第233話 最強はイベントに励む⑬
ロゼの状況を見ながらボスに斬りかかり雑魚を呼び戻す。何度となくそれを繰り返し漸くボスのHPが残り二割になった。
『そろそろだよね?』
『あ~もうそんな頃合いか。死んだら復活でいいんだよな?』
『ここからが正念場ですね~』
ティタの声が僅かに緊張しているように思う。ロゼは弓に矢を番えたまま私へ視線を向ける。それに頷き返しアンチダークネス――三次職バッファーのスキル。闇耐性を10%だけ引き上げてくれる――バフを全員に追加した。
無いよりはマシ程度の効果しかないけど……一応保険で入れてみた。
バフを追加し終わり再びボスへ斬りつける。そこで二割を切ったらしいボスは『ぎゅぎゃひょぅおおおお』などと言う叫び声をあげ旋回を始めた。
『ちょ、こわっ!』
『笑かすな』
『いや、これはキモイと言うよりも怖いでしょー?』
『ぶふっ』
旋回を終えたボスを見たティタの本音にクスっと笑ってしまう。実際に見た私も怖いと思う。ボサボサの頭に真黒な肌。赤い瞳が異様に目立ち、口裂け女よろしく避けた口にはギザギザの尖った歯が幾本も並んでいる。
そんなボスを前にティタとロゼが冗談めかして掛け合う。それを聞いた他に面々が吹き出してしまうのは仕方がない。
『闇と聖も動き出すから注意。そう言えば聖って何するの?』
気持ちを引き締めるために声をかける。ついでとばかりに疑問に思っていたことを口に出せばふうたんが『ボスと周りの妖精を回復しますぅ~』と返してきた。ボスだけならまだしも周囲の雑魚と言うか……群れまで回復するとは……。予想の更に上をいく回答にがっくりと項垂れた。
『回復ってどれぐらいの頻度なの? 結構やばくない?』
ティタの焦る声に頭をあげる。すると困り顔のティタと目が合い肩を竦められた。
『えっと、回復頻度はそんなに高くないです。五分から十分に一回ぐらいですよ~。危険なのは闇です~。動き出したら直ぐに範囲来るので気を付けてくださいぃ~』
『光合成! バリア準備!』
おっとりとしたふうたんが思い出したかのように闇のフェアリーについて言葉を付けたす。間髪おかずロゼが指示を出し一気に緊張が高まった。
ふうたんの言う聖のフェアリーの回復ディレイ時間が約五分から十分の間であるならば最短の五分だと考えておくべきだろう。
闇については動き出した直後にくると言う事が判っただけでもありがたい。そのディレイは不明。判らないものは仕方がないと都度都度でやっていく事にしてボスへの攻撃を再開した。
左の上段袈裟斬りから、右手で横一線へと薙ぎ払う。更に右下からの斬り上げ唾返しを繰り出す。四回切った程度じゃ0.01%も㏋は削れていないが……。
『なぁ……何時来るんだ?』
『これってさー、他の取り巻きと同じ動きしてるよね?』
『あれー? おかしいですねぇ~?』
ロゼ、ティタ、ふうたんの困惑した声が聞こえた。斬りつけたボスから距離を取りティタ達の視線を追う。するとそこには他の取り巻きフェアリーと一緒にロゼへと迫る聖と闇のフェアリーが……。
ん? ボスの周囲にとどまっているはずじゃ……ないの?
『あー。えーっと、とりあえず呼び戻してくれ?』
弓を持ったまま右往左往するロゼが黙って見つめる私達へと声を上げる。それにハッとしつつボスへ攻撃を仕掛ければ取り巻き達はクルンと振り返り此方へ移動を開始した。
その様子を繁々と見つめていたティタがふと問いかけた。
『ふうたんさー。もしかして、初めて狩った時ってそのまま動かずにやった?』
『……はい』
『そっか~』
何かを納得したように頷くティタ。一体何が分かったのだろうか? 事情説明を求めるべくティタに視線を投げた。それを受けたティタは大きく息を吐き出しボスから距離を取る。そこへ再びロゼの矢がボスを貫き取り巻き達がロゼへと向かう。
『簡単な事だよ。ふうたん達が討伐した時、取り巻きこみでボスをやってたって事。俺らみたいに取り巻きをボスから離したりしてなかった。要は、ボスの周囲から取り巻きを離すことで範囲攻撃とか連撃とかを受けないように出来る仕様なんだと思うよ?』
『ボスに回復を飛ばす聖はどうかはわからないけどね』と付け加えたティタの説明に肩の力が抜けるのを感じる。
聖属性のフェアリーの回復は動き回ろうと出来るのではないか? と疑問が無いわけではないが動き出した闇属性の即時発動するはずの範囲攻撃が来ない理由としては十分だと考えた。
『ってことで、このまま押しきっちゃおう』
『了解』
『はい』
『そろそろ攻撃してくれ。じゃないと俺が死ぬ……予感がする』
爽やかな笑顔を浮かべ両手の剣を構え直すティタにつられるように、その他のPTメンバー達も笑顔になった。そこへ取り巻きが迫るロゼの悲痛な声が響き慌てて皆でボスへ攻撃する。
ティタとロゼの阿吽の呼吸で攻撃が繰り返され取り巻き達は何もできないまま二人の間を行き来する。そうこうする内にボスの残りHPも一割を割り込んだ。
激しくなるボスの旋回する動きに徐々に被ダメが増え始める。
『うおぉぉ。いてぇ!』
『回復飛ばす』
『バフ』
表情を歪め痛そうに声を上げる柊に光合成が即時回復を飛ばす。ボスから距離を取りバフを入れる。とここで、初めて取り巻きの聖属性のフェアリーが中央付近で立ち止まりクルクルと数回回転する。それと同時にボスの周囲に白金に輝く十字のエフェクトを上げた。周囲のフェアリー達には回復エフェクトの光が上がらない。何故だろう? そう考えるよりも先に攻撃事態をしていなかったと思いなおした。
どれ位回復したのか? 嫌な汗が背中を伝う。それでも確認しなければとボスのHPバーを確認する。さっきより増えた? と疑問に思う程度の回復のようだった。これならばさくっと終わるだろうと心なしか安堵しつつ攻撃を繰り出した。
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