、我がぁぁぁ」と言いながら悶絶する博士。
(黒龍) 自業自得だ。毎回毎回、お前もう少しまともなPOT作れ!
『「えーっと、先に進みます。FB、SG先行でお願いします」』
(白聖) 反省しない奴に何言っても意味ねーよw
(大次郎先生) 使うタイミングが悪い。
(千桜) まぁ……今回は庇いようがないわいねw
(キヨシ) 博士、そう言う日だと諦めろ!
(†元親†) 俺のMPがっ
次々上がるクラメンたちの言葉に、博士と近い思考に居た私は視線を逸らす。
あれだけの騎士を一層出来たわけだし、結構いいタイミングで使ったと思っていたんだけどダメだったようだ。私が知る限り、博士がこれまでに作ったPOTにしてはまともだ。何故なら、このPOTは使い方さえ間違えなければ、かなり使い勝手が良いのだから。それでも、ダメージを受けた黒たちには同情する。
「博士、それ量産して?」
涙目になりながら立ち上がった博士の横へと移動した私は、POTの量産を希望した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます