第234話 最強はイベントに励む⑭

【 ブラッディーフェアリルクイーンを討伐しました。 】

【 昏迷の森のボス ブラッディーフェアリルクイーンから 1785640 ゼルを獲得しました。 】

【 昏迷の森のボス ブラッディーフェアリルクイーンから 地の属性の石 5個を獲得しました。】

【 昏迷の森のボス ブラッディーフェアリルクイーンから 風の属性の石 4個を獲得しました。】

【 昏迷の森のボス ブラッディーフェアリルクイーンから 火の属性の石 1個を獲得しました。】

【 昏迷の森のボス ブラッディーフェアリルクイーンから 水の属性の石 2個を獲得しました。】

【 昏迷の森のボス ブラッディーフェアリルクイーンから オリンポス・幻想峡のチケットを獲得しました。】

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 留めの一撃をロゼが入れ、ボスが黄色い粒子となって消えると同時にシステムログが流れドロップが表示される。主だったものは宝石で、チケットと属性の石は多分レアなのだろう。まとめて表示されるドロップは五十音順ではなくざっくばらんに表示されていた。

  

『ふぅー終わり~』

『うおぉぉ。オリンポスチケ出てるじゃん!』

『やった~!』

『嬉しいです~』

『お疲れ様でした。チケット出て良かったですね』


 皆が最上級のドロップに喜びを露わにハイタッチをしたり抱き合ったりしている。この行動の理由は分かりやすく、現在行われているイベントと――経験値が倍になる虹の勾玉と合わせてこのチケットを使えば他よりも早く四次職へなれるからだろう。

 冷静にそんなことを分析しつつ私は目的のチケットがアイテムボックスに入っているかを確認して安堵の息を吐き出した。


 ある程度落ち着いた所で、分配を拾った人に変更しアイテムを拾い終わったロゼがこちらに顔を向け『分配は後で良いな?』と確認を取るのに頷き、本来の目的である狩場へと向かう。


『とりあえず狩場見てから、引きの人数決めるか』

『そうだね~』

『引き俺で上手く出来ますかね?』

『まー大丈夫でしょー。無理そうならロゼと二人で行くから大丈夫』


 ボス戦とは打って変わって陽気なティタと柊さんが会話を交わす。

 大きな木がある丘の上に登りそこを拠点とすることを決める。ティタとロゼが周囲三百六十度を見渡し、互いに視線を合わせ頷き合う。私も一応確認程度で周囲を見るが問題は無さそうだ。

 とりあえず隠れているプレイヤーなどが居ないか確認するためディティクションスクロールを放り投げる。眩しいフラッシュが一瞬たかれマップを確認するが見える範囲に居るプレイヤー以外の表示はなかった。


『柊、最初はとりあえず俺の追走してね~』

『うっす』


 ティタの言葉に、嬉しそうに返事を返す柊さんはどうやらティタを師匠と定めたようで何かと言うとティタに問いかけ動きを見せて貰っていた。

 ロゼが動きティタから二メートル半ほど離れた場所に矢を一本横へ寝かせるように置いた。


『ドワルグ。これ渡しとくから矢置いた場所を中心にして使ってくれ。感覚は……そうだな5秒毎で』

『はい』

『バフ』


 個別のバフのみを更新しながらロゼの行動理由を理解する。

 慣れていない人のために矢をわざわざ置いたのか……でも、ロゼよ。私は思うんだ。モブが来たら矢一本寝かせて置いただけじゃ確実に見えなくなるぞ……と。


 行動自体は理解できるが、苦行に等しい行為だとロゼに突っ込むべきだとは思う。が、方法的には間違っていない。そんなことを悶々と考えながら矢の代わりに何か見えやすいもはないかと探している内に、ティタと柊さん、ロゼがモブを引きに行ってしまった。


 ゲッターサークルスク初心者への講座は人数が必要になる。例えばヒガキさんやゼンさんの場合は、感覚をつかむために慣れた人と同じ場所に置く様に指示を出していた。けれど今回その作戦は使えないのであきらめるしかない。


『15~』


 ティタのカウントが入る。引き役が入り込むはずの場所の手前二メートルの位置に設置型のバインド(+18)を先頭がこの位置に到着次第発動させるつもりで置く。ついでに、スローレンジ(+5)を通り道に設置したところでティタ、柊さん、ロゼがジグザグに走りながらタイミングを合わせ戻ってきた。

 三人が折り重なるようにしながら所定の位置に戻る。先頭が二メートルに差し掛かった所でバインドを発動、ついでにゲッターサークルスクを同じ位置で使う。


『ふう、結、やれ』

『ま、マスター見えない!』

『『はい(ですよ~)』』

『は?』


 そして、少しずつ後ろへずらしながらゲッターサークルスクを発動させ、後方から迫る足の遅いモブへスローレンジを発動させた。

 その間にロゼがふうたんと結さんに範囲攻撃の指示を出す。ティタ達にダメージが行かないか確認しつつ切れたゲッターサークルスクをもう一度同じ場所で四枚展開させた。


『ドワルグどうした?』

『マスター、矢見えない』

『え? 見えない? マジ? でもさっき普通に出来てたぞ?』

『何もしてない』

『え?』


 悲壮感を漂わせて俯くドワ爺――ドワグルさんがロゼの問いかけに答える。訝し気な顔で首を傾げるロゼにティタが『renが全部やったんじゃないの~?』と言うとロゼがサっとこちらを見た。


『あれだけのモブ引いたら矢一本横に寝かせた状態で見える訳ない』

『……』

『どうしたらいいですかね?』

『次から柊と二人で引くから、ロゼ残って。代わりに光合成柊に追走できる?』

『大丈夫なのか?』

『追走したことないですけど……』


 なんとかしようとティタなりに考えてくれたようで、ロゼを残して未だ不安が残る柊さんに回復が追走する形で二人で引きに行くと言ってくれたのだが。その回復が追走した事が無いと言う。手詰まり感しかない。そこで私になりに考た。


『まず、五回引くまでは柊さんにティタが、ロゼに光合成さんが追走して引き方を覚えて貰う。ついでにドワルグさんはここにスクを使って、タイミングはバインドが発動した後でいいから』


 ドワルグさんが判りやすいようにど真ん中の位置へ移動して指定する。タイミングは私のバインドに合わせて貰えばわかりやすいはず。今だ困惑顔のドワルグさんを見ながら『いい?』と確認すれば戸惑いながらも頷いてくれた。


『行くか。光合成俺の前に出るなよ? 後左右にも気をつけろ? 後回復も飛ばすな』

『戻るときは、ロゼとタイミング合わせてね』

『はい』

『了解です!』


 気合十分走り出した柊さんとロゼが丘を駆け下りていく。そんな四人を見ながらふーっと息を吐き出し次の引きを待った――。


 五回目の引きが終わり、倒されたモブが黄色い粒子になって消えて行く。何度か危ない場面がありながら、それなりに引きが出来ているため問題ないだろうと判断を下す。

 最終的にはティタとロゼの判断次第だと二人へ視線を投げれば、二人ともふっと表情を緩め笑った。


『次からは柊に光合成が追走な。無理して引く必要はないからな?』

『はい』

『緊張するー』

『あはは。大丈夫だよ~慣れれば楽な仕事だから~』


 力みすぎは良くないよ~と言いながらティタが肩の力を抜くよう柊さんの肩を叩き走り出す。それを追いかけるようにして初めてのお使いへ走り出す二人を私とロゼは見送った。

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