第249話 最強は城主を目指す⑤

 攻城戦が始まってから既に三十分。

 すぐに動きがあるわけではないとは思っていたが、こうして排水口にとどまるしかない状況に戦闘狂であるクラメンたちがイラついているような気がする。特に指揮をする白はそれが顕著けんちょに表れていた。

 それでも今は動いてはダメだと分かっているので、大人しくクラチャで愚痴を言っている程度だ。


『南西の鍾乳洞に黒星くろぼしフラグベース、人数は40人前後ってとこでござる』

『南西崖上、城壁直ぐにぴよ15人』

『北の方には敵影全くなしっす』

『集中してるのは、南西側だな』

『「わかった。フィスタルト、あかつきその、月下の花のフラグベースわかったら教えてくれ。ただし、絶対悟られるなよ。ミツルギと春日丸は南西の人数を出来るだけ把握してくれ」』


 ディティクションスクロールのタイミングを計りながら待機場所に戻ってきた風牙、宗之助、ミツルギさん、春日丸に指示を出す白を尻目に、バフの更新をかける。

 トランスパレンシーを入れたところで、再び散っていく四人に心の中で頑張れと応援を送っておいた。


『動くならいつぐらいだと思う?』

『扉破壊含めれば、ラスト30分の一発勝負で来そう』


 攻めるに攻められない状態が続き、白自身も焦れているのか敵方のタイミングについて皆の意見を聞いてくる。クラメンたちの会話を見る限り、先生と同じラスト三十分の出たとこ勝負を仕掛けるのではないかと言う意見が大半を占めた。


 確かにと納得できる意見ではあるが、私の知るロゼではあり得ない。ロゼのあの几帳面――潔癖ともいうけど――な性格からして、とれるかどうかの時間に突入させるとは考えられなかった。


 なら、いつ交代をするのか? 考えろ。読み間違えば出し抜けなくなる。

 余裕のある戦力。今の配置、ぴよと月下の花と言うクランの存在。そして、うちが狙っているかもしれないと言う焦り。そこから導き出される答えは――。


『ラスト1時間前には動く』

『理由は?』

『確証はないけど、出たとこ勝負はしない。だって今回、うちが戦争に参加することをロゼと白影は知ってるから。なら、自分のところに来る可能性も、もちろん考えてるはずだよね?』

『確かに』

『ロゼの性格は潔癖だから、後でグダグダ文句言われる事が無いように今回だけは同盟のクランに確実に取らせたいと考えると思う』

『…………なるほどな。うちが来ると分かっていて、ギリギリにはしねーよな。取られたら取り返す時間がいる。だから一時間前か』

『そう』


 私が言いたいことを理解し、納得してくれたらしい白が引き継ぐように言葉を紡ぐ。それに同意しながら先生たちの方を見回せば、皆も納得顔で頷いていた。

 そこへ地下から外の様子を伺っていたミツルギさんが、音もなく戻ってきたかと思うと一報を入れた。


『人数的に多分、フィスタルトだと思うっすけど、南から結構な数が外門に集結してるっす』

『「わかった。時間的に一度全員戻ってくれ」』


 予想より早い段階で、SGの同盟クランが移動して外門を占拠しているらしい。

 まぁ、他所を今から自分たちが攻撃して開ける門側に置きたくないと考えての行動だろうと予想する。


『こっちからも確認した。外門フィスだ。その周りに黒星、暁も数人見える』


 フィスタルトを囲む形で、他の同盟クランが人員を配置してると報告を上げた春日丸に白はそのまま監視してくれと言い置く。


 人数的に最大はSGだが、それに次ぐ人数を誇るのはフィスタルトだ。外門や内門は、その手数の多さで崩れるため主力にフィスタルトを。うちみたいなのに邪魔されないよう除外または牽制するために他クランを周囲に配置したのだろう。


 ロゼ達の同盟がどう動くのか、何を考えているのかを頭の中で予想している間に、偵察組の四人が戻る。


『「ある程度はわかったから、四人ともフラグベース探す方に回ってくれ」』

『拙者とミツルギで南を探るでござる』

『うんじゃ、俺と春日丸は南東の森に行くか』

『「あぁ、そうだ。もし、ら、。壊せれば上出来、ダメでも気にしなくていい」』


 再びトランスパレンシーとバフを入れ直したタイミングで、白がフラグベースの攻撃を指示する。

 待てよ? 今の時点でフラグベース攻撃は危険すぎるのではないだろうか? フラグベースは一度でも攻撃を入れれば、その時点で攻撃した相手の名前がフラグベース所有のクランメンバー全てにデカデカと開示される。


 そうなれば、うちがデメテルを狙っている事がばれるのでは? バレたらそれこそ、手出しができなくなってしまう。

 ロゼの事だ。うちが居ると分かった瞬間、確実に同盟で王座の間を時間ギリギリまで占拠した挙句、終了間際に城主を入れ替えるだろう。


『ああああああ、白、フラグベースの攻撃ダメ! 絶対ダメ!』

『うおぉぉ。びびった、何、どうした?』


 慌てた私の叫び声に白の肩が、大きく揺れる。後ろの方でキヨシがこけてたのは見なかったことにしておく。


『相手が、門開けてからならいいけど、現時点でうちがデメテルに参加してるって言うのがバレる』

『「あ! すまん。フラグベースの攻撃中止で!」』


 突然の中止に戸惑ったらしい宗之助たちがクラチャで、どうしたらいいのかを聞いている。それに答えたのは先生で『なら、そのままついでにフラグベースの場所と見張りの有無だけ、確認しておくでいいんじゃないか?』と、後々の作戦に生かせるような助言をしていた。

 その助言が生きるかどうかは微妙だけれど……。


 宗之助たち四人が、敵方のフラグベースの場所を確認し終えて戻ってくる。そのタイミングで時間を見れば、残り一時間ニ十分。これは何かしら時間つぶしを考えないとなんて思いながら報告を聞いた。


 フィスタルト、暁の園は黒星と同じ場所に建てているらしく、見張りがいたらしい。できれば別々に建てていて欲しかったと言うのが本音だ。

 そして、月下の花に関しては一応こちらに参加表明を出しておいたと言う体で、どうやら本体はアテナの方で同盟クランと一緒に攻城戦に参加しているらしい。


『ぴよと月下の花は除外していいな。でー』


 人数的に少ないぴよとアテナで動いている月下の花は、脅威にならないと判断して除外する。除外とは殺さないと言う意味ではなく、ただ敵方の数に数えないだけであり、仕掛けけられたり、見かけたりすれば遠慮なく嬉々として屠るほふる予定だ。


 『、遊撃の四人にはフラグベース潰して貰う。壁に余裕があるなら、ティタたちにも出て貰って一気に潰したいとこだけど、どう?』


 一気に潰す案には賛成だが、まず城主にならなければいけない前提がある。なれなくはないとは思っていても、確実性がないため答えようがなかった。


 会話が途切れた刹那――突如として、地面が激しく揺れ、ディティクションスクロールを掻い潜り、敵方の動きを探っていた風牙の緊迫した声があがった――。


『動いた! フィスタルト先行。扉破壊開始。他は護衛』

『「全員、装備再確認。扉が破られて突入するのに合わせて紛れて入るぞ!」』

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