第235話 最強はイベントに励む⑮

 手持ちのゲッターサークルスクが無くなったところで補給をするため一度目の狩りを終わらせた。補給が済み二度目の狩りに行く際クラチャで声をかけたのだけれど誰も反応を返さなかったのでまたもロゼを入れたSGのメンバーと狩りに行く。

 二度目のメンバーも同様のメンバーだったと言っておく……。


 長い長い二度目の狩りが終わり付き合って貰ったお礼を伝え別れた。弓の性能などを知ったロゼが買うと言うので、相場より150M安い600Mで販売。取引が終わり、それぞれのクランハウスへ戻るのかと思いきや。

 クラメンに先に戻ってくれと伝えたロゼが一緒にクランハウスへ来る事に?

 …………嫌な予感しかしないのは気のせい?


「はぁ……なんか疲れた気がする」

「……まさか、あそこまでうちのクラメンが、酷いとは思わなかった」

「いや、まぁ、アレは仕方ないんじゃないの~? だって初めてだったわけでしょ~?」

「二度目だがな…………ぶっちゃけ俺の中では、まだできると思ってた」


 クランハウスのリビングに置かれたソファーに身体ごとダイブしたティタがクッションに顔を擦り付けながら息を吐き出す。ソファーに腰掛け膝に両肘を乗せ眉間を揉むロゼ。

 二人の会話を聞く限り、直ぐにどうこう出来る事ではないし、慣れと時間が解決するだろうに……と思わなくもない。ロゼの性格が真面目な潔癖だから、今すぐどうにかできないとダメなのだと考えていそうだ。


 二人の会話を聞きながら私もまたソファーへと座り、ヒガキさん特性のキャラメルラテを飲み一息ついた。私が持ったカップに視線を向けたまま面に座ていたロゼは当然のように「ren、俺にもコーヒーくれ」と要求する。その様子を見てティタが肩を揺らしクスクス笑う。


 無言でロゼの前にコーヒーを置き、ついでにティタにもメガ盛りイチゴミルクシェイクを置いてみた。甘い飲み物があまり得意ではないティタが私へジト目を向けるのでニッコリ微笑み、笑った罰を与えておいた。


「あれ? なんでロゼがうちにいるの?」


 そう声をかけリビングにやってきたのは先生だ。清々しい笑顔を見せた事から露店の外装的な部分をいじくり倒して帰って来たらしいと直感的に思った。


「邪魔してる。ていうか、ここのクランハウス居心地よすぎだろ。俺も住みたいわ……」


 片手をヒラヒラと振り先生に答えたロゼは、くつろぎすぎではないかと言うほどふんぞり返っている。その態度はどうかとは思うけど……居心地がいいと言って貰えるのは素直に嬉しい。ロゼの部屋も用意すべきだろうか? でも、そうなると白影とか雪継とかの分も部屋が居る?


「宮ネェが拘ってるからね~。木のぬくもりが大事らしいよ? それに内装はほぼ全部、殲滅の破壊者の頃の名残りで卑弥子と雷がすごく拘った物だしね」

「あぁ、だからなんか落ち着くつーか安心すんのか! ってそうじゃなくって、先生、うちに教育しに来てくれ」


 なんて他所小言考えているとロゼが、またもやとち狂ったことを言い始める。一分は固まっていたであろう先生はあるかないか判らない首を横に倒し「は? 教育ってなんの?」と言うと空いているソファーへ腰を落ち着けた。

 アイテムボックスから取り出したヒガキさんのコーヒーを飲んだ先生は、ふは~と深く息を吐き出す。やはりヒガキさんのコーヒーは安定の旨さのようだ。


「今日な。renとティタとうちのクラメン連れて狩り行ったんだけど……ここまで違うかって言うぐらい違いを見せつけられて、流石にどうにかしないと同盟組んだ時にうちが今の同盟相手と同じ状況になるんじゃねーかなって思って」


 声音は冗談めかして言った風だが顔は真剣で、かなり真面目に考えていたらしいロゼの言い分に先生もティタも思案顔になった。


「でもさ~。それってSGだけの問題じゃないでしょー? ロゼのとこだけ教育するってなると確実に雪と小春ちゃんから苦情が来るよね?」

「苦情どころか、うちにも指導しに来いって言われそうだな」

「……まぁ、それは……ありそうだな」


 どれかだけを優遇する事はできないから諦めて? 心の中で諭しつつ会話には参加する気になれず代行の製本を始める。本当ならまた狩りにも行く予定だった。けれど、流石に六時間一人でゲッターサークルスクとデバフ、魔法を使い続けるのに疲れてしまった。


