第251話 最強は城主を目指す⑦

「内城門の柔らかさは豆腐の如き~」って言ってたのは誰だったか? まぁ、そんなことはどうでもいいと横に置いておく。

 内城門を破って侵入した城内は、まるで迷路のように四方八方に通路が伸びている。トランスパレンシーを入れた私たちは、その迷路を右へ左へと曲がりつつ王座の間を目指した。


『もうそろそろ見回り居てもいいはずだけど、いないな』


 予定外に見回りが居ないと愚痴を零すように言う白を、先生をはじめメンバーたちが「良い事じゃん」「ラッキー」などと言い励ましている。私としてもトランスパレンシーが切れない状況はありがたい。


『バフ』


 カウントが入る個別バフを入れなおすため立ち止まって貰う。個別バフだけは、めんどくさいけどバフの距離が短いため止まって貰わないと入れにくい。ボス戦なんかでは巻き込まれて死にかける事もあるので、注意が必要だ。


『ストップ! 敵影』


 バフを入れようと杖に持ち替えた所で、周囲の警戒をしていた源次から待ったがかかる。メンバー達が緊張した面持ちで息をひそめ、視線を動かす。マップを見る限り此方へ向かってきているのは三人。どうして中途半端な人数なのかは不明だが、三人なら一瞬で倒すことは可能。でも出来る事なら、このままやり過ごしたい。


『ディティクションスクロールは上がってないな。手出すなよ』


 同じ考えだったらしい白の声に、全員が頷くことで答える。近づく足音とマップの表示に誰かがゴクリと唾をのむ。通路一本分先にいる敵の動きに集中していたその時――。


 突然後方から、殻を被ったひよこのクランマークを付けた一団が通り過ぎた。そしてそのまま戦闘に入るぴよとSGの三人。どうみても、人数的にぴよの圧勝である。そのまま突き進むぴよをしばし無言で見送った。


『は? は? なんだあれ!』


 気の抜けた声を出す白の気持ちが、嫌と言うほど理解できてしまった。

 全てを見なかった事にしてバフを入れる私を他所に、苦笑いの先生が「まー、そういう事もあるよ。ついてたと思おう」と白の肩を叩き先をへと促す。

 バフを入れるために解除されたトランスパレンシーを入れ直し、続きの間を目指した。


 突如現れたぴよのおかげか、私たちが進んだ道に敵影はなく。スムーズに続きの間へ到着してしまう。私の考えでは、もう少し時間がかかりSGの同盟クランとの乱戦を期待していた。が、そこにいるはずの人たちが未だ到着していない……。


『予想外にすくねーな』

『だな……』

『これにカリエンテは勿体ない。バリアの無駄遣いだからしばらく様子見るぞ』

『k』


 予定ではここで、突入と同時に乱戦に持ち込みカリエンテを呼び出すはずだった。けれど現実は、パラパラと二PTほどのプレイヤーがいるだけ。そんな少ない人数にカリエンテを使う気にはなれず、そのまま紛れる方向で動く。


 緊張感の欠片もない攻城戦に、正直気持ちが萎えている私は白影の後方にローブ姿で陣取った。敵方でありながら、私の存在に気付かない元クラメンに後でどうやって説教をかまそうかと考えている間に、漸くSGの同盟クランがノロノロと集まりだした。


「こいつら絶対やるきねーだろ!」とは黒の言である。実際動きの鈍さとか、やる気の無さそうな表情とかに私も含め好戦的なメンバーが言いようのない憤りを感じてしまった。


『PTメンバーが近くに居る事確認しろよー?』


 クラチャで「おー」とか「はい」とか返り白の指揮が続く。


『ren。クランマーク出していいぞ。それと同時に全員王座の間に入り込め。大和殿しんがり、合図よろ。入ったらカリエンテぶっ放してくれ』

『バリアするぜー』

『わかった』

『k』

『後は、ロゼ殺して城主奪うぞ』


 ソロソロと動きつつ王座の間に入り込むクラメンたちの動きに合わせ、キヨシ作血みどろ花魁が書かれたクランマークを表示させる。パッと現れたクランマークに、気付いた様子もない。

