第232話 最強はイベントに励む⑫
オーフェンスパワー――最大ダメージ二倍の効果を持つ三次職双剣スキルの一つ――を発動しティタがボスに斬りかかり見事にクリティカル音が鳴った。すると、私を追いかけていた取り巻きが、ティタの方へと飛んでいく。
『ロゼが攻撃して、取り巻きがロゼの側に行ったらボスに攻撃してね』
『『『はい』』』
ティタの指示に各々が頷き了解を示した所で、ロゼが所定の場所に到着したようだ。弓を引きスキルを発動するロゼが矢を放つ。が、少し遠すぎたようで矢は届かず消滅してしまった。それを見ていたロゼは苦笑いを浮かべながら足りなかった分の距離を詰める。
そして再び、スキルを込めて矢を放った。数舜後、パンッと言うクリティカル音が鳴り、その後を追うようにバリバリっと雷が弾ける音が上がる。
『うしっ!』
片手を挙げてガッツポーズを決めるロゼに、ティタの元へたどり着こうとしていた取り巻きたちが次々ロゼへ向かって移動を始めた。
これを繰り返し、スキマスキマを狙ってボスを攻撃すれば、多分攻略する事ができるだろう。まだ確実ではないが、取り巻きからの攻撃が無くなる分動きやすくなるはずだ。
『じゃ、そろそろ攻撃しようか~』
楽しそうなティタがボスへ剣を振り下ろす。それに合わせ私も他の面々も攻撃を入れた。SGは攻撃を統一するように雷系のスキルを使っている。いつの間にかクラチャで相談して決まったのだろう。
それからは楽なもので、取り巻きたちに攻撃をさせないようタイミングを計り攻撃をしていった。
『こうすると楽なんですね~』
『回復も攻撃できるの良いっすね』
『うむ』
楽しそうに弾んだ声で会話をするSGの皆さんたちの様子を耳にしつつ眉間に皺を寄せるティタへ視線を向ける。
[[キヨシ] ぬおおおおおお]
[[ren] ティタ。どうかした?]
[[黒龍] お前またカジノだろ?w]
[[宮様] 馬鹿はほっておいて、狩り行きましょう]
[[聖劉] イベント狩場混んでそうだね~]
[[ティタ] あぁ、いや。ちょっと説明難しいんだけど
……この白と銀が動かないから気になって]
[[源次] お! renたち居るなら一緒に狩り行こうぜ? 俺あぶれた組]
[[ベルゼ] おうw]
[[大次郎先生] あぁ、源次、私ちょっと
露店の方色々としたいから行っていいよ]
[[ren] なる。私も気にはなってるけど、聞いてみて?]
いつの間にかログインしてきていたらしいクラメン達は相変わらず賑やかだ。そんな会話をぶった切りティタと話す。ティタが気になっているのは、ボスの左右に陣取った白と銀――多分、聖と闇に当たる――のフェアリーの事だろう。
この二匹は他の取り巻きのフェアリーと違い一切ボスの側から離れない上に、攻撃もしてこないでただボスの側で羽を動かし浮かんでいるだけなのだ。何故は離れないのか攻撃してこないのかは初見なため不明で、ぶっちゃけ不気味な存在と化していた。そのため、ティタも警戒していたようだ。
形体変化したボスは、短刀を両手に持ち羽を使いティタの周囲を飛び回る。その動きは早く、通り過ぎる度にギュンやビュンと言った音で耳に届く。それを難なく避けながらティタはふうたんをチラ見する。
『ふうたん。ちょっと聞いていいかな?』
『なんでしょうか~?』
間延びした気の抜ける封単の返事に苦笑いを浮かべたティタは、ボスの周囲にいる二匹について聞く。すると『なんか~。この間倒した時は~、確か~』とふうたんは言いつつ説明をしてくれた。
ふうたんの説明を簡潔にまとめると。ボスの周囲に居る白いフェアリーが聖属性。銀のフェアリーが闇属性で間違いないそうだ。その上でどういった動きをするのかと言うとボスのHPが二割を切ったところで聖はボスに回復を、闇は私達プレイヤーに対して麻痺や強毒、暗視などのデバフを振りまくようになる。それまではただ何もせず側に浮いているだけらしい。
『もしかして、範囲の強烈なデバフ使うのって闇の方?』
『そうですよ~』
『ren。闇、先にやった方が良くない?』
ティタの提案は一理ある。闇の範囲でバフが強烈なのだとすれば先に潰しておいた方が後々回復が楽になる。ついでに聖も潰しておきたいところだ。だけど、気になる事もある。
『取り巻きに魔法って有効なの?』
私の質問にふうたんが首を傾げる。
えっ、まさか……取り巻きを狩った事が無いのだろうか? ま、まぁ、一度しかやっていないのであれば試していなくても仕方がない話だよね。うん。
判らないものは試すしかない。何かがあって死んだとしてもティタが復活させてくれるだろうと考えて刀から杖へと装備を変えた。
『試す?』
『うん。死んだら起こして』
『了解』
私が装備を変えたのを見止めたティタと短く会話を交わし頷き合う。とりあえず優先すべきはバフなので、先にバフの更新を入れた。
そして、いよいよ闇のフェアリー目掛け攻撃をしかけるため背後に陣取る。
今回使う杖は、聖属性MAXの+20ヴァナルガンドだ。
このヴァナルガンドは、北欧神話に登場するフェンリル狼の別名であり、破壊の杖と言う意味を持つ杖だ。破壊の杖と言う名前から、魔法攻撃力に特化した杖である。
ひとまず先に、魔法が効くかどうかを確認するため設置型のホーリークロス(+15)を設置して詠唱発動した。
闇のフェアリーの足元から上がった白金の光が十字の形を取り闇のフェアリーのお腹を串刺しにする。立ち上がった十字の光は数秒の間フェアリーへダメージを与え消えた。
直ぐにダメージをシステムログで確認する。与えたダメージは0どころか、魔法を発動した事だけが乗っていて闇のフェアリーに対する攻撃効果表示されていなかった。この結果から私が導き出した答えは、周囲に見える木々と同じ飾り状態だと言う事だ。
『どう?』
期待するような視線を向けるティタの声に私は首を横に振る。
『効いてない?』
『いや、魔法無効とかじゃなくって、今はただの飾り状態だね』
『え、それって……そのこらへんの木みたいなもの?』
『そう』
明らかに落胆した様子を見せるティタに何と言葉をかけていいのか悩む。しかし、そんな私を他所に、ティタは次の瞬間には気持ちを切り替えたのか、八つ当たりなのかボスに対し攻撃を繰り出していた。
その様子に安堵すると共に小さく息を吐きだす。どのゲームでもそうだが、ボスの討伐において盾役のモチベーションは非常に大事な事だ。
『ロゼ』
『おう』
取り巻きが近づきティタがロゼを呼ぶ。返事をすると同時にロゼの矢がボスを射抜き雑魚がロゼへと移動する。
そんな二人のやり取りを尻目に私もまた武器を二刀に持ち替え、ローブから軽鎧へと変更した。なんやかんやとやりながらもボスのHPは残り三割。あと一割削れば闇と聖が動き出す――。
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