*******


「ただいまでしゅよ~。アレ? ロゼがいるでしゅ」

「お~。おけ~り。なぁ、さゆ」


 ゼンさんがログインしたことで入れ替わりに戻ったらしいさゆたんが狩りから帰って来るとリビングに顔を出す。その声に顔を上げれば、既にティタに出した嫌がらせのメガ盛りイチゴミルクシェイクは飲み干されていた。


「なんでしゅか?」

「うちの魔法職を鍛える手伝いしてくんない?」

「どういうことでしゅか?」

「何度も言うとアレだけど、魔法職の動きって言うものが正直うちの魔法職たちにはわかってないと思うんだわ」

「あぁ~。ロゼのとこは固定砲台ばっかりでしゅしね」

「え? そこ?」

「あれ? そういう意味じゃなかったでしゅか?」


 ロゼは狩りの方向で、さゆたんは対人での事だと思っているらしく二人の会話が全くかみ合っていない。そんな二人の会話を聞き流しながら、ロゼの言う教育指導が可能な状況か先生に確認の意味を込め視線を向ける。私と視線を合わせた先生は、ただ静かに瞼を下ろし首を横に振った。その意味は、不可能と言う事なのだろう。


 私なりに先生が不可能とした理由を考えてみる。

 第一にSGにうちのクラメンが出張して指導するとして、SGに所属する期間や指導時間、また攻城戦への参加の可否などをどうするつもりなのかはっきりしていない。

 第二にSGのマスターであるロゼ一人が言ったところで彼は未だ同盟の盟主であり、他の同盟参加クランの面々がどう出るのかもわからない。

 そして第三に、教える方のうま味が全くない。と言ったところではないかと推測した。


 本音を言えばめんどくさい! に限る。さっきの狩りだけでも疲れを感じたほどだし……無しかな。これが同盟を組んでいて合同ハントで~とかなら引き受けたかもしれないけど。イベント中にやる必要性は感じないかな。


「教えに行ったとして、あたくちたちのうま味がないでしゅよ?」

「うーん。そこは元クラメンの誼で……うま味とかは考えない方向で」


 珍しく気弱な表情をしたロゼが「頼む」と顔の前で手を合わせ拝む。


「イベント中は無理だよね~。だって俺達だって出来るなら身内だけで狩りしたいもん」

「でしゅよね~」

「そうだな。人数が足りないから連れてきてって頼んだ時は一緒にやるから教えるけど、自分から進んで何かを教えるとかはしたくないって言うのが本音だな」

「世の中世知辛い」

「そこは諦めるでしゅ」


 ポンポンと本音を漏らすティタ、さゆたん、先生に、希望を断たれたロゼはがっくりと項垂れた。

 いや、私の方見ても無理だよ? 私のような極度な人見知りが誰かに何かを教える事が出来ると思わないで欲しい。

 項垂れたままチラチラと私を見るロゼからスィーっと視線を逸らし出来上がった魔法書をアイテムボックスへとしまい込む。


「ren、製本、終わった?」

「うん」

「なら狩り行こう!」

「いくでしゅ!」

「いいね~。いこう!」

「よし、稼ぐか!」


 先生の声に答えると狩りに行く事で満場一致する。

 勿論そこにはロゼも含まれているためまたしてもSGのクラメンと行くことになってしまった。幸いと言うべきは、白影が今回はメンバーに含まれた事だろう。

 メンバーは私、さゆたん、ティタ、先生、ロゼ、白影。そして、未だ慣れない様子のドワルグさんと光合成さんの八人だ。


 ティタと白影の引きが安定している事と先生が自主的にゲッターサークルスクを使ってくれているため非常にやりやすく、相応の成果がが出たしドロップもうまかった。

 やはり狩りは誰か一人が負担するのではなく所属するメンバー一人一人がきちんと仕事をこなすことが重要なのだと再確認できた。


 ただ、不測の事態というべきか……狩り中にティタが例のチケットをゲットしたとポロっと漏す。するとそれを聞いた先生やさゆたん、白影から自分たちの分も出るまで付き合うよね? といい笑顔で脅された。

「流石に今日は時間も遅いし明日」と逃げるように言いおいてログアウトする。翌日ログインすると三人揃ってクランハウスのリビングで私がログインするのを待っていた。

 そんな訳でその日、なんとかボスを探し出し狩った。確実にドロップするものではない為、その時はドロップしなかった。

 ボスの周期を確認しつつ日々三度目の討伐――朝方だったのだけれど――を行い二日目にドロップする。が、その際他のメンバーにも同様にチケットの存在がバレ、結局最終日までチケットを求め奔走する事になってしまった。

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