第250話 最強は城主を目指す⑥

 金属を金属で叩きつける音と魔法のエフェクト、そして魔法のぶつかる音が排水口の中に居ても聞こえてくる。外で見ればさぞかし圧巻だろうそれを思い描きながら、突入のタイミングを待つ。


『あ、そうだ。ren。クランマークの表示オフで頼む』

『k』


 思い出したように言い出す白の言葉に従って、クランマークの表示をオフにした。するとクラメン達の名前の上に在ったキヨシ作の血みどろなアレが消える。

 クラチャでなんでクランマークを消すのか理解出来ていないらしいキヨシが、折角作ったのにとぶー垂れた。


『見慣れないクランマーク付けてると敵だと速攻でバレるけど、人数多い上にクランマークの表示消しとけばバレ難いんだよ』


 指揮を執る白なりに考えた作戦だ。卑怯と言われればそうだが、この作戦は使える。

 実際問題、百~二百人の敵対が居る中に紛れて城外門を潜る事になる私たちは、その十分の一ほどしか人数が居ないそんな中で、クランマークを表示していれば必ず目につく。結果、囲まれ個々に殲滅されるのがオチだ。


『行くぞ。出来る限りPTごとに纏まって動け、絶対一人になるなよ。迷ったらフラグベースまで戻れ!』


 白の声に全員が頷き、トランスパレンシーを入れると同時に動き出す。逸るように鼓動が早鐘を打つ。排水口から覗き見る外ではちょうどディティクションスクロールが打ち上げられた。それが消えるのを待ち、排水口から這い出ると周囲を警戒するように見回す。見張りはいないし、全員が城外門の方に集中しているように見えた。


『走れ、ディティクション来る前に敵陣に入るぞ!』


 時間にして数分しかない絶好のタイミングに、白の声が自然と大きくなる。黒を先頭に、走り始めたメンバーたちと一緒に私も走る。


『人ごみに紛れたら、次、打ちあがる前に装備変えろよ』


 白の指示は短い。それは指揮官として褒めるべきところ。と言うのも、事前にどこでどういう風に動くかについて、指揮をする白と先生、私と宮ネェ、さゆたん、黒で既に意思疎通が済んでいるからだ。

 

 城外門が壊れる前の段階で、敵方に混じるべきと進言したのはさゆたんだった。


「城外門が壊れると同盟は、一気に中に入るでしゅよね? でも、ロゼのクランメンは城主クランだから攻撃とかには参加できないはずで、そのまま残るはずでしゅよね?」

「確かに、城主クランは持ち城に攻撃できないからな」

「城外門が開いた状態でディティクションの回数が一定は無いと思うでしゅよ? だから、紛れるなら開く直前が良いと思うでしゅよ」


 そう力説されれば納得するしかない。


『開くぞ!』


 敵方に周囲を囲まれながら、白の声に顔を上げる。

 外城門は、百人近いプレイヤーたちの魔法や打撃でボロボロだ。そうして間もなく、鈍い銀色の扉は所々穴が開き、大きく傾きガコガコンと音を立てて崩れた。


『突入!』

『西の門』

『西から裏に回って、東に行く』


 間髪おかず打ちあがるディティクションスクロールの光を背に、私たちは西の内城門へ走る。内城門は鋼鉄製の扉で出来た外城門とは違い、木造りの扉なので硬さはさほどないためうち単体でも容易に崩せるはず! 仕様が変わっていなければ……。


 東の内城門を突破して入り込む予定なのに、西へ向かって走るのは外門の上に陣取ったSGのクラメンたちに見つからないようにするためだ。

 攻め入る黒星、暁、フィスタルトに紛れるように中庭らしき場所を抜けた。


『背後に紛れて止まれ。ren、タイミング見てトランスパレンシー』

『k』


 白の声に、先頭を走る黒が速度を緩める。後方陣取るよう囲んでいる敵方の回復職に紛れ立ち止まった。紛れている私からすれば、明らかに違和感しかないローブ集団なのだが……。誰も私たちには気を留めないのか、こちらを向く素振りすらない。


 これもまた事前の話し合いで決まった事のひとつだ。黒、ティタ、源次、白の装備は嫌でも目立つ。多分と言うか間違いなく私たちと付き合いが深いロゼたちに見られれば確実に、バレる危険性もあった。


 頭を悩ませていたその問題を解決したのが、先生の「ローブの装備がいいんじゃないか?」と言う発言である。リスクがないわけではないが、初見でバレるよりいいだろうと採用された。

 そんな訳で、今は全員がローブ姿だ。

 ローフの提供は、自分たちも参加したいけれど、戦力にはなれなくて……と申し訳なさそうにする小春ちゃんと二丁目が全面協力してくれている。

 

 ディティクションスクロールが一定時間である事を目視で確認し終えた私は『次』と、次回ディティクションスクロールが放り投げられた後にトランスパレンシーを入れる事を宣言した。

 それから三分後、右側に陣取った一段からディティクションの光が昇り、弾ける。パラパラと降り注ぐ白いエフェクトが消え、トランスパレンシーを入れた。


『GOGO!』


 クラメンたちが一目散に城の裏側へ駆け込み、東奥の内城門を目指す。周囲の警戒は、宗之助たち暗殺者と聖劉がやっているので大丈夫だろう。城の裏を通過して、東の内城門へと辿りつくと手はず通りベルゼと大和が、それぞれ少し離れた位置でディティクションスクロールを放り投げた。


『南、敵影無し』

『北も無し』

『城壁上も無し』

『うんじゃま、やるか』


 ニヤっと笑った黒の声に合わせ、全員がローブからメイン装備に着替える。その間に、再びトランスパレンシーを入れた。

 攻撃すれば解除されてしまうトランスパレンシーを再び入れたのには訳がある。攻撃職や盾は、一度、二度の攻撃を食らった程度では死ぬ事はない。だが、メインがローブ装備の回復であり、HPよりMPが多い宮ネェとチカはそうも言ってられないのだ。


『黒、大和硬さどう?』


 私たちが攻城戦をやっていたのは、攻城戦のアップデートがあった時期だけでそれ以降は参加していない。そのためここにいる誰もが、その仕様の変更があったかどうかわからない。

 白の質問にクラチャで「柔くなってる?」「それ、多分装備のせいじゃない?」「ていうか、城の防御に金かけてないんじゃねーの?」などなど好き勝手に話すクラメンたち。

 そんな彼らが攻撃をしている内城門を見れば、その柔らかさが判りやすく露呈していた。



*******



「嫌な予感がする」そう言ったロゼは、王座の間で他の同盟のマスターたちと同盟チャットで進行具合の確認をしている。ロゼの嫌な予感に該当する案件と言えば、まぁ、間違いなく先生のあの「…………なぁ、renうちも戦争参加してみない?」って言う発言のせいだろう。

 流石に今回、うちに来ることはないと思う………………多分。絶対と言い切れない自分に、ガシガシと頭を掻く。


「白影さん」

「ん?」

「どうかしたんですか?」


 心配そうに覗き込むのは、ティタ信者になりつつある柊と黒のギャップに燃えているらしいふうたんだ。二人に何でもないと返そうとした刹那――。

 俺の背筋にゾクっとした悪寒が走り、ニッコリと黒い笑顔を浮かべた元クラメンたちが脳裏に浮かんだ。 

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