第247話 最強は城主を目指す③

 戦争前日の二十一時になろうかと言うところでデメテル戦に参加するため、デメテルの城を訪れた。攻城戦が始まる二十四時間前に申請を出しておかないと、攻城戦に参加させてもらえないのだ。参加申請を出すことができるのは、クランマスターのみで何故か手数料に15Mも徴収される。

 時間ギリギリに来たのは、直前まで参加を知られたくなかったため。〆切ってさえしまえば参加クランは城主にすらわからない。と言う訳で、トランスパレンシーを使ってみたり……。


 同日二十二時、クラメン全員がログインした頃合いを見計らって、明日行われる予定の攻城戦の作戦会議をする。場所はいつもと同じ、クランハウスの会議室だ。

 座る面々を見回して先生が詳細を話した。全ての説明が終わり質問タイムに入れば、それまで黙って聞いていた春日丸が珍しく手を挙げた。


「戦争開始そうそうに攻めるのか?」


 攻め入るタイミングを確認したかったらしい彼の発言を受けて、先生が少し思案顔になる。


「うちとしては、城主交換するためにある程度門を破って貰ってから突入したい」

「確かに、門破って貰わないとだね~。あればっかりは人数ゴリ押しだから、うちじゃきつい」

「ってことは、奴らを先行させて、続きの間辺りで乱戦突入する感じか?」

「あぁ」


 補足するように発言したのは今回の指揮を担当させられることになった白だ。いまだに嫌そうな表情をしていることから、本当に嫌なのだろう。あの先生の発言――宮ネェお手製ロシアン――を受けて、断れる人はいない。それでも、やると決めたからには頑張って貰いたいところ。


「道順はどうすんだ?」

「奴らがどのルート進むかはわからないから、そこは当日に臨機応変で」

「当日か~。うちとロゼのとこ以外はどこかあった?」

「さっき申請次いでに見たけど、参加クランはロゼのとこ、その同盟の三クラン、他に二つとうち」

「他のふたつはどこ?」

「ぴよ、月下の花」

「聞いたことないでしゅ」


 黒の質問に先生が答え、ティタが聞き返し、私が先生の代わりに答えて、さゆたんが〆た。


「やり方は、昔と一緒なんだろ?」

 そう聞いたのは鉄男だ。


「基本は変わらないかな。ただ、かく乱目的の遊撃で、宗之助、ミツルギ、源次、春日丸には出て貰うから、その分のPOT用意しといて」

「了解でござる」

「俺生きれるっすかね?」

「わーった」

「おう」


 嬉しそうに笑う宗之助と源次。それとは対照的にミツルギさんは少し不安そうな顔をする。その横で、静かに腰に置いた短剣を撫でた春日丸。

 四人それぞれの反応は悪くない。


「他に、なんか質問ない?」

「フラグベースは置くんだよね?」

「うん。サブマスまでは立てられるから、私、先生、宮ネェの三人が三つずつ持つよ」

「りょ~かい~」


 先生の声に大和が質問して来る。それには私が答え事なきを得た。


「なぁ、回復が足りない気がするんだけど?」

「あー」


 チカの言葉はもっともだと思う。だが、うちのクランは何故か攻撃職しか入ってこない。そこを補うように、何人か回復職のサブを持ってはいる。けれど今回は、それに回すほど人数に余裕がない。と言う訳で、諦めて頑張って貰うしかないと先生と二人切り捨てた。


 気付かれないようにチカと視線を合わせないため窓の外に視線を向ける。先生もまた明らかに視線を逸らし言葉を濁した。

 そして、流れるのは沈黙――。


「……キ、……KIAI?」


 たまらずと言った具合に先生が声を発したかと思えば、ローマ字表記したくなるような言葉遣いに溌剌とした笑顔&ガッツポーズを作った。


「は?」と、惚けた声をだしたチカは、そのまま周囲へ不安げに視線を回す。そのやり取りを見守っていた他の面々は。必死に声を殺し肩を揺らす。そうして、相変わらずうちの会議は、しまらないまま終わった――。


*******


 翌日――戦争当日。気合いを入れて戦争開始時間の二時間前の十九時にログインすれば、既に全員がログインを済ませ武具、POTなどの補充を済ませ準備万端の状態だった。

 気合入れすぎじゃない? とは思いながらも私も戦争に向け準備を始める。


 病ゲーでの攻城戦は、隔週の金、土、日の三日間のうち前回攻城戦で城主になったクランが設定した曜日で開催される。今回はロゼの設定で、土曜日だった。

 基本的な時間は、二十一時開始の二十三時半終了。終了時点で城主だったクランがそのまま二週間の間城主となる。


 漁夫の利を狙うなら、二十三時前後で動くのが一番いいのだが、SGの同盟相手ではそう簡単に狙えそうにない。そこで、相手が城主を移行させる隙を狙うため、戦争前から準備を整えいつでも行けるようにすることにしていた。


 クランハウスの執事に話しかけて、クラン倉庫を漁る。

 確かこの中に……。そう思いながらクラン倉庫内の一覧を見ていた私は、探していたフラグベースを見つけ、取り出した。

 殲滅の破壊者の頃の使い残しであり、今もNPCで普通に買える攻城戦専用のアイテムだ。


「ren。何してんだ?」


 名前を呼ばれて振り向けば、羽織装備を着込んだ村雨が立っていた。相変わらず、武士と言った着物を好む村雨らしい装備ではある。


「フラグベース探してた」

「あぁ、そう言えばそんなのもあったなー」

「うん。戦争中は参加メンバーに限り転移移動使えなくなるし、間違えてハウス復活する人が出ないとも限らないから」

「あー、頭に血が上って復活するときに間違うやついたなー。キヅナとかキヅナとかキヅナとか」

「それ、キヅナしかいない」

「確かにw」


 二人でクスリと笑い合い、POTの補充を済ませてリビングへ移動する。


 フラグベースと言うアイテムは、攻城戦が行われる城から半径五キロ以内であればどこ――城内は除外されている――にでも設置出来る。所謂、戦争中の仮のクランハウスのようなものだ。ただし、戦争中の拠点となるため、敵に見つかり破壊されてしまえばその効果は消える。


 フラグベースを建てて出来る事は、補給、転移、後は軽ーいバフの付与のみ。たったこれだけなの? と思われるかもしれないけれど、戦争中であれば転移と補給が出来るだけで、大分時間的に節約できる。


 ゲーム内で死亡した場合、基本復活は神殿になってしまう。この仕様に関しては戦争中も同様の扱いになるのだが、クランハウスを持つクランのメンバーに限り、死亡した街の神殿もしくはクランハウスが選択できる。


 戦争中に死んで間違ってクランハウスを選択するメンバーが出た場合、うちのクランハウスはヘラなので、ヘラからデメテルへの移動が徒歩もしくは騎乗用ペットしかなくなってしまう。

 そこで活躍するのがフラグベース! このアイテムは、建ててさえおけばハウスもしくは転移の陣から設置した場所へ無料で移動できるようになるのだ。壊されてさえいなければ! 


「どうした? 二人とも笑って」


 リビングに入るなり先生が声をかけてくる。それに村雨が「フラグベースの話からキヅナの話になって」と、答えれば、あぁ~と言わんばかりの表情で先生も笑う。

 懐かしい話に花を咲かせ、戦争開始を待った――。

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