 指示通り大和が最後に王座の間に入り込み『入ったよ~』と呑気に合図を出すとチカが出番とばかりに二次職の杖を掲げ「バリア―」と声を張り上げた。


「イリュージョン・カリエンテ」


 王座の間、中央付近で詠唱した私を守るようにクラメン達が層を作って集まる。だが、更にそんなクラメンすら守るように巨大な赤黒い鱗を持つ四本足のドラゴンが王座の間を占拠した。


「グルゥグアアアアア」


 吠えるカリエンテの声に圧倒されてか、その出現に驚いてか、慌てふためくSGの面々とその同盟員を尻目に、カリエンテは瞳をギラつかせその足に力を込めた。鋭利な牙が並ぶ口を大きく開いたカリエンテは、容赦なくその場に居た全てを燃やし尽くす。

 赤黒い炎が辺りを埋め尽くしたかと思えば、システム欄には大量の死亡ログと【 クランBloodthirsty Fairyがデメテル城の城主となりました。 】と言うなんの感慨もない簡潔なログが……。


「えげつなっ!」

「ロゼも漏れなく巻き込まれてたわけね」

「南無」

「なんだろうな。こんなんで殺されたロゼが哀れに思えて来たわ」


 カリエンテが粒子となり別世界へ帰って行った後、続きの間や王座の間を知らべ終えたメンバー達が零した白チャがこれだった。


『ほら、お前ら防衛するぞー』

『多分ここから躍起になって攻めてくるから、行けそうなら各マスター優先で遊撃に出て殺してくれ』

『了解でござる』


 先生の声にハッと王座の間の入口で壁を作り出す面々に、もう一発イリュージョンをお見舞いしてやりたい気分になるも攻城戦中だからと言う理由で見逃すことにする。

 続きの間から、宗之助、ミツルギさん、風牙、春日丸が飛び出し滴陣営の動きを探りに向かう。


『気を付けて行って来いよ!』そう言って送り出す白と今後の動きについて話し合う。


[[白聖] んー。ぶっちゃけ攻城戦の時間がまだ三十分以上

    残ってる状態で城主になったから

    どうすりゃいいのかわっかんねー]

[[大次郎先生] まーとりあえずは、ロゼたちの方が纏まってきたら

       イリュージョンで叩き潰して貰うでいいんじゃない?]

[[キヨシ] 鬼だ。鬼が居るぞ!]

[[ren] 試したいのあるし私は問題ない]

[[†元親†] え? renって、いくつイリュージョン持ってんだよー?]

[[ティタ] 聞いちゃダメだって]


 こんな感じのやり取りでイリュージョンを使う許可が下りた。だが、その後「でも、残り二回だな」と言う白の一言で、残り回数が決定されてしまう。そのため黒か大和が飛ばされた場合にのみ使用する事と言う制限が付いたのは言うまでもない。



*******



 嫌な予感が的中した。そう悟るよりも早く、街の神殿で復活した俺は急いでクラメン達と共にデメテル城へと向かう。

 向かう間に白影たちにクラチャでBFの存在があったかどうかを確認する。見る限り、そう言った影はなかったように思うが、俺がチャットにかかりきりになっていた為に見落としていただけかもしれない。


[[ロゼ] 間違いなくアレはrenのイリュージョンだ。

    怪しい奴ら見た奴いないか?]

[[柊] 続きの間にいたけど、見て無いです]

[[ドワルグ] 外城門はぴよ以外捕えていない]

[[白影] あいつらどうやって入ったんだ?]

[[ベルゼビュート] 内城門東が壊されてるからそこからじゃないっすかね?]

[[春の嵐] ぴよと一時的に同盟組んだとか?]


 不測の事態にクラメン達が憶測の話をする。だが、今知りたいのはそれじゃない。あいつらがどうやって王座の間に紛れ込んでいたのかだ。

 俺自身でも判らない状況なのに、同盟チャットで煩いほどに説明しろと同盟のマスターたちが言っている。そんなの俺が知るか! そう言ってやりたい気持ちを抑え込み、まずは城の奪還を目指すべく同盟チャットに文字を打ち込み始めた――。

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