第246話 最強は城主を目指す②

 先生の戦争参加発言から三日が経ち、無事四次職になった私は新しい固有の魔法書を獲得するため反復クエストを永遠とやりながら日々を過ごしていた。

 四次職になって変わった事と言えば、職名とLvとHP、MPが増えただけ…………。


 戦争に参加すると知ったクラメンたちは、本番に向けて各々が必要とする装備の強化――大半は何も残さずきえるだろうが――などをしているようだ。そのためクラン資金をあてにした借金の申し込みが多いのだけれど、どうしたものか……。


 私はと言えば、発注していたウルの専用ベットを小春ちゃんから受け取り、現在は部屋の模様替えをしている。

 ベットの位置が真ん中だから使いにくいのかとベットを端に寄せ、ベットから中央にかけ深めのラグマットを敷いた。一つの部屋を本棚で二部屋に分割しているため私が行き来する場所から、少し離れたガラス戸――キヨシの秘密基地側にウル専用のベットを置く。

 ベットを動かしたことにより隙間が空いたスペースには、今度棚を買って来るとして今は隙間を埋めるように使わない装備を置いた。


「よし。これでいいかな」


 片付けが下手な自分なりに納得しつつウルを呼び出し、愛でる。私の幸せを奪うように――時間通りに部屋を訪れた先生を迎え入れた。

 先生が来たため可愛いウルの深い毛――モフモフに包まれ寝てしまいたいと言う願望に抗い、ウルを帰還させる。


「……なんか、すまん」

「……うん」


 視線を逸らし気まずそうに謝った先生がソファーに腰を下ろす。それに答えつつ私もソファーへ座れば、表情を引締めた先生との話し合いが始まった。


「それで、戦争についてなんだけど」

「先生的にはどこ落としたいの?」

「そうだなー。まぁ、欲を言えばロゼたちの持ち城のデメテル」


 ある程度予測はしていた。デメテル、もしくはミューズを示すのではないかと。

 私が二択に絞った理由は、デメテルは現在ロゼのクランSGが城主であり、次回城主クランを変更するためうちの人数でも余裕で隙が狙える。

 一方のミューズは、他の城と違い、城門から王座の間までの道が一本しかない。そのため少人数だろうがそこさえ塞いでしまえば、うちでも勝機があるのだ。


「デメテルだと、本当に隙を狙って、城主になったら城外門防衛か王座の間の扉で防衛するしかないよ? 人数的にうちだとそれが限界だと思う」


 全てを把握できているわけではないがデメテル城の構造を思い出しつつ、私なりに勝てる方法を模索して伝える。


 デメテル城は、城外門から中に入れば城内には東、南、北の三方向から侵入できる。道順は色々あるが最終的には続きの間ですべての通路が合流してしまう。

 人数が多ければ続きの間での防衛もありだとは思うが、現状三PT弱しかいないうちでは到底防衛できない。

 更にもう一つ、戦争中に死亡し復帰する場合、王座の間もしくは外門の二択することが選択できのだ。


「王座の間の一個手前に部屋があるだろ? あそこで待ち伏せるのは厳しい?」

「あそこだと上から狙撃されるから、人数居ないと直ぐ全滅するし、扉突破されると思う」

「あぁ、そうか。テラスから回り込めるのか! 失念してた」

「おふっ。防衛するなら王座の間の方がやり易い。復帰しやすいし」


 先生の案を却下しつつ、私は個人的に王座の間を押す。

 扉を破られ侵入されれば痛いが、王座の間の扉なら外門に比べ半分以下の人数しか入れなくなる。それに復帰する場所が選べると言うゲーム内の仕様を最大限利用するには王座の間での戦闘が一番だと考えた。


「まぁ、確かに城外門だと人数的に前衛以外も並ばないと埋めれないしな。復帰した直後に死亡もあり得るな。それに比べたら王座の間の方が防衛しやすいし、良いだろうな。黒、大和、私、鉄男を配置して、その後ろにティタ、風牙、ミツルギ、宗之助、源次、ベルゼあたりをおけば、厚みはでるな」

「ミツルギさんと宗之助、源次あたりはいざって時の遊撃に出てもらうべき」

「紙に遊撃させるの厳しいだろ?」

「紙だけど回避は高いから、Lv差さえあれば一撃で潰せる。それに回復が届く範囲であれば暗殺者ほど強いのはいないよ?」

「確かにそうだが……うーん」


 デメテルを落とす事で決定したようだ。ここは先生の希望なので問題はない。

 次は配置についてなのだが、先生的にはやはり全員が中で攻撃をすると言う形を取りたいらしい。けれど、黒たち盾が死んだ場合の復帰がし難くなるし、隙間が出来た瞬間中に入られることも考えられる。更に言えば、折角の暗殺者が死んでしまう気がした。と言う訳で、遊撃と言う形で外をかく乱させてはどうかと進言してみる。

 先生も悩んでるようだし、ここは最後のダメ押しをしてみよう。


「それにいざとなれば、イリュージョンで全員、叩き潰せばいい」

「ちょ、それは……いや待てよ? ren以外が死んでも別にマスターrenだからいいのか! ありだな。と言うかイリュージョンは戦争でも使えるのか?」

「試したことはないけど、トーナメントで使えるし、対人の使用禁止は出てないからいけるはず」


 基本的に対人もしくは戦争に対して使用できないスキルは、スキル説明欄に記される。今、見直してもイリュージョンのスキル欄には、その事が書かれていないので問題ないだろう。

 

「なら、しょっぱなイリュージョンで相手叩き潰して城主になって、そこからは王座の間で防衛。相手が続きの間にちまちま来る間は暗殺者は遊撃、他はMP温存気味で黒と大和、私、鉄男が扉を塞ぐ。隙間が出来そうな中央寄りにティタと源次、ベルゼを配置。他は都度、壁に隠れながら攻撃をやりすごしつつ、状況見て再度イリュージョンでok?」

「それでいい。村雨も春日丸も今回は来れるって言ってたから、全員が参加するし厚みは遊撃出しても変わらないんじゃない?」

「春日丸と村雨来るなら、何とか二層はできるし大丈夫だろう。指揮はどうする?」

「先生と宮ネェは余裕ないだろうし、今回はさゆたんか白、聖劉あたりで」

「了解。後は臨機応変に動いて、時間一杯やり過ごすしかないな」

「うん」

「わかった。とりあえずその方針で、宮とさゆに話しておく。さゆが嫌がったら、宮のロシアンで決めさせよう」

「よろ……ぇ?」


 最終確認が終わり、不穏な言葉を残して先生が私室をでていく。それを見送りながらどうか、指揮を三人のうちの誰かがやってくれますようにと祈る。流石に宮ネェのアレはもう食べたくない! 

 逃げるようにクランハウスを飛び出し、今日もまた反復クエストの狩りに行くため倉庫に向かい準備を始めた。